はじめに
今回の豆知識から、しばらくの間「台風」をテーマにします。台風は、夏から秋にかけて毎年のように日本に接近・上陸し、時に甚大な災害を引き起こします。
台風シリーズの1回目となる今回は、台風の「発生」「暴風域と強風域」「大きさと強さ」「上陸・通過・接近」といった重要ポイントを整理します。
なお、台風は最初から台風として存在するわけではありません。熱帯の海上で発生した「熱帯低気圧」が発達することで台風となります。そこでまずは、台風の出発点となる「熱帯低気圧」についてみていきます。
世界各地の熱帯低気圧
熱帯の海上で発生し、前線を伴わない低気圧を「熱帯低気圧」といいます。熱帯低気圧は赤道近くの海上で発生した後、発達し、世界各地に影響を与えています。
熱帯低気圧のうち、北西太平洋域(赤道以北で東経100度から180度の範囲)に存在し、低気圧域内の最大風速(10分間平均)が17.2 m/s(34ノット)以上に達したものを「台風」と呼びます(図1)。

図1 世界各地の熱帯低気圧
また、東経180度より東側の太平洋や北大西洋、カリブ海などに位置する熱帯低気圧のうち、最大風速が33 m/s(64ノット)以上となったものは「ハリケーン」と呼ばれます(図1)。なお、ハリケーンが西経域から180度線を越えて東経域に入った場合、その時点で名称は「台風」に変わります。
さらに、南インド洋、オーストラリア周辺、南太平洋などに位置するものは「サイクロン」と呼ばれます(図1)。なお、台風が西へ進んで東経100度付近より西の領域に移動した場合には、その地域の運用に応じて、台風とは異なる名称(サイクロンなど)で扱われることがあります。
台風(熱帯低気圧)の発生
台風の発生について、もう少し詳しくみてみましょう。
南半球の低緯度側では南東貿易風(図2②)が吹いています。これが赤道を越えて北半球に入り込み、北半球の低緯度側で吹く北東貿易風(図2①)とぶつかる帯状の領域を熱帯収束帯(図2③)と呼びます(図2)。
熱帯収束帯は、両半球の貿易風が収束(豆知識7)することで上昇気流が生じる場となり、雲の発生が多い領域となります(図3)。そこでは、積乱雲が日常的に発生しており、積乱雲の群が大気の渦巻きと合体して組織化されることがあります。これが熱帯低気圧です。

図2 暖候期(北半球)における熱帯収束帯の位置(模式図)

図3 2004年8月19日18時の気象衛星による赤外画像(東南アジアや太平洋の一部を含む領域)
注)高知大学気象情報頁 (http://weather.is.kochi-u.ac.jp/) による。
台風のエネルギー源は、海面から蒸発した水蒸気です(詳細は豆知識53で紹介予定)。このため台風(熱帯低気圧)の大部分は、海面水温が約26~27℃以上の暖かくて湿った空気が存在する北緯5~20度の海域で発生します。一方で、北緯5度以南の赤道付近の海域ではほとんど発生しません。
この理由の一つは、低緯度ほど地球の自転の影響を受けにくくコリオリ力(豆知識3)が小さくなり、大気の渦巻きができにくくなるためです。特に赤道ではコリオリ力は0であり、渦巻きができず、効率的に暖かく湿った空気を集めることができません。これらのことから、赤道から北緯5度付近までは、積乱雲が組織化されて熱帯低気圧へ発達するには至らないと考えられています。
暴風域と強風域
1.瞬間風速と風速
台風に関する情報では、「最大瞬間風速」と「最大風速」という二つの用語がよく使われます。豆知識4でも触れましたが、ここで改めて整理しておきましょう。
風速はたえず変化するので、瞬間値と10分間の平均値の2種類で表されます。
気象庁では、瞬間風速を「風速計の測定値(0.25秒間隔)を、3秒間平均した値(測定値12個の平均値)」と定義しています。最大瞬間風速とは、この瞬間風速のうち最も大きい値です。
一方、風速とは「10分間平均風速」を指し、最大風速はその平均風速の最大値を意味します。
2.暴風域と強風域
気象庁が発表する台風情報(台風経路図)では、現在の台風中心位置が×印で示されます(図4)。その周囲には、状況に応じて、強風域のみ、または強風域と暴風域などが表示されます。
●暴風域(図4における赤色の太実線の円)
10分間平均風速が 25 m/s以上の暴風が吹いている、または吹く可能性のある範囲です。なお、暴風域の外側でも、瞬間的には25 m/s以上の風が吹くことがあります。
●強風域(図4における黄色の実線の円)
10分間平均風速が 15 m/s以上の強風が吹いている、または吹く可能性のある範囲です。

図4 気象庁の台風経路図(一部抜粋)
注)2022年9月16日9時50分に発表された台風14号の16日9時現在の中心位置(×)、暴風域(赤い円内)、強風域(黄色い円内)。
台風の大きさと強さ
気象庁が発表する台風情報では、「大型で強い台風」や「超大型で猛烈な台風」のように、台風の大きさと強さを表す言葉が用いられています。ただし、その分類基準や表現方法は時代とともに変化してきました。
1.1960年代~1991年3月
台風の大きさと強さを表現する区分は、1960年代から用いられてきました。しかし、当時は台風周辺の風の観測が難しかったため、大きさは主に1000hPaの等圧線の半径、強さは主に中心気圧を基準として分類していました。
2.1991年4 月~2000年5月
1991年4月、大きさと強さの分類基準は、それまでの気圧を重視したものから、災害に直接関係する風速を基準としたものへ改められました。その背景には、気象衛星によって台風の風の分布を高い精度で解析できるようになったことがあります。
具体的には、表1、表2に示すように、風速(10分間平均)を基準として台風の「大きさ」と「強さ」を表現するようになりました。すなわち「大きさ」は強風域(風速15m/s以上の風が吹いている、または吹く可能性のある範囲)の半径で(表1)、「強さ」は最大風速で(表2)、それぞれ区分されました。
当時は、大きさの階級が5段階、強さの階級も5段階に分類されていました。


3.2000年6月~現在(2026年)
1999年8月に発生した神奈川県の玄倉川水難事故を契機に、「小さい」「弱い」といった表現が、一般の情報利用者に「今回の台風はそれほど危険ではない」という誤解(過小評価)を与えるおそれがあるとして、2000年6月に表現の見直しが行われました。
その結果、台風の大きさについては「ごく小さい」「小型」「中型」という表現は使用しないことになりました。同様に、強さについても「弱い」「並の強さ」という表現は使用しないことになり、現在に至っています(表1、2)。
例えば、強風域の半径が700kmで最大風速が45m/sの台風は、現在でも「大型で非常に強い台風」と表現されます。一方、強風域の半径が200kmで最大風速が35m/sの台風は、2000年以前は「小型で強い台風」と表現されていました。しかし、2000年6月以降は「小型」という表現が用いられなくなったため、「強い台風」と表現されています(表1、表2)。
台風の上陸、通過、接近
1.定義
台風の上陸、通過、および接近についての気象庁の定義は表3のとおりです。台風の中心が沖縄本島などの島の真上を通過しても「上陸」には含めないことになっています。

アメダスなどの風、気象レーダーの画像、海面気圧(海面更正された気圧,豆知識24)のデータから、それぞれに渦の中心が求められる場合、台風の上陸の判定には、海面気圧から求めた渦の中心が優先して用いられます。
2.年間の発生、接近、上陸数
30年間(1991~2020年)の平均をみると、年間で約25個の台風が発生し、約12個が日本に接近し、約3個が日本に上陸しています。発生数、接近数、上陸数はいずれも7月から10月に多く、特に8~9月に多い傾向があります(図5)。

図5 月別にみた台風の発生・接近・上陸数の平年値(1991~2020年の30年平均)
注)気象庁のwebサイト(気象庁ホーム>知識・解説>台風について>台風の発生、接近、上陸、経路)に掲載されている図をそのまま引用した。「接近」は台風の中心が国内のいずれかの気象官署から300 km以内に入った場合を指す。「上陸」は台風の中心が北海道、本州、四国、九州の海岸線に達した場合を指す。
過去の気象予報士の試験問題
過去の気象予報士試験において、台風の「発生」「暴風域と強風域」「大きさと強さ」「上陸・通過・接近」などに関する問題が出された例を、以下に紹介します。
第65回気象予報士試験 学科

図6 第65回学科 専門知識問11
(a)に関しては、「台風(熱帯低気圧)の発生」の項目で述べたとおり、台風(熱帯低気圧)の大部分は、北緯5~20度の海域で発生し、北緯5度以南の赤道付近の海域ではほとんど発生しません。よって、問題文(a)は、正しいです。
第60回気象予報士試験 学科

図7 第60回学科 専門知識問10
(d)に関しては、表2を用いて述べたとおり、台風の強さは最大風速で分類されています。よって、問題文(d)は、誤りです。
第57回気象予報士試験 学科

図8 第57回学科 専門知識問10
(a)に関しては、「台風(熱帯低気圧)の発生」の項目で述べたとおり、台風(熱帯低気圧)の大部分は、北緯5~20度の海域で発生し、北緯5度以南の赤道付近の海域ではほとんど発生しません。よって、問題文(a)は、誤りです。
第52回気象予報士試験 学科

図9 第52回学科 専門知識問11
(a)に関しては、「暴風域と強風域」の項目で述べたとおり、暴風域は10分間平均風速が 25 m/s以上の暴風が吹いている、または吹く可能性のある範囲です。よって、問題文(a)は、正しいです。
(c)の上陸と通過の定義に関しては、表3を用いて述べたとおりです。問題文(c)は、正しいです。
第50回気象予報士試験 学科

図10 第50回学科 専門知識問11
(a)に関しては、「台風(熱帯低気圧)の発生」の項目で述べたとおり、台風(熱帯低気圧)の大部分は、北緯5~20度の海域で発生し、北緯5度以南の赤道付近の海域ではほとんど発生しません。よって、問題文(a)は、誤りです。
第48回気象予報士試験 学科

図11 第48回学科 専門知識問14
(d)に関しては、表1を用いて述べたとおり、台風の大きさは強風域の半径で分類されています。よって、問題文(d)の下線部は、誤りです。
第44回気象予報士試験 学科

図12 第44回学科 専門知識問10
(a)に関しては、表3を用いて述べたとおり、上陸とは台風の中心が北海道・本州・四国・九州の海岸に達した場合を言います。沖縄本島は含みません。よって、問題文(a)は、誤りです。
(b)に関しては、「台風の上陸、通過、接近」の項目で述べたとおり、台風の上陸の判定には、海面気圧から求めた渦の中心が優先して用いられます。よって、問題文(b)は、正しいです。
(c)に関しては、台風が上陸すると、地形の影響によって台風の中心に対応する渦が複数に分かれ、別々に進むことがあります。この場合、実況や予想資料から、この後持続できると判断できる方を台風の中心位置として決定します。よって、問題文(c)は、誤りです。
第40回気象予報士試験 学科

図13 第40回学科 専門知識問12
(a)に関しては、表1を用いて述べたとおり、台風の大きさは風速15m/s以上の強風域の半径で分類されています。よって、問題文(a)は、正しいです。
(b)に関しては、表1を用いて述べたとおり、2000年6月以降「小型」の表現は使っていません。よって、問題文(b)は、誤りです。
(c)に関しては、表2を用いて述べたとおり、台風の強さは最大風速で分類されています。よって、問題文(c)は、誤りです。
(d)に関しては、表2を用いて述べたとおり、強い台風の最大風速は33m/s以上44m/s未満であり、暴風域の定義である最大風速25m/s以上の範囲を含んでいます。よって、問題文(d)は、誤りです。
第37回気象予報士試験 学科

図14 第37回学科 専門知識問8
(a)に関しては、「台風(熱帯低気圧)の発生」の項目で述べたとおり、台風(熱帯低気圧)の大部分は、北緯5~20度の海域で発生し、北緯5度以南の赤道付近の海域ではほとんど発生しません。よって、問題文(a)は、正しいです。
(d)に関しては、「強風域と暴風域」の項目で述べたとおり、暴風域とは平均風速が 25 m/s以上の暴風が吹いている、または吹く可能性のある範囲です。よって、問題文(d)は、誤りです。
第33回気象予報士試験 学科

図15 第33回学科 一般知識問11
(a)に関しては、「台風(熱帯低気圧)の発生」の項目で述べたとおり、組織化して熱帯低気圧になるにはコリオリ力が重要です。よって、問題文(a)の下線部は、正しいです。
第30回気象予報士試験 学科

図16 第30回学科 専門知識問13
(a)に関しては、表1を用いて述べたとおり、台風の大きさは風速15m/s以上の強風域の半径で分類されています。よって、問題文(a)は、誤りです。
(b)に関しては、表2を用いて述べたとおり、台風の強さは最大風速で分類されています。よって、問題文(b)は、誤りです。
(c)に関しては、「強風域と暴風域」の項目で述べたとおり、暴風域とは平均風速が 25 m/s以上の暴風が吹いている、または吹く可能性のある範囲です。よって、問題文(c)は、誤りです。
第27回気象予報士試験 学科

図17 第27回学科 一般知識問6
下線部(a)に関しては、「台風(熱帯低気圧)の発生」の項目で述べたとおり、台風の発生にはコリオリ力の効果が重要です。よって、下線部(a)は、誤りです。
第25回気象予報士試験 学科

図18 第25回学科 専門知識問7
(a)に関しては、「世界各地の熱帯低気圧」の項目で、台風の定義を述べました。問題文(a)は、正しいです。
(b)に関しては、「世界各地の熱帯低気圧」の項目で、ハリケーンの定義を述べました。問題文(b)は、正しいです。
第18回気象予報士試験 学科

図19 第18回学科 一般知識問5
下線部(a)に関しては、「台風(熱帯低気圧)の発生」の項目で述べたとおり、台風の発生にはコリオリ力の効果が重要です。よって、下線部(a)は、正しいです。
第15回気象予報士試験 学科

図20 第15回学科 専門知識問8
(c)に関しては、「強風域と暴風域」の項目で述べたとおり、暴風域の外側でも、瞬間的には25 m/s以上の風が吹くことがあります。よって、問題文(c)は、正しいです。
さいごに
今回は、台風シリーズの1回目として、台風の「発生」「暴風域と強風域」「大きさと強さ」「上陸・通過・接近」などについてお話しました。
このうち「大きさと強さ」については、台風接近時に、一部のマスコミ報道などで「過去最強クラスの台風」といった表現が使われることがあります。しかし、気象庁では風速などの客観的な基準に基づいて「大きさ」と「強さ」の階級を区分しており(表1、2)、その意味を正しく理解しておくことが大切です。
次回は、台風の接近・通過に伴う、気圧や風向・風速の変化などについて紹介する予定です。
今回の豆知識で参考にした図書等
●青木 孝(1992)近年の台風の発生と上陸について,水文・水資源学会誌5: 4-9
●浅井冨雄,内田英治,河村 武 監修(1999)増補 気象の事典,平凡社
●安斎政雄(1998)新・天気予報の手引(改訂29版),日本気象協会
●伊藤耕介(2023)台風強度に関する近年の研究の進展について,日本風工学会誌48: 261-267
●岩槻秀明(2017)気象学のキホンがよ~くわかる本(第3版),秀和システム
●大西晴夫(1991)熱帯低気圧に関する国際協力の現状と台風特別実験について,天気38: 739-746
●大西晴夫 ほか(2023)よくわかる天気・気象,ユーキャン学び出版
●小倉義光(1994) お天気の科学-気象災害から身を守るために-,森北出版
●小倉義光(1999) 一般気象学(第2版),東京大学出版会
●気象衛星センター(2004)気象衛星画像の解析と利用-熱帯低気圧編-,気象衛星センター
●気象庁のwebサイト
●気象業務支援センターのwebサイト
●北畠尚子 (2025) 総観気象学 基礎編(改訂版),気象庁
●木村龍治(2007)海と気象,日本海水学会誌61: 89-94
●熊澤里枝,筆保弘徳,久保田尚之(2016)1900年から2014年における日本の台風上陸数,天気63: 855-861
●高知大学のwebサイト(気象情報頁)
●竹内義明(2015)巨大台風を科学する,表面科学36: 382-384
●中島俊夫(2022)イラスト図解 よくわかる気象学 実技編,ナツメ社
●饒村 曜(2005)気象予報士 完全合格教本,新星出版社
●野中信英(2005)北西太平洋域における台風の発生形態の特徴,気象衛星センター技術報告46: 15-32
●長谷川隆司,上田 文夫,柿本 太三(2006)気象衛星画像の見方と使い方,オーム社
●宮本佳明(2017)台風の急発達メカニズムと強風,日本風工学会誌42: 15-22
●村上裕之(2011)熱帯低気圧発生に関する指標,天気58: 78-80
●村松照男(2008)1.台風防災の原点:伊勢湾台風から50年,天気55: 362-369
