【豆知識56】台風による高波や高潮|「風浪」「うねり」「波浪」の違いは? 「吹き寄せ効果」「吸い上げ効果」とは?

はじめに

 台風は風害や大雨害をもたらすだけでなく、接近・通過に伴って高波による災害(波浪害)や、海面が上昇して海水が陸地に浸入して起こる災害(高潮)のリスクも高まります。
 今回の豆知識では、まず、波の特徴について整理し、そのうえで、高波や高潮がどのような仕組みで発生するのかを紹介します。
 さらに、関連する気象災害として、海上からの強風によって塩分粒子が運ばれることで発生する塩風害についても触れます。

波の波長と波高(波の高さ)

 海面上で風が吹くと波が発生します。波の山から次の山までの距離を波長といい(図1)、山が来てから次の山が来るまでの時間を周期といいます。
 また、波の山から谷までの高さを波高と呼びます(図1)。気象庁では、音声伝達の際には「波の高さ」という表現を用います。

図1 波長と波高の模式図

 気象庁が波の高さを示す際には、特に断っていなくても有義波高を用います。有義波高とは、ある地点で一定時間に観測された波のうち、高いほうから1/3の波を選び、その平均をとったものです。例えば、90の波が観測された場合、高いほうから30の波を選び、その波高の平均値が有義波高となります。
 目視で海面を観測したときに、直感的に感じる平均的な波高はこの有義波高に近いといわれています。ただし、有義波高は平均値であるため、実際にはそれより高い波や低い波が混在しています。統計的には、100波に1波は有義波高の1.6倍、1000波に1波は約2倍の高さになることが知られています。
 強風のため海上が荒れる状態を「しけ」と呼びます。しけの程度は波の高さによって区分され、4mをこえ6mまでが「しけ」、6mをこえ9mまでが「大しけ」、9mをこえると「猛烈なしけ」とされています。

風浪、うねり、波浪

風浪
 海面上で風が吹くと海面には波が立ち、波は風下へ向かって進みます。波が進むスピードより風が強いと、波は風に押されて発達を続けます。このように、その海域で吹いている風によって生じる波を風浪(ふうろう)といいます。
 風浪の形状は不規則で波の先端が尖っており、波長(周期)が短いのが特徴です(図2左)。強い風の場合、しばしば白波が立ちます。
 風浪はその場の風で発生するので、その場の風の状況により発達が異なります。具体的には、風が強いほど、長く吹き続けるほど、風が吹く距離が長いほど風浪は発達します。このような条件下では波が高まり、海上や沿岸では注意が必要です。

図2 風浪(左)とうねり(右)の模式図

うねり
 発達した風浪が風の吹かない領域まで伝わった波、あるいは風が弱まった場合や風向が急に変化した場合に残された波をうねりといいます。うねりの形状は規則的で波の先端が丸みを帯びており、波長(周期)が長いのが特徴です(図2右)。うねりは、波長が100m以上、周期が8秒以上のものが多いとされています。
 うねりは、波⻑が⻑く減衰しにくいため遠く離れた海域まで伝播することがあります。その代表的なものとして、夏から秋に太平洋に面した海岸に押し寄せる土用波があります。これは、はるか数千kmも南の海上にある台風の周辺で発生した波が、日本まで伝わってきたものです。南の海上を北上してくる台風よりも、スピードの速いうねりのほうが先に到達することになります。
 また、うねりは水深の浅いところでは風浪よりも海底の影響を受けやすく海岸付近で急激に高波になることがあるので注意が必要です。(水深が波長の1/2より浅い場所では、波は海底の影響を受けて変化し、非常に複雑な動きをします。これを浅海効果といいます。)

波浪
 以上のように、波には風浪とうねりの2種類があり、通常は両者が混在しています。これらの風浪うねり合わせて波浪(はろう)といいます(図3)。「波浪」について、気象庁は、音声伝達の際には「」を用います。一方で、関連する警報・注意報には「波浪」を用います。

図3 風浪とうねりが重なった波浪のイメージ図

波浪に関する警報・注意報
 台風の接近・通過に伴い、高波による遭難や沿岸施設の被害などが発生するリスクが高まります。このため気象庁では、関連する情報を発表し注意を呼びかけます。そのうち、波浪に関する警報・注意報の種類と内容は、表1のとおりです。

台風による高潮

潮位について

 図4をご覧ください。海面は月や太陽の引力により、ほぼ1日に2回の半日周期(約12時間)で満潮干潮を繰り返しており、この海面の高さ(潮位)を「天文潮位」といいます(①)。天文潮位は前もって計算しておくことができ、全国各地の天文潮位を潮位表として、気象庁が公開しています。
 一方、気圧、風などの気象現象に起因して生じる海面変動を気象潮といいます(②)。実際の潮位(③)は、天文潮位(①)に気象潮による変動(②)が加わったものです。実際の潮位(③)と天文潮位(①)の差を、潮位偏差といいます。

図4 天文潮位と実際の潮位の概念図(潮位偏差が正の場合)
注)海岸から沖向きの風で海水が湾外へ押し出される場合や、高気圧に覆われて海面が下がる場合などに、潮位偏差が負となることがある。

 なお、潮位は東京湾平均海面を基準面として表します。この基準面は海抜0 mとも言い、山の高さなどを表す標高の基準にもなっています。

高潮のメカニズムと被害リスク

 台風が通過するとき、潮位が大きく上昇することがあり、これを「高潮」といいます。高潮は、主に以下の「吸い上げ効果」と「吹き寄せ効果」が原因となって起こります。

吸い上げ効果
 台風の中心では気圧が周辺より低いため、気圧の高い周辺の空気は海水を押し下げ、中心付近の空気が海水を吸い上げるように作用する結果、海面が上昇します。これを「吸い上げ効果」といいます。私たちがストローの中の空気を吸うことによって、ストロー内の気圧が下がり、その中の飲み物が上昇してくるのもこれと同じ原理です。
 海上に話を戻すと、吸い上げ効果によって、気圧が1 hPa下がると海面は1 cm上昇します。例えばそれまで1000 hPaだったところへ中心気圧が950 hPaの台風が来れば、台風の中心付近では海面は約50 cm高くなり、その周辺でも気圧に応じて海面は高くなります。

吹き寄せ効果
 台風に伴う強い風が沖から海岸に向かって吹くと、海面の海水が引きずられて海岸に吹き寄せられ、海水が海岸付近に蓄積される結果、海面が上昇します。これを、「吹き寄せ効果」といいます。この場合、吹き寄せによる海面上昇は風速の2乗に比例し、風速が2倍になれば海面上昇は4倍になります。
 なお、台風の中心が遠く離れていても、強い海上風が吹く場合には、吹き寄せ効果によって潮位が上昇することがあります。

吸い上げ効果と吹き寄せ効果
 前述のとおり、気象現象に起因して生じる海面変動を気象潮といいます(図4②)。この海面変動は、主に「吸い上げ効果」と「吹き寄せ効果」によって起こります。
 ここで、両者の潮位上昇への寄与を考えてみましょう。勢力が強い台風の中心気圧が930hPaである場合、周囲より約70hPa低いことから「吸い上げ効果」によって約70cmの潮位上昇となります。一方、「吹き寄せ効果」は風速の2乗に比例するので、勢力の強い台風であれば2m以上の潮位上昇となることがあります。
 つまり、潮位偏差が大きく甚大な被害をもたらすような顕著な高潮においては、気圧低下による「吸い上げ効果」よりも、風による「吹き寄せ効果」の方が、潮位上昇への寄与が大きいといえます。

高潮による被害リスク
 高潮で潮位が高くなっているときに高波があると、普段は波が来ないようなところまで波が押し寄せ、被害が拡大することがあります(図5)。

図5 高波と高潮(イメージ図)

 なお、波が沿岸に到着すると、その形が不安定になり、前方に飛び出すように崩れます。このように、波が砕けることを砕波(さいは)といい(図5)、砕波が生じた場所より岸側の海域では潮位がさらに上昇することになります。

 大きな高潮は、海から湾の奥に向かって強風が吹くときに起こりやすく、特に奥ほど湾幅が狭いV字形の湾や遠浅の海では、吹き寄せ効果が大きくなります。すなわち、北上する台風が、太平洋沿岸の多くの湾のように南に開いている湾の西側に位置するとき、台風からの風が海から湾の奥に向かって吹くことになり、高潮が発生しやすくなります。
 また、台風の進行方向の右側では、一般的に左側に比べて風が強いことから(豆知識52)、吹き寄せ効果による海面上昇がより大きくなる傾向があります。

 一般に、大潮(新月または満月の頃で、満潮時の天文潮位は最も高くなる)の満潮時に台風の接近による高潮が重なると、潮位がいっそう上昇して高潮による被害が発生するリスクが高まります。
 また、台風が接近しやすい夏から秋は、海面付近の海水が温められて膨張するなどの影響で、平常時の潮位が1年を通じて最も高くなる時期にあたる点にも注意が必要です。

高潮に関する警報・注意報
 台風の接近・通過に伴い、高潮による人的被害や家屋被害などが発生するリスクが高まります。このため気象庁では、関連する情報を発表し注意を呼びかけます。このうち、高潮に関する警報・注意報の種類と内容は、表2のとおりです。

台風による塩風害

 台風に伴う強い風によって、海上から運ばれた塩分粒子が陸上の植物や送電線などに付着し、塩風害(塩害)が発生することがあります。塩分が付着すると、植物が枯れたり、送電線がショートしたりするおそれがあります。
 一般に降水量が少ないと、付着した塩分がすみやかに洗い流されることがないため、長時間にわたって塩分が残り、塩風害が大きくなります。

過去の気象予報士の試験問題

 過去の気象予報士試験において、台風(あるいは発達した低気圧)による高波、高潮、潮位変化、塩風害などに関する問題が出された例を、以下に紹介します。また、台風に伴う竜巻に関する問題も取り上げます。

第65回気象予報士試験 学科

図6 第65回学科 専門知識問11

 (c)に関しては、豆知識52の図24を用いて述べたとおり、台風がある地点の西側を北上する場合、「東寄りの風→南寄りの風→西寄りの風」というように、風向は変化します。このため、西に開いた湾では、台風が西側を北上するとき、湾の奥に向かって風が吹くのは台風接近時より後です。よって、問題文(c)は、正しいです。

第64回気象予報士試験 学科

図7 第64回学科 専門知識問14

 (a)に関しては、「台風による塩風害」の項目で述べたとおり、一般に降水量が少ないと塩風害が大きくなります。よって、問題文(a)は、誤りです。
 (b)に関しては、「台風による高潮(潮位について)」の項目で、潮位は東京湾平均海面を基準面として表すことを述べました。高潮警報・注意報基準の潮位も、東京湾平均海面を基準面とする標高で示されます。よって、問題文(b)は、誤りです。
 (なお、令和8年に運用が開始された高潮特別警報や警報等(レベル5〜レベル2)においても、基準潮位は従来どおり東京湾平均海面を基準とする標高で示されています。)

第62回気象予報士試験 学科

図8 第62回学科 専門知識問11

 (d)に関しては、「台風による高潮(潮位について)」の項目で述べたとおり、吹き寄せ効果の方が、潮位上昇への寄与が大きいです。よって、問題文(d)は、誤りです。

第61回気象予報士試験 学科

図9 第61回学科 専門知識問10

 (b)に関しては、豆知識43の「日本で発生した竜巻」の項目で、「竜巻は、前線、寒気や暖気の移流等による大気の状態が不安定な場合に発生することが多く、また、台風が要因となるケースも比較的多くみられる」と述べました。例えば、台風周辺の外側降雨帯で竜巻が発生することは珍しいことではありません。よって、問題文(b)は、正しいです。

第59回気象予報士試験 学科

図10 第59回学科 専門知識問12

 (a)に関しては、「台風による高潮(高潮のメカニズムと被害リスク)」の項目で述べたとおり、吸い上げられる効果吹き寄せられる効果、砕波による効果などにより、潮位が上昇します。よって、問題文(a)は、正しいです。
 (b)に関しては、「風浪、うねり、波浪(うねり)」の項目で述べたとおり、台風が日本のはるか南の海上にある場合でも、波がうねりとなって日本まで伝わってくることがあり、また、うねりは水深の浅いところでは海底の影響を受けやすく海岸付近で急激に高波になることがあります。よって、問題文(b)は、正しいです。

第58回気象予報士試験実技1

 実技1では、XX年2⽉15⽇から2月16日頃にかけての⽇本付近における気象について問われました(ちなみに、XX年は2021年です)。2月15日は本州南岸の低気圧が発達しながら本州付近を北上し(図11)、2月16日にはその発達した低気圧が北海道付近に停滞し、北日本は大荒れとなりました。この低気圧の接近に伴う根室港の潮位変化に関する設問を紹介します。

図11 地上天気図(XX年2月15日9時(00UTC)) 
注)実線は気圧(hPa) 。矢羽は風向・風速(ノット) (短矢羽:5ノット、長矢羽:10ノット、旗矢羽:50ノット)。

図12 第58回実技1問3(2)

 図13 メソモデルによる地上気圧18、19、20、21時間予想図(初期時刻XX年2月15日9時(00UTC))
注)実線:気圧(hPa)、○印:根室港。根室港の位置図(右下)。

図14 根室港における天文潮位の時系列図(XX年2月15日23時(14UTC)~16日8時(15日23UTC))

 まず、問3(2)①です。図13において、低気圧の中心から根室までの距離を測ると最も接近するのは5時、次に近いのが4時です。よって、最も接近する時間帯は「:4~5時」です。
 図14をみると、その時間帯の天文潮位の最高値は5時で、正負の符号を付した5cm刻みの値で読み取ると「+50cm」となります。

 問3(2)②については、初期時刻の根室港の気圧を図11(等圧線は4hPa間隔)から読み取ると、1008hPaと1012hPaの中間付近なので、約1010hPaとなります。低気圧が根室港に最も接近するのは5時少し前であり、その時の気圧は図12(等圧線は1hPa間隔)の4時と5時の値から推定すると約949hPaと考えられます。設問では1hPaにつき1cmとされているので気圧差は約61cmであり、10cm刻みでは「60cm」となります。

 最後に問3(2)③です。図13において、風の強さ(気圧傾度から推定)と風向(気圧配置から推定)の両面から考察します。根室港の気圧は、4時が950hPa、5時が949hPa、6時が953~954hPaであり5時頃に最も低下しています。根室港のおおまかな風向は、4時が北東、5時が北西、6時が西となっており、北西に開いた湾(根室港)に向かって風が最も吹き込みやすいのは5時頃と考えられます。以上のことから、潮位上昇量が最も増大すると予想される時間帯は「:5時前後」です。

第51回気象予報士試験 学科

図15 第51回学科 専門知識問11

 (a)に関しては、「台風による高潮(潮位について)」の項目で述べたとおり、「吸い上げ効果」によって、気圧が1hPa低くなるごとに海⾯は約1cmずつ上昇します。よって、問題文(a)は、正しいです。
 (b)に関しては、「台風による高潮(潮位について)」の項目で述べたとおり、吹き寄せによる海面上昇は風速の2乗に比例します。よって、問題文(b)は、誤りです。
 (c)に関しては、豆知識52で述べたとおり、台風の中心付近(特に中心から30~100km)で風が最も強く、また台風の進行方向に向かって右側で風が強い傾向があります。また、「台風による高潮(高潮のメカニズムと被害リスク)」の項目で述べたとおり、大きな高潮は、海から湾の奥に向かって強風が吹くときに起こりやすいです。よって、問題文(c)は、正しいです。
 (d)に関しては、「風浪、うねり、波浪(うねり)」の項目で述べたとおり、うねりは、波⻑が⻑く減衰しにくいため遠く離れた海域まで伝播します。よって、問題文(d)は、正しいです。

第50回気象予報士試験 学科

図16 第50回学科 専門知識問14

 (a)に関しては、「台風による高潮(高潮のメカニズムと被害リスク)」の項目で述べたとおり、台風が接近しやすい夏から秋は、平常時の潮位が1年を通じて最も高くなる時期にあたります。よって、問題文(a)は、正しいです。
 (b)に関しては、豆知識43の「日本で発生した竜巻」の項目でのべたとおり、台風に伴う竜巻は、その中心の前方やや右寄りの領域に発生しやすいです。よって、問題文(b)は、正しいです。
 (c)に関しては、「台風による塩風害」の項目で述べたとおり、一般に降水量が少ないと塩風害が大きくなります。よって、問題文(c)は、誤りです。
 (d)に関しては、「台風による高潮(潮位について)」の項目で、潮位は東京湾平均海面を基準面として表すことを述べました。高潮警報・注意報基準の潮位も、東京湾平均海面を基準面とする標高で示されます。よって、問題文(d)は、誤りです。

第49回気象予報士試験 学科

図17 第49回学科 専門知識問11

 (b)に関しては、豆知識52の図24を用いて述べたとおり、台風がある地点の西側を北上する場合、「東寄りの風→南寄りの風→西寄りの風」というように、風向は変化します。設問の条件で台風が進んだ場合、八代市に最接近したときの風向は南寄りであり、南西に開いている八代海から吹いてくる風とはなりません。一方、最接近後には風向が南西に変化し、八代海から吹いてくる風となります。このため、吹き寄せ効果を考慮すると、潮位偏差が最大となるのは、台風接近時より後です。よって、問題文(b)は、正しいです。

第37回気象予報士試験 学科

図18 第37回学科 専門知識問8

 (b)に関しては、「風浪、うねり、波浪(うねり)」の項目で述べたとおり、うねりは、波⻑が⻑く減衰しにくいため遠く離れた海域まで伝播します。よって、問題文(b)は、正しいです。

第33回気象予報士試験 学科

図19 第33回学科 専門知識問11

 (c)に関しては、「風浪、うねり、波浪(うねり)」の項目で述べたとおり、発達した風浪が風の吹かない領域まで伝わった波、あるいは風が弱まった場合や風向が急に変化した場合に残された波がうねりであり、うねりは、波⻑が⻑く減衰しにくいため遠く離れた海域まで伝播します。よって、問題文(c)は、正しいです。

第32回気象予報士試験実技2

 実技2では、XX年9⽉17⽇に九州地方に接近・上陸し(図20)、その後日本海へ進んだ台風について問われました(ちなみに、XX年は2006年です)。このうち、台風の接近に伴う潮位変化について問われた問5を紹介します。

図20 地上天気図(XX年9月17日9時(00UTC)) 
注)実線は気圧(hPa) 。矢羽は風向・風速(ノット) (短矢羽:5ノット、長矢羽:10ノット、旗矢羽:50ノット)。今回の豆知識のテーマに絞るため、実際の図の一部を省略している。

図21 第32回実技2問5

図22 台風第XX号の進路予報図 XX年9月17日9時(00UTC)~18日9時(00UTC) 
初期時刻 XX年9月17日9時(00UTC))

図23 地点Bの天文潮位・潮位偏差1時間~15時間予想図
    黒線:天文潮位(cm)、東京湾平均海面(TP)からの高さ
    赤線:中央の進路をとる場合の予想潮位偏差(cm)
    緑線:右寄りの進路をとる場合の予想潮位偏差(cm)
    青線:左寄りの進路をとる場合の予想潮位偏差(cm)
   初期時刻 XX年9月17日9時(00UTC))

 まず、問5(1)です。豆知識52で述べたとおり、台風の進行方向に向かって右側で風が強い傾向があり、また、台風がある地点の西側を北上する場合、「東寄りの風→南寄りの風→西寄りの風」というように、風向は変化します。このため、台風が南に開いた湾の西側を通過する場合は、湾の奥に向かって強風が吹き、海面が吹き寄せられる「吹き寄せ効果」によって海面が上昇します。
 地点B(図22)に対して台風の中心が西側を進むのは、「左寄り」「中央」の進路ですが、「中央」の進路の方が地点Bに近いところを台風が通るために風がより強く「吹き寄せ効果」も強まることになります。
 また、「中央」の進路の方が地点Bに近いところを台風の中心が通るため、地点Bでの気圧がより低くなり、海面の「吸い上げ効果」も強まります。よって、潮位が最も高くなると予想される進路としては、「中央」が答えとなります。

 問5(2)については、前問で答えた進路が「中央」の進路なので、図23の予想潮位偏差については、赤線に注目します。図23の天文潮位(黒線)については、潮位が最も高いときが満潮時で18~19時頃です。この満潮時前後で、天文潮位(黒線)と予想潮位偏差(赤線)の和が大きそうな時刻の潮位を10cm刻みで読み取ると、16時は80(黒線)+60(赤線)=140、17時は110(黒線)+110(赤線)=220、18時は130(黒線)+180(赤線)=310、19時は130(黒線)+210(赤線)=340、20時は110(黒線)+200(赤線)=310、21時は90(黒線)+160(赤線)=250となります。
 よって、潮位が最も高くなると予想される時刻は17日の19時で、その時の潮位は340cmとなります。19時の3時間前である16時の潮位は140cmなので、前3時間の潮位の変化量は340-140=200cmとなります。

 問5(3)については、三つの進路の中で、気圧が潮位に与える影響が最も小さいと考えられるのは、台風がB地点から最も離れたところを通過する「左寄り」の進路です。
 その理由は「地点Bの気圧の低下量(下降量)が最も小さいため。」(気象業務支援センター解答例)となります。

 問5(4)については、風が潮位に与える影響に注目したとき、問5 (3) で答えた進路を除いた二つの進路(中央、右寄り)では、問5 (1)で答えた進路(中央)の方が潮位に与える影響が大きいと考えられ、その理由を述べよとの設問です。
 問5 (1)の解説において「台風が南に開いた湾の西側を通過すると、湾の奥に向かって強風が吹く」こと、そして「地点Bに対して台風の中心が西側を進むのは『左寄り』『中央』の進路である」ことを述べました。このことを考慮すると、風が潮位に与える影響は「中央」の方が大きい理由は、「中央の進路では風が海から陸に向かって吹くが、右寄りの進路では風が陸から海に向かって吹くため。」(気象業務支援センター解答例)となります。

 問5(5)については、問5 (1)の解説で述べたとおり、潮位に対する風の影響を「吹き寄せ効果」と呼んでいます。

第25回気象予報士試験 学科

図24 第25回学科 専門知識問12

 (a)に関しては、「台風による高潮(潮位について)」の項目で述べたとおり、強い風が沖から海岸に向かって吹くと、海面の海水が海岸に吹き寄せられて海面が上昇し、これを、「吹き寄せ効果」といいます。よって、問題文(a)は、正しいです。
 (b)に関しては、「台風による高潮(潮位について)」の項目で述べたとおり、「吸い上げ効果」によって、気圧が1hPa低くなるごとに海⾯は約1cmずつ上昇します。よって、問題文(b)は、正しいです。
 (c)に関しては、「台風による高潮(高潮のメカニズムと被害リスク)」の項目で述べたとおり、台風が接近しやすい夏から秋は、平常時の潮位が1年を通じて最も高くなる時期にあたります。よって、問題文(c)は、正しいです。

第20回気象予報士試験 学科

図25 第20回学科 専門知識問14

 (a)に関しては、豆知識55の「温帯低気圧に変化後に再発達した事例」の項目で述べたとおり、台風が日本付近で温帯低気圧に変わると、強風域が広がったり、低気圧の中心から離れた場所で風が最も強くなったりすることがあります。つまり、中心から遠く離れた地域で風害が発生する場合があります。よって、問題文(a)は、正しいです。
 (c)に関しては、「風浪、うねり、波浪(うねり)」の項目で述べたとおり、うねりは、波⻑が⻑く減衰しにくいため遠く離れた海域まで伝播します。よって、問題文(c)は、正しいです。
 (d)に関しては、「台風による塩風害」の項目で述べたとおり、一般に降水量が少ないと塩風害が大きくなります。よって、問題文(d)は、誤りです。

さいごに

 今回の豆知識では、高波や高潮がどのように発生するのか、その発生メカニズムを中心にお話ししました。
 日本沿岸では、台風の接近に伴ってしばしば高潮の災害が発生してきました。特に1959年の伊勢湾台風の際には、死者・行方不明者数5098人の大半が高潮によるものという大災害となりました。この災害を契機として、海岸の護岸整備などの防災対策が急速に進み、その後の人的被害は大幅に減少しました。しかし、近年でも高潮による大規模な浸水被害などが発生することがあります。
 台風が接近する際には、暴風・大雨・高波に加えて高潮による被害にも十分に警戒し、気象庁や自治体が発表する最新の情報を参考にしながら、早めの備えを心がけましょう。

今回の豆知識で参考にした図書等

●浅井冨雄,内田英治,河村 武 監修(1999)増補 気象の事典,平凡社
●有川太郎(2017)高潮・高波における災害とその対策,日本風工学会誌42: 273-281
●安斎政雄(1998)新・天気予報の手引(改訂29版),日本気象協会
●気象業務支援センターのwebサイト
●気象庁のwebサイト
●小西達男(1999)数値モデルによる高潮予測について,天気46: 793-795
●下山紀夫(2023) 気象予報のための天気図のみかた(増補改訂新装版),東京堂出版
●高野洋雄,鎌倉和夫,峯松宏明,依岡幸広,久重和久,清水栄一,佐藤祐一,福永昭史,谷脇由彦,谷條薫一(2006)2004年の台風第16号(Chaba)による瀬戸内海における高潮の発生メカニズム,天気53: 845-856
●中島俊夫(2019)イラスト図解 よくわかる気象学 専門知識,ナツメ社
●中島俊夫(2022)イラスト図解 よくわかる気象学 実技編,ナツメ社
●新田 尚,立平良三(2004) 改訂版 最新 天気予報の技術,東京堂出版
●林原寛典(2011)気象庁の高潮数値予測モデルについて,天気58: 235-240
●光永臣秀,平石哲也,宇都宮好博,三原正裕,大川郁夫,中川浩二(2003)台風9918号による周防灘での高潮高波被害の特性,土木学会論文集 No.726 (II-62) : 131–143
●峯松宏明(2009)気象庁で現業運用している波浪モデル,天気56: 669-674
●森  信人(2021)近年の高潮・波浪災害とその特徴について,ながれ40: 15-18

この記事を書いた人
よほうし5823

気象予報士第5823号。博士(農学)。複雑な天気のしくみを、分かりやすく説明できるようになりたいです。そのために、日々勉強中です。

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