【豆知識40】背が高い高気圧である、温暖高気圧とは|太平洋高気圧を中心に紹介

はじめに

 豆知識39では、背が低い高気圧である、寒冷高気圧(シベリア高気圧)についてお話しました。今回の豆知識では、背が高い高気圧である、温暖高気圧を取り上げます。
 また、温暖高気圧の代表例である、太平洋高気圧の特徴を述べます。さらに、この高気圧に関係する、気象予報士試験の問題も紹介します。

温暖高気圧とは

 空気が集まることを収束、離れることを発散と呼びましたね(豆知識7)。これを念頭に、図1を用いて、温暖高気圧の仕組みを説明します。
 図1のように、上層で空気が収束(①)すると、その空気は行き場を失って下降流(②)となり、下層では発散(③)します。上層で空気が収束(①)する量が、下層で空気が発散(③)する量を上回る状態が続くと、空気の柱の中に空気がたまっていきます(=空気の量が増えます)。その結果、周囲より空気が多く重くなり、気圧が高い領域、すなわち高気圧が形成されます。

図1 温暖高気圧のイメージ図

 下降する空気は、断熱圧縮(豆知識15)によって暖められるため、気温が高くなります(②)。そのため、結果として気温が周囲より高い高気圧ができます。このタイプの高気圧を温暖高気圧と呼びます。
 温暖高気圧の中心では、「地上~対流圏上層(中層)」付近の気温が周囲より高く(④)なりますが、それよりさらに高い「対流圏上層~成層圏下層」付近の気温は、周囲より低く(⑤)なっています。この冷たい(重い)空気の存在は、大規模な下降流系が安定して維持される要因となっています。
 以上、要するに温暖高気圧の成因は、「対流圏上層で空気が収束して空気の量(質量)が増えることで、その過剰な空気が下降流を形成し、結果として地表で気圧が高まる」という力学構造にあります。温暖高気圧は、地上から対流圏上層まで、ほぼ同じ位置に高気圧があるため、「背の高い高気圧」とも呼ばれます。その構造により、安定した晴天が続くのが特徴です。

太平洋高気圧(亜熱帯高気圧)

出現する背景

 温暖高気圧の代表例が、主に夏季に太平洋に発生する太平洋高気圧です。この太平洋高気圧は、学術的には北太平洋高気圧(North Pacific High)とも呼ばれます。日本では、北太平洋に広がるこの高気圧を一般に「太平洋高気圧」と呼ぶことが多いです。太平洋高気圧の西側部分が日本付近まで張り出すと、しばしば「小笠原高気圧」と呼ばれることがあります。

 温暖高気圧(太平洋高気圧を含む)の成因の概要は、図1を用いて述べました。以下では、太平洋高気圧が発生する背景を、地球規模の大気の流れ(大気循環)の面からみてみます。図2をご覧ください。両半球において、赤で示した大気循環を、ハドレー循環と呼びます。以下では、北半球における循環を中心にお話します。
 太陽エネルギーが多く降りそそぐ赤道付近で暖められた空気は、上昇し(①)、北に向かって流れます(②)。そして、北緯30度付近で下降します(③)。下降した空気は、④のように赤道方向に流れます(一部は、⑤のように中緯度に向かいます)。この①~④のサイクルが、ハドレー循環です。

図2 地球規模の大気の流れであるハドレー循環の模式図

 なお、図2の北半球における④の流れは、南半球においても起こります(⑥)。赤道付近では、空気が暖められて上昇することに加え、④と⑥の空気が赤道付近で収束することによって上昇流が強化され、積乱雲が発生します。一方、北緯30度付近では、下降気流のため、この地帯の地上気圧で見ると高気圧となっています(⑦)。これを亜熱帯高圧帯(中緯度高圧帯)といいます。
 亜熱帯高圧帯といっても、地上天気図でみると帯のように地球をひとまわりしているわけではありません。海陸分布やそれに伴う季節風、地形の影響などで途切れています。亜熱帯高圧帯の一部が、さきほど述べた太平洋高気圧です。

高気圧の高さ

 先ほど、温暖高気圧は背が高いと述べました。このことを、太平洋高気圧を例に、実際の天気図で確認してみましょう。図3①(地上天気図)をご覧ください。太平洋高気圧(小笠原高気圧)が張り出していますね。
 この高気圧の地上での中心位置(赤の矢印)に、②と④(500hPa天気図)、③と⑤(300hPa天気図)では、「高」の文字を記入しました。また、②~⑤において、その高さで注目する高圧部(高気圧)の中心付近(H)に、オレンジ色の矢印を記入しました。
 ②と④(500hPa天気図)、③と⑤(300hPa天気図)において、「高」の付近に、高圧部(高気圧)の中心付近を示すH(オレンジ色の矢印)が確認できます。つまり、この高気圧は、少なくとも地上~300hPaまでは高圧部(高気圧)が確認でき、背が高いことが分かります。

図3 2025年8月4日9時の地上実況天気図(①)、アジア500hPa天気図(②)、アジア300hPa天気図(③)、500hPa高度・風 予想図(④)、及び300hPa高度・風 予想図(⑤)
注)①:気象庁提供の日本周辺域 地上天気図。注目する地上高気圧の中心位置に、赤の矢印を記入した。
②、③:気象庁提供の高層天気図の一部を拡大して掲載。
④、⑤:欧州中期予報センターの数値予報モデルによる予測値(Windy.comのwebサイトより入手)。実線は等高度線。風の強さは、色を変えて表示。細く途切れた線は、風の流れを示す。
②~⑤:注目する高圧部(高気圧)の中心付近(H)に、オレンジ色の矢印を記入した。また、①において注目した地上高気圧の中心位置に、②~⑤では「高」の文字を記入した。

日本の天候に与える影響など

太平洋高気圧の位置と日本の天候

 太平洋高気圧は、夏の日本の天候に大きな影響を与えます。夏の太平洋高気圧の尾根線が、日本の南部からすぐ南の海上にある(高気圧が日本列島に張り出す)ときは、いわゆる南高北低の気圧配置となり、熱い晴天が続きます。日射が強いため、山間部を中心に雷が発生しますが、大規模な雷は起こりにくいです。
 一方、太平洋高気圧が弱かったり南下したりしていて、日本列島に張り出さないときは、北の冷気の範囲内なので、涼しい夏となります。前線の影響などで、広範囲に雷が発生することがあります。
 また、太平洋高気圧の動向(強さや西への張り出し具合)は、梅雨前線の位置や活動、さらには台風の移動経路にも影響を与えます。

チベット高気圧について

 なお、日本の夏に影響を及ぼす高気圧としてチベット高気圧の存在も知られています。チベット高気圧は夏季を中心にアジア南部付近で発達する対流圏上層の高気圧であり、夏季のその中心がチベット高原付近(図4)に位置することから、このように呼ばれています。
 この高気圧は、チベット高原などの大規模な山岳の地表面が強い日射を吸収することで、その真上の大気が強く加熱されること(顕熱による大気の過熱)や、南から流入する湿潤な気流(インドモンスーン)に伴う対流活動が山岳上で強化されることで、大気加熱がさらに強まること(凝結熱による加熱)などによって、形成されます。

図4 地図(航空写真)におけるチベット高原のおおまかな位置

 チベット高気圧は、100~200hPaの天気図で見ると、その姿を確認できることが多いです。一方、対流圏の中・下層では天気図上に高気圧として明瞭に表れません。チベット高気圧の範囲は非常に広く、西はユーラシア大陸からアフリカ、東は日本の東海上にまで及ぶことがあります。

 このチベット高気圧日本付近に張り出す場合には、太平洋高気圧の勢力と併合し日本付近の高気圧の勢力を強める(太平洋高気圧と重なり合い、高気圧がより安定する)ことが多いです。つまり、この高気圧が平年以上に強まり、日本のほうに強く張り出していると日本は暑い夏になる傾向があります。
 一方この高気圧の発達が遅れたり、張り出しが弱いときは梅雨明けが遅れたり、不順な夏になりやすいです。

気象予報士試験での出題例

 過去の気象予報士試験において、太平洋高気圧、あるいはチベット高気圧に関する問題が出された例を、以下に紹介します。

第60回気象予報士試験 学科 

図5 第60回学科 専門知識問8

 (a)に関しては、図2を用いて述べたとおり、太平洋高気圧の形成は、地球規模(半球規模)の大気の循環に由来します。また、その水平スケールは、8000kmを超える場合もあります。よって、問題文(a)は、誤りです。
 (b)に関しては、図2を用いて述べたとおり、下降流域に位置し、対流圏下層では発散域となっています。よって、問題文(b)は、正しいです。
 (c)に関しては、図2を用いて述べたとおり下降流の断熱昇温に伴い気温が周囲より高く、また、対流圏中層を中心に、空気は乾燥します。よって、問題文(c)は、誤りです。
 (d)に関しては、太平洋高気圧が張り出し、さらに対流圏上層の高気圧(チベット高気圧)とも重なると、下降流となり積乱雲の発生が抑えられ、晴れることが多いです。また、「太平洋高気圧の位置と日本の天候」の項目で述べたとおり、広範囲に雷が発生するのは、太平洋高気圧が日本列島に張り出さない場合です。よって、問題文(d)は、誤りです。

第51回気象予報士試験 学科

図6 第51回学科 専門知識問7

 (a)に関しては、図2を用いて述べたとおり、ハドレー循環の下降域にあたる亜熱帯⾼圧帯で発⽣します。よって、問題文(a)は、正しいです。
 (c)に関しては、「チベット高気圧について」の項目で述べたとおり、対流圏上層に形成され、100~200hPa天気図上に明瞭に現れます。よって、問題文(c)は、正しいです。

第46回気象予報士試験 学科 

図7 第46回学科 専門知識問8

 (a)に関しては、図2を用いて述べたとおり、ハドレー循環の下降域にあたる亜熱帯⾼圧帯で発⽣します。よって、問題文(a)は、正しいです。

第40回気象予報士試験 学科

図8 第40回学科 専門知識問15

 (a)の空欄には、図2を用いて述べた内容を考慮すると “太平洋”の語句が入ります。
 (b)の空欄には、「太平洋高気圧の位置と日本の天候」の項目で述べた内容を考慮すると“高温・多照”の語句が入ります。
 (c)の空欄には、「チベット高気圧について」の項目で述べた内容を考慮すると“チベット”の語句が入ります。

第37回気象予報士試験 学科

図9 第37回学科 専門知識問15

 (c)に関しては、「チベット高気圧について」の項目で述べたとおり、日本付近への張り出しが弱いときには、安定した夏型の気圧配置にならないことが多いです。よって、問題文(c)は、正しいです。

第36回気象予報士試験 学科

図10 第36回学科 専門知識問15

 (b)に関しては、「チベット高気圧について」の項目で述べたとおり、日本のほうに強く張り出していると日本は暑い夏になる傾向があります。よって、問題文(b)の下線部は、誤りです。

第22回気象予報士試験 学科

図11 第22回学科 専門知識問15

 (b)に関しては、「チベット高気圧について」の項目で述べたとおり、日本付近への張り出しが弱いときには、安定した夏型の気圧配置にならないことが多いです。よって、問題文(b)の下線部は、正しいです。

第20回気象予報士試験 学科

図12 第20回学科 専門知識問7

 (d)に関しては、図2と3を用いて述べたとおり、ハドレー循環の下降流域にあたるところに生じる背の高い高気圧です。よって、問題文(d)は、正しいです。

第15回気象予報士試験 学科

図13 第15回学科 専門知識問15

 (c)に関しては、「チベット高気圧について」の項目で述べたとおり、日本のほうに強く張り出していると日本は暑い夏になる傾向があります。よって、問題文(c)の下線部は、誤りです。

第9回気象予報士試験 学科

図14 第9回学科 専門知識問8

 (b)に関しては、図2を用いて述べたとおり、上層の収束によって作られ、高気圧の圏内では下降流が存在しています。よって、問題文(b)は、正しいです。

第4回気象予報士試験 学科

図15 第4回学科 専門知識問5

 ①に関しては、図1と3を用いて述べたとおり、太平洋高気圧は、対流圏上層まで存在しています。また、前回の豆知識39の図1と5を用いて述べたとおり、シベリア高気圧は、対流圏下層にしか存在しません。よって、問題文①は、正しいです。

さいごに

 今回の豆知識では、背の高い高気圧である「温暖高気圧」を取り上げ、その代表例として太平洋高気圧の特徴を紹介しました。
 前に述べたとおり、太平洋高気圧は、亜熱帯高気圧の一部です。他の亜熱帯高気圧としては、大西洋に位置するアゾレス高気圧、南インド洋に位置するマスカリン高気圧などがあります。これらの亜熱帯高気圧も、それぞれ地域の気候に影響を与えています。
 前回の豆知識の主役は、シベリア高気圧。そして、今回は太平洋高気圧でした。次回は、オホーツク海高気圧を紹介する予定です。

今回の豆知識で参考にした図書等

●浅井冨雄,内田英治,河村 武 監修(1999)増補 気象の事典,平凡社
●安斎政雄(1998) 新・天気予報の手引(改訂29版),日本気象協会
●岩槻秀明(2017) 気象学のキホンがよ~くわかる本(第3版),秀和システム
●榎本 剛(2005)盛夏期における小笠原高気圧の形成メカニズム,天気52: 523-531
●大和田道雄,石川由紀(2005) 東アジアにおける猛暑と冷 夏の大気大循環場変動と気圧場解析,地理学報告100: 19-28
●小倉義光(1994) お天気の科学-気象災害から身を守るために-,森北出版
●小倉義光(1999) 一般気象学(第2版),東京大学出版会
●気象庁のwebサイト
●気象業務支援センターのwebサイト
●北畠尚子 (2025) 総観気象学 基礎編(改訂版),気象庁
●下山紀夫(2023) 気象予報のための天気図のみかた(増補改訂新装版),東京堂出版
●中島俊夫(2022)イラスト図解 よくわかる気象学 実技編,ナツメ社
●新田 尚,立平良三(2004) 改訂版 最新 天気予報の技術,東京堂出版
●廣田 勇(2011)風のいろいろ,天気58: 447-451
●藤川典久(2013) 停滞性の高低気圧及び前線の特徴と形成メカニズム,平成24年度季節予報研修テキスト「季節予報作業指針」, 気象庁地球環境・海洋部, 41-82
●Windy.comのwebサイト

タイトルとURLをコピーしました