【豆知識48】にんじん状の雲|豪雨の実況監視において注目すべき特徴的な雲システムです

はじめに

 前回の豆知識47では、線状降水帯を取り上げました。線状降水帯などを構成する発達した積乱雲域は、気象衛星画像では、先端側(発生地点)がとがった細長い三角形状に見えることがあります。この雲域は、その特徴的な形状からにんじん状の雲と呼ばれます。
 まずは、実際の気象衛星画像を見てみましょう。

にんじん状の雲とは

 2017年4月21日に南西諸島で見られた、にんじん状の雲(図1①、②)を紹介します。
 この日は、日本の南の低気圧から南西諸島に前線がのびていました(図1③)。前線南側の沖縄では相当温位が高い下層暖湿気(豆知識19)が収束し(図1④)、沖縄県川平では49.5mm/ hの激しい雨、石垣島では最大瞬間風速29.3m/sを観測しました。
 この日の9時の気象衛星画像では(図1①、②)、黄色の矢印で示した、先端(発生地点)とがった細長い三角形のような雲域、すなわち、にんじん状の雲が確認できます。また、この三角形状(にんじんの形状)の雲域は、赤外画像(①)では白く輝き、可視画像(②)では白く凸凹した雲頂が見られることから、発達した積乱雲を含む対流雲が主体であると判断できます。

図1  2017年4月21日9時の気象衛星による赤外画像(①)と可視画像(②)、同日9時の地上天気図(③)、同日9時の850hPa 風・相当温位図(④)
注)①と②:気象衛星画像は高知大学気象情報頁 (http://weather.is.kochi-u.ac.jp/) による。③:気象庁提供の地上実況天気図(一部を拡大したもの)。④:気象庁提供の予想図。①~④:注目した「にんじん状の雲」の先端(発生地点)の位置に、黄色の矢印を記入した。

 豆知識47(図2)では、線状(帯状)の降水域(線状降水帯)では「次々に発生した積乱雲は、上空の風によって風下側に移動しながら一列に並ぶこと」「発達した積乱雲は圏界面に発達し、かなとこ雲として水平に広がること」を述べました。このように、雲域は、風上側から風下側に流される間に水平(横)方向に広がっていくので、上から見ると、先端を起点として風下側に広がる三角形状(にんじんの形状)に見えるのです。
 この例では、気象衛星の赤外画像(図1①)、可視画像(図②)のいずれでも三角形状の雲域が確認できます。ただし、かなとこ雲は上層に形成されるため、雲頂高度の高い部分が白く(明るく)表示される赤外画像の方が、にんじん雲の形状をより明瞭に把握できます。

にんじん状の雲の特徴

 図2に、にんじん状の雲に関する気象庁の用語解説を示します。

図2 にんじん状の雲に関する気象庁の用語解説(気象衛星に関する用語)
注)筆者が注目した点は、赤字にした。

 にんじん状の雲の多くは海上で発生し、日本の近海では南西諸島付近、東シナ海、本州の南岸などが主な発生域となります。総観規模の場(地上天気図)でみると、主な発生場所は、前線付近(あるいはその南側)、低気圧の中心付近や暖域付近です。また、大気下層では、相当温位の高い暖湿気流の流入場となっています。
 図2のとおり、にんじん状の雲では豪雨、突風、雷、降ひょうなどの顕著現象を伴うことが多いです。ただし、にんじん状の雲は、気象衛星画像で上から見たときの雲の形状を指すものです。つまり、大雨をもたらす線状降水帯などが形成された“結果として確認できるものです。いずれにしても、にんじん状の雲は、豪雨の実況監視において注目すべき特徴的な雲システムです。

 なお、にんじん状の雲のことをテーパリングクラウドと呼んでいた時期があり、平成19年頃までの気象予報士試験でもこの名称が使われていました(後述)。しかし、テーパ(taper)は「幅や厚さが徐々に減少すること(先細りになる)」ことを意味し、雲が風上から風下に流される間に発達して「幅が広がる」特徴をもつ雲の表現には適さないとの指摘があり、現在ではあまり使われていません。
 気象庁においても「テーパリングクラウド」は使用を控える用語となっており、にんじん状の雲という用語に置き換えるとされています。

にんじん状の雲の事例

 過去に、にんじん状の雲が確認できた17の事例について、気象衛星の赤外画像と地上天気図を紹介します。日中の場合は可視画像、さらに、対象時刻が9時あるいは21時前後の場合は、850hPa 風・相当温位図も加えています。
 前に述べたとおり、各事例において赤外画像では、にんじん状の雲が確認できますが、可視画像では不明瞭な場合があります(図11②、図15②)。地上天気図では、にんじん状の雲は、主に前線付近(あるいはその南側)、低気圧の中心付近や暖域で発生していることがわかります。
 また、850hPa 風・相当温位図をみると、多くの場合、にんじん状の雲の発生地点には、相当温位の高い暖湿気流が流入していることを確認することができます。

1)2004年6月27日6時

図3  2004年6月27日6時の気象衛星による赤外画像(①)、同日6時の地上天気図(②)
注)図の注釈は、図1を参照。

2)2006年4月11日20時頃

図4  2006年4月11日20時の気象衛星による赤外画像(①)、同日21時の地上天気図(②)、同日21時の850hPa 風・相当温位図(③)
注)図の注釈は、図1を参照。

3)2006年7月7日20時頃

図5  2006年7月7日20時の気象衛星による赤外画像(①)、同日21時の地上天気図(②)、同日21時の850hPa 風・相当温位図(③)
注)図の注釈は、図1を参照。

4)2006年9月6日23時頃

図6  2006年9月6日23時の気象衛星による赤外画像(①)、同日21時の地上天気図(②)、同日21時の850hPa 風・相当温位図(③)
注)図の注釈は、図1を参照。

5)2008年8月29日2時頃

図7  2008年8月29日2時の気象衛星による赤外画像(①)、同日3時の地上天気図(②)
注)図の注釈は、図1を参照。

6)2009年7月24日15時

図8  2009年7月24日15時の気象衛星による赤外画像(①)と可視画像(②)、同日15時の地上天気図(③)
注)図の注釈は、図1を参照。

7)2009年8月14日16時頃

図9  2009年8月14日16時の気象衛星による赤外画像(①)と可視画像(②)、同日15時の地上天気図(③)
注)図の注釈は、図1を参照。

8)2011年10月14日11時頃

図10  2011年10月14日11時の気象衛星による赤外画像(①)と可視画像(②)、同日12時の地上天気図(③)
注)図の注釈は、図1を参照。

9)2012年7月14日9時

図11  2012年7月14日9時の気象衛星による赤外画像(①)と可視画像(②)、同日9時の地上天気図(③)、同日9時の850hPa 風・相当温位図(④)
注)図の注釈は、図1を参照。

10)2014年7月7日0時頃

図12  2014年7月7日0時の気象衛星による赤外画像(①)、同日3時の地上天気図(②)
注)図の注釈は、図1を参照。

11)2015年6月19日1時頃

図13  2015年6月19日1時の気象衛星による赤外画像(①)、同日3時の地上天気図(②)
注)図の注釈は、図1を参照。

12)2015年12月10日13時頃

図14  2015年12月10日13時の気象衛星による赤外画像(①)と可視画像(②)、同日12時の地上天気図(③)
注)図の注釈は、図1を参照。

13)2016年6月19日9時

図15  2016年6月19日9時の気象衛星による赤外画像(①)と可視画像(②)、同日9時の地上天気図(③)、同日9時の850hPa 風・相当温位図(④)
注)図の注釈は、図1を参照。

14)2017年7月12日5時頃

図16  2017年7月21日5時の気象衛星による赤外画像(①)、同日6時の地上天気図(②)
注)図の注釈は、図1を参照。

15)2019年10月25日17時頃

図17  2019年10月25日17時の気象衛星による赤外画像(①)と可視画像(②)、同日18時の地上天気図(③)
注)図の注釈は、図1を参照。

16)2022年6月1日22時頃

図18  2022年6月1日22時の気象衛星による赤外画像(①)、同日21時の地上天気図(②)、同日21時の850hPa 風・相当温位図(③)
注)図の注釈は、図1を参照。

17)2022年8月17日7時頃

図19  2022年8月17日7時の気象衛星による赤外画像(①)、同日6時の地上天気図(②)
注)図の注釈は、図1を参照。

過去の気象予報士の試験問題

 過去の気象予報士試験において、「にんじん状の雲」に関する問題が出された例を、以下に紹介します。
 なお、前述のとおり、平成19年頃までの試験では「テーパリングクラウド」という名称が用いられていたため、以下でも当時の原文のまま掲載しています。

第63回気象予報士試験 学科

図20 第63回学科 専門知識問8

 (b)に関しては、図1を用いて述べたとおり、発達した積乱雲を含む対流雲が主体であると判断できます。よって、問題文(b)の下線部は、正しいです。

第56回気象予報士試験 学科

図21 第56回学科 専門知識問8

 (b)のにんじん状の雲に関しては、図1を用いて述べた内容を考慮すると、“領域Dの雲域” が該当します。

第53回気象予報士試験 学科

図22 第53回学科 専門知識問8

 (c)に関しては、図2を用いて述べたとおり、特に先の細くなった部分で顕著現象を伴うことが多いです。よって、問題文(c)の下線部は、正しいです。

第49回気象予報士試験 学科

図23 第49回学科 専門知識問6

 (d)に関しては、図1を用いて述べたとおり、積乱雲域と考えられます。よって、問題文の下線部(d)は、正しいです。
 ちなみに、この試験問題の図23と今回の豆知識の図1(①、②)を見比べると、雲域の形状が酷似しています。よって、図23も2017年4月21日の気象衛星画像であるかもしれません。

第31回気象予報士試験 学科

図24 第31回学科 専門知識問10

 (b)に関しては、「にんじん状の雲の特徴」の項目で述べたとおり、この雲の先端付近では次々と新しい対流雲(積乱雲)が発生し、発達しながら風下側に移動します。よって、問題文の下線部(b)は、正しいです。

第28回気象予報士試験 学科

図25 第28回学科 専門知識問4

 (a)に関しては、図2を用いて述べたとおり、特に先の細くなった部分で顕著現象を伴うことが多いです。よって、問題文(a)は、正しいです。
 (b)に関しては、にんじん状の雲の先端からさらに風上側に向かって、積雲の列が見られることがあります。図25(15時)の赤外画像ではBの雲列は識別できないので雲頂高度は低いと言えます。一方、可視画像では線状に並ぶ白い雲列が確認できます。これらのことから、Bの雲列は背の低い積雲と判断できます。よって、問題文(b)は、正しいです。
 (c)に関しては、図1を用いて述べたとおり、にんじん状の形状を呈します。よって、問題文(c)は、正しいです。
 (d)に関しては、「にんじん状の雲の特徴」の項目で述べたとおり、この雲の先端付近では次々と新しい積乱雲が発生します。このため、個々の積乱雲は風下側に移動しますが、雲域全体としては、停滞又は風上側にのびていくように見えることがあります。よって、問題文(d)は、正しいです。

第20回気象予報士試験 学科

図26 第20回学科 専門知識問3

 (a)に関しては、図2を用いて述べたとおり、特に先の細くなった部分で顕著現象を伴うことが多いです。よって、問題文(a)の下線部は、正しいです。

第13回気象予報士試験 学科

図27 第13回学科 専門知識問10

 (b)に関しては、図2を用いて述べたとおり、しばしば豪雨などの顕著現象を伴います。よって問題文(b)の下線部は、正しいです。

第8回気象予報士試験 学科

図28 第8回学科 専門知識問4

 ③に関しては、図2を用いて述べたとおり、特に先の細くなった部分で顕著現象を伴うことが多いです。よって、問題文③は、正しいです。

さいごに

 過去には、収束(豆知識7)、降水帯セル(豆知識44)、バックビルディング型やメソ対流系(豆知識47)を取り上げました。これらの概念(用語)と結び付けて、にんじん状の雲を整理してみます。
 にんじん状の雲は、大気下層の顕著な収束帯付近で対流セルが継続的に発生し、それらが風下へ流される間に積乱雲へと発達し、雲帯の幅を広げていく過程が長時間にわたって繰り返されることで形成されます。その結果、雲は先細りではなく、風下に向かって末広がりとなる特徴的な形状を示します。
 すなわち、にんじん状の雲とは、バックビルディング型のメソ対流系として組織化された「雲システム」と言えます。

今回の豆知識で参考にした図書等

●荒木健太郎(2014)雲の中では何が起こっているのか,ベレ出版
●猪川元興,加藤一靖,中島 忍(1980)1978年4月6日,「ひまわり」の画像にみられた「にんじん」状雲パターン,天気27: 219-224
●石塚昌範,児玉安正(2001)TRMMの多重センサー観測データによる九州南方海上に発現したにんじん状雲の解析,天気48: 673-687
●伊藤秀喜,麻生 正,桜田正美(1992)テーパリングクラウドの発生状況と発生時の雲パターン,気象衛星センター技術報告24: 1-8
●岩槻秀明(2017)気象学のキホンがよ~くわかる本(第3版),秀和システム
●小倉義光(2013)テーパリングクラウドという名称について, 天気60: 649
●小倉義光,新野 宏(2006)謎に満ちた不意打ち集中豪雨―2004年6月30日静岡豪雨の場合(その1), 天気53: 713-719
●気象衛星センター(2022)気象衛星画像の解析と利用(2022改訂版),気象衛星センター技術報告 特別号(2022)
●気象庁のwebサイト
●気象業務支援センターのwebサイト
●高知大学のwebサイト(気象情報項)
●中島俊夫(2022)イラスト図解 よくわかる気象学 実技編,ナツメ社
●西山浩司,岩井真央,小柳賢史,藤崎成晶,佐藤昂介(2011)豪雨災害とテーパリングクラウドの関係,土木学会論文集B1(水工学)67: 487-492
●二宮洸三(2001) 豪雨と降水システム,東京堂出版
●長谷川隆司,上田 文夫,柿本 太三(2006)気象衛星画像の見方と使い方,オーム社
●長谷川隆司,中村和信(1981)寒冷前線に伴うCarrot-shaped cloud,天気28: 865-868

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