はじめに
豆知識8では、上空の偏西風の蛇行を取り上げました。今回は、その蛇行がさらに大きくなった場合、どのような現象が起きるのかをお話します。
偏西風の流れのタイプと切離高気圧・低気圧
豆知識8では、上空の南北方向の気温傾度(気圧傾度)がある限界を越すと、等高度線が波を打ち(気圧の谷・尾根の形成)、偏西風が蛇行することを紹介しました。
この偏西風の流れを、「東西流型」「南北流型」に分けることがあります。偏西風の蛇行が小さい場合が東西流型(図1①)であり、蛇行が大きい場合が南北流型(図1②)です。中緯度の偏西風帯では、通常、東西流型と南北流型が交互に繰り返されます。

図1 偏西風の流れの3つのタイプと切離高気圧・低気圧
しかし、南北流型がさらに進展した場合、偏西風の流れが「ブロッキング型」に移行する場合があります(図1③)。ここで波動が北にうねって独立(切離)した渦を切離高気圧といい、南にうねって独立(切離)した渦を切離低気圧といいます。偏西風は、これらを迂回するように分かれて流れていきます。この型になると偏西風の流れが通常と全く異なり、かつ同じような天候が持続するため、異常気象が発生する恐れがあります。
切離高気圧は、ブロッキング高気圧とも呼ばれます。ブロッキングとは「妨げる・阻止する」ことです。この高気圧が前方にあると、進行してきた低気圧の運動が阻害されて遅くなったり、南か北に方向を転じてゆっくり進行したりするようになります。ブロッキング高気圧は、梅雨期に、中国東北地区~オホーツク海付近に出現することがあります。
切離低気圧は、中心付近の温度が周囲より低いので、寒冷低気圧とも呼ばれます。また、切離低気圧は北の寒気が切り離されてできた渦なので、寒冷渦と呼ばれることもあります。気圧に着目すれば切離低気圧、気温や空気の流れに着目すれば寒冷低気圧、寒冷渦と呼ばれるわけです。
切離高気圧と切離低気圧の事例
切離高気圧や切離低気圧が出現した事例を、天気図でみてみましょう。各日時の天気図は、左側が500hPa 高度・渦度 解析図、右側が地上天気図です。500hPa 高度・渦度 解析図では、注目した切離高気圧(あるいは高圧部)には青の矢印、切離低気圧(あるいは低圧部)には赤の矢印を記入しました。
2012年6月14日~7月1日の事例















図2 2012年6月14日~7月1日の500hPa 高度・渦度 解析図(左)と地上天気図(右)
注1)左図は、気象庁の数値予報モデルによる予測値(初期値)。注目した切離高気圧(あるいは高圧部)には青の矢印、切離低気圧(あるいは低圧部)には赤の矢印を記入した。
注2)右図は、気象庁の実況天気図。
2021年6月14日~18日の事例










図3 2021年6月14日~18日の500hPa 高度・渦度 解析図(左)と地上天気図(右)
注)図の注釈は図2を参照。
おわりに
寒冷渦(切離低気圧)が接近すると、上空に冷たい空気が入ることで、大気の状態が不安定(まめ知識1)になります。そうなると、発達した対流雲による短時間強雨、落雷、突風、降雹などに警戒が必要となります。寒冷渦については、次回の豆知識12で、さらに詳しくお話したいと思います。
今回の豆知識で参考にした図書等
・安斎政雄(1998) 新・天気予報の手引(改訂29版),日本気象協会
・小倉義光(1994) お天気の科学-気象災害から身を守るために-,森北出版
・気象庁のwebサイト
・新田 尚,立平良三(2004) 改訂版 最新 天気予報の技術,東京堂出版
・福地 章(1999)高層気象とFAXの知識(第7版),成山堂書店
・古川武彦,酒井重典(2004) アンサンブル予報,東京堂出版