【豆知識54】台風の進路|途中で進路を変える転向型と変えない西進型

はじめに

 台風による暴風雨や高潮の発生リスクは、台風の位置や進路と密接に関係しています。そのため、台風の進路を正確に予測することは、防災上とても重要です。
 台風は、太平洋高気圧(豆知識40)に伴う大規模な風の流れや、中緯度の偏西風(豆知識8)の影響を受けて移動します。
 今回の豆知識では、模式図や実際の天気図を用いて台風の進路についてお話しするとともに、気象庁が発表する台風経路図の見方について紹介します。

台風の進路

 台風は、周囲を吹く大規模な風一般流)に流されながら移動します。日本付近では、台風の進路は太平洋高気圧(図1①)の位置や勢力に大きく左右されるため、その動向を把握することが進路予報の基本となります。古くから、「台風は太平洋高気圧を囲む特定の等高度線、例えば500hPa天気図5880m等高度線(図1②)の走向に沿って進む」という経験則が知られており、現在でも台風の進路を概観する際の目安として利用されています。
 一方、一般流だけではなく、地球の自転によるコリオリ力(豆知識3)が緯度によって変化することによって生じる「ベータ効果」も、台風の進路に影響します。この効果によって、台風は一般流がなくても北西~北北西方向へ毎時数km程度移動する性質があります。特に低緯度では一般流が弱いため、この効果は無視できません。
 熱帯収束帯で発生した台風は、その北側を吹く偏東風(太平洋高気圧の南縁を吹く東風)に流され、西へ進みます(図1③)。しかし同時にベータ効果も働くため、北向きの移動成分が加わり、次第に熱帯収束帯から離れていきます(図1④)。

図1 太平洋高気圧の位置と台風の進路の例(模式図)
注)図中の①~⑨の内容は、本文参照。

 その後、台風は太平洋高気圧の東西方向に延びる気圧の尾根(リッジ)付近(図1⑤)まで達すると、それまでの西寄りの進路から北寄りへ、さらに東寄りへと進路を変えることが多くあります。この進路変更を転向(図1⑥)と呼び、その場所を転向点といいます。
 台風は転向点付近では移動速度が遅くなる傾向があります。その後は、中緯度の偏西風帯の一般流に流されるため(図1⑦)、移動速度を増しながら北東へ進む(図1⑧)ことが多くなります。
 ただし、特に8月は南北の気温差が小さいため対流圏中層の一般流が弱く、台風の進路が定まりにくくなることがあります。このように進路が複雑になる台風は、「迷走台風」と呼ばれることがあります。
 また、台風が必ず転向するとは限りません。太平洋高気圧の位置や勢力によっては、転向せずそのまま西へ進む場合もあります(図1⑨)。
 以上のように、台風の進路は大きく「転向型」と「西進型」に分類できます(図1)。

台風の進路における転向型と西進型の事例

 前述のとおり、「台風は太平洋高気圧を囲む特定の等高度線、例えば500hPa天気図の5880m等高度線(図1②)の走向に沿って進む」という経験則が知られています。
 太平洋高気圧は、背が高い高気圧です(豆知識40)。このため、下層から上層まで、ほぼ同じ位置に同じような形状をしており、地上天気図だけでもおよその台風の進路を推測できる場合があります。

 以下に転向型の台風7事例(2005年9月1~7日の台風14号、2011年7月13~20日の台風6号、2012年8月21~28日の台風15号、2014年7月5~10日の台風8号、2014年10月6~13日の台風19号、2018年8月31日~9月4日の台風21号、2019年10月7~12日の台風19号)と、西進型の台風4事例(2013年7月9~14日の台風7号、2015年8月3~9日の台風13号、2016年9月24~28日の台風17号、2018年7月7~11日の台風8号)を紹介します。各期間の9時の地上天気図500hPa天気図を時系列に並べ、台風の進路と太平洋高気圧との関係を確認してみます。

転向型の台風(7事例)

 2005年9月1~7日の台風14号に関する天気図を、図2に示します。一番上の左側は、9月1日9時の地上天気図、右側は同時刻の500hPa天気図です。その下には、9月2、3、4、5、6、7日9時の地上天気図と500hPa天気図を順に並べています。
 地上天気図では、台風の進行方向は白抜きの矢印で示されています。図2では、台風が西寄りの進路(9月1~2日)から北寄りへ(9月2~6日)、さらに東寄りへ(9月7日)と進路を変えることを確認できます。
 次に、500hPa天気図を見てみましょう。等圧面上(例えば500hPa面)の等高度線は、地上天気図の等圧線と全く同じ概念で見ることができます(豆知識2)。今回は、赤で示した5880m等高度線に注目します。
 図1で述べたとおり、この等高度線は太平洋高気圧の勢力範囲を示す目安となります。図2の500hPa天気図を見ると、台風はこの赤で示した5880m等高度線走向に沿って進んでおり、太平洋高気圧の周辺を回るように移動している様子が分かります。
 他の6つの事例(図3~8)についても、同様の特徴が見られます。

2005年9月1~7日の台風14号

図2  2005年9月1~7日の各9時の地上天気図(左側)と500hPa天気図(右側)
注)すべての図は気象庁提供。500hPa天気図は、地上天気図と対応する地域のみ掲載。注目する台風の位置を、地上天気図では赤の矢印、500hPa天気図では青の矢印で示した(地上天気図において台風の進行方向は、白抜きの矢印で示されている点に注意)。500hPa天気図において、5880mの等高度線を赤色で示した。

2011年7月13~20日の台風6号

図3  2011年7月13~20日の各9時の地上天気図(左側)と500hPa天気図(右側)
注)図の注釈は、図2を参照。

2012年8月21~28日の台風15号

図4  2012年8月21~28日の各9時の地上天気図(左側)と500hPa天気図(右側)
注)図の注釈は、図2を参照。

2014年7月5~10日の台風8号

図5  2014年7月5~10日の各9時の地上天気図(左側)と500hPa天気図(右側)
注)図の注釈は、図2を参照。

2014年10月6~13日の台風19号

図6  2014年10月6~13日の各9時の地上天気図(左側)と500hPa天気図(右側)
注)図の注釈は、図2を参照。

2018年8月31日~9月4日の台風21号

図7  2018年8月31日~9月4日の各9時の地上天気図(左側)と500hPa天気図(右側)
注)図の注釈は、図2を参照。

2019年10月7~12日の台風19号

図8  2019年10月7~12日の各9時の地上天気図(左側)と500hPa天気図(右側)
注)図の注釈は、図2を参照。

西進型の台風(4事例)

 2013年7月9~13日の台風7号に関する天気図を、図9に示します。
 地上天気図では、台風が7月9~13日にかけて、進路を変えることなく(転向せず)、西寄りに進んでいることを確認できます。500hPa天気図では、台風は赤で示した5880m等高度線の走向に沿って進んでいることが確認できます。
 他の3つの事例(図10~12)についても、同様の特徴が見られます。

2013年7月9~13日の台風7号

図9  2013年7月9~13日の各9時の地上天気図(左側)と500hPa天気図(右側)
注)図の注釈は、図2を参照。

2015年8月3~9日の台風13号

図10  2015年8月3~9日の各9時の地上天気図(左側)と500hPa天気図(右側)
注)図の注釈は、図2を参照。

2016年9月24~28日の台風17号

図11  2016年9月24~28日の各9時の地上天気図(左側)と500hPa天気図(右側)
注)図の注釈は、図2を参照。

2018年7月7~11日の台風8号

図12  2018年7月7~11日の各9時の地上天気図(左側)と500hPa天気図(右側)
注)図の注釈は、図2を参照。

台風の進路予報

 気象庁からは、台風に関連して「台風経路図」、「暴風域に入る確率」、「台風に関する全般気象解説」などが発表されます。このうち、台風経路図(実況と5日先までの予報)についてお話します。
 図13をご覧ください。これは、2026年8月1日21時50分に発表された台風13号に関する台風経路図の一部を抜粋したものです。なお、緑色の線で囲んだ【実況】【予報】は、説明のために私が加筆したものです。
 まず実況についてです。現在の台風の中心位置は×印で示されます。赤色の太実線の円内暴風域黄色の実線の円内強風域です(暴風域と強風域の定義は豆知識51参照)。また、青い実線は現在までの台風経路を示しています。

図13 気象庁の台風経路図の抜粋(一部加筆)
注)2026年8月1日21時50分に発表された台風13号に関する情報(21時の予報)

 次に予報についてです。白い破線で示した円予報円で、予報した時刻に台風の中心が到達すると予想される範囲を示しています。この円内に台風の中心が入る確率は70%です。また、予報円の中心を結んだ白色の破線は、予想される進路の目安を示したものであり、台風の中心が必ずこの線に沿って進むわけでないことに注意が必要です。さらに、予報円の外側を囲む赤色の実線内の領域は暴風警戒域で、台風の中心が予報円内を進んだ場合に、5日先までに暴風域に入るおそれのある範囲全体を示しています。

 以上が台風経路図の概要です。実際の気象庁のwebサイトでは、経路図内の各時刻の台風の位置をクリックすると、位置や強度の実況・予報を表形式で確認できます。詳細については、気象庁のwebサイトをご覧ください。

過去の気象予報士の試験問題

 過去の気象予報士試験において、台風の進路に関する問題が出された例を、以下に紹介します。

第64回気象予報士試験 学科

図14 第64回学科 専門知識問10
 
  (d)に関しては、「台風の進路」の項目で述べたとおり、台風は地球の自転の効果によって北西~北北西方向へ移動する性質(ベータ効果と呼ばれる)があります。よって、問題文(d)は、誤りです。

第62回気象予報士試験 学科

図15 第62回学科 専門知識問11

 (a)に関しては、図1を用いて述べたとおり、台風は発生後しばらくの間、偏東風に流され西に進むことが多いです。よって、問題文(a)は、正しいです。

第61回気象予報士試験 学科

図16 第61回学科 専門知識問10

 (c)に関しては、熱帯低気圧は台風に比べてしっかりとした構造を持っておらず、その後の進路の予報が難しいことを反映し、予報円は台風のそれよりも大きい傾向があります。よって、問題文(c)は、正しいです。

第20回気象予報士試験 学科

図17 第20回学科 専門知識問9

 ④に関しては、二つの台風が接近すると、それらの中間点のまわりを反時計回りに回転するような動きをすることがあります。この動きは、それぞれの台風が、相手の台風の風に流される結果と考えることができます。よって、問題文④は、正しいです。

注)この現象は、元中央気象台長(中央気象台は気象庁の前身)の藤原博士によって見つけられたので藤原の効果と呼ばれています。ただし、実際には台風の進路には別の台風だけでなく様々な要素が影響するため、現在気象庁では「藤原の効果」を予報用語としては使用していません。

さいごに

 今回は、台風シリーズの第4回として、台風の進路をテーマにお話ししました。
 台風経路図(図13)では、一般に予報円は1日後よりも2日後、3日後、4日後、5日後と、先の予報になるほど大きくなります。これは、台風そのものがだんだん大きくなるという意味ではありません。予報の対象となる時刻が先になるほど、台風の中心がどの位置に達するかを予測することが難しくなるため、予報円が大きくなるのです。
 また、時間の経過とともに台風は移動し、その先の予報も更新されます。台風の進路を正しく把握するため、最新の予報を確認するようにしましょう。
 次回は、台風が衰弱して熱帯低気圧になったり、温帯低気圧へ変化したりすることについて、お話しする予定です。

今回の豆知識で参考にした図書等

●浅井冨雄,内田英治,河村 武 監修(1999)増補 気象の事典,平凡社
●安斎政雄(1998)新・天気予報の手引(改訂29版),日本気象協会
●伊藤耕介(2023)台風強度に関する近年の研究の進展について,日本風工学会誌48: 261-267
●岩槻秀明(2017)気象学のキホンがよ~くわかる本(第3版),秀和システム
●小倉義光(1994) お天気の科学-気象災害から身を守るために-,森北出版
●片岡久美(2003)北太平洋西部中緯度における台風にまで発達した擾乱の経路,天気50: 705-714
●気象業務支援センターのwebサイト
●気象庁のwebサイト
●気象庁(2020)台風進路予報の予報円改善について,令和元年度予報技術研修テキスト, 気象庁
●北畠尚子 (2025) 総観気象学 基礎編(改訂版),気象庁
●佐藤正樹,佐藤芳昭,八代 尚,伊藤耕介,筆保弘徳,三好建正,川畑拓矢,坪木和久,堀之内 武,岡本幸三,山口宗彦,中野満寿男,和田章義,金田幸恵,辻野智紀(2022)今後の台風予測研究に関する展望,天気69: 285-294
●中島俊夫(2022)イラスト図解 よくわかる気象学 実技編,ナツメ社
●西村修司, 福田純也(2019)台風進路予報の高度化,平成30年度予報技術研修テキスト,気象庁予報部,114-141
●饒村 曜(2005)気象予報士 完全合格教本,新星出版社
●山口宗彦, 嶋田宇大, 沢田雅洋, 入口武史, 大和田浩美(2019)台風予報・解析技術高度化プロジェクトチームによる5日先台風強度予報ガイダンスの開発,気象研究所技術報告, 82

この記事を書いた人
よほうし5823

気象予報士第5823号。博士(農学)。複雑な天気のしくみを、分かりやすく説明できるようになりたいです。そのために、日々勉強中です。

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