はじめに
豆知識6において「気象現象は、水平スケールが2km以下の小規模(ミクロスケール)、2~2000kmの中規模(メソスケール)、2000km以上の大規模(マクロスケール)に分けられること」「中規模はさらにメソγ(2~20km)、メソβ(20~200km)、メソα(200~2000km)のスケールに細分されること」を述べました。
このうち、積乱雲は「メソγスケール」に属し、集中豪雨は「メソβスケール」の現象であると言えます。集中豪雨が発生するためには、積乱雲が次々と形成される必要があります。このような積乱雲群はメソ対流系と呼ばれます。
今回のテーマは「線状降水帯」ですが、その前に「メソ対流系」についてお話します。
メソ対流系
メソ対流系の形態の分類を、表1に示します。メソ対流系は「団塊状」のものと「線状」のものに大別され、その中でさらにいくつかの型に分類できます。

団塊状の型のうち、「(1)組織化されていないマルチセル型」と「(2)組織化されたマルチセル型」は、前回の豆知識46のテーマでしたね。また、「(3)スーパーセル型」は豆知識43で取り上げました。
梅雨前線上に発生する低気圧や「(4)メソスケール対流複合体」は、メソαスケールの気象攪乱です。メソスケール対流複合体は、梅雨期の東アジア地域でも観測される積乱雲群です。
線状の型については、「(5)スコールライン型」と「(6)非スコールライン型(降水バンド型)」に大別されますが、次の項目でもう少し深掘りします。
なお、表1の分類方法や名称、具体例については、他にも考え方があります。表1は一つの代表的な分類例として捉えてください。
線状(帯状)の降水域
先ほどの表1では、線状のメソ対流系は2つに分類されていました。次に、線状(帯状)降水域の型を3つに分類した例を、図1に示します。
図1では、線状(帯状)の降水域を、①スコールライン型、②(狭義の)バックビルディング型、③バックアンドサイドビルディング型に分けています。②と③をまとめて(広義の)バックビルディング型と呼ぶことがあります。

図1 線状(帯状)降水域の3つの型
注)瀬古(2020)を参考に、簡略化したイメージ図を作成した。
豆知識46において、「一般風の鉛直シアーが強いと、次々と新しい積乱雲が発生する(降水セルが自己増殖する)好条件になる」ことを述べました。鉛直シアーが強いというときには、「風速や風向、あるいはその両方が高度とともに大きく変化している状況」を意味しましたね。
下層風と中層風の関係について見ると、図1の①スコールライン型は逆方向であり、③バックアンドサイドビルディング型は直交方向です。②(狭義の)バックビルディング型の場合、下層と中層の風向きはほぼ同じですが、風速差はあります。先ほど述べたように、風速だけが高度とともに大きく変化している場合でも鉛直シアーが強いと言えます(この点は、豆知識46の図2も参照)。
次に、線状(帯状)の降水域の発生メカニズムを紹介します。その代表例として、狭義のバックビルディング型(図1②)を、図2に示します。

図2 線状(帯状)の降水域の発生メカニズム(狭義のバックビルディング型)
まず、暖かく湿った空気が、大気下層に継続的に流入します(①)。
前線や地形などの影響により、その暖かく湿った空気が上空に持ち上げられ、水蒸気が凝結(豆知識15、16)し、雲が発生します(②)。
大気の成層状態が不安定な中で、発生した雲が積乱雲へと発達(豆知識16)します(③)。
風上側で次々に発生した積乱雲は、上空の強い風によって風下側に移動して一列に並びます(④)。
これらの雲底下では、線状 (帯状)の強い降水域が形成されます(⑤)。
このように、バックビルディング型では、風上側で新しい積乱雲が次々と発生し、風下側に向かって発達しながら移動していきます。次々に新しい積乱雲が発生し、同一地点の上空を通過していくため、激しい雨が長く続くことになります。
積乱雲が圏界面まで発達すると(⑥)、その高度付近で雲が水平に広がります(かなとこ状の上層雲を形成、豆知識28)。このため、上層の雲域(⑥)よりも狭い範囲に、線状(帯状)の降水域(⑤)が形成されます。
線状降水帯とは
日本における集中豪雨は、主に「線状降水帯」と呼ばれる、ほぼ停滞する線状の降水システムによってもたらされます。
「線状降水帯」という用語は、2000年前後に一部の研究者の間で使われ始めたとされています。その後、2007年に発刊された「豪雨・豪雪の気象学」(末尾の参考図書を参照)で、現在とほぼ同様の内容が定義されています。
2011年7月の新潟・福島豪雨では、発生要因として、気象研究所からの報道発表資料の中で「線状降水帯」の言葉が用いられ、さらに2014年8月の広島豪雨や2015年9月の関東・東北豪雨以降は、多くの報道機関でも使われるようになりました。
「線状降水帯」という用語は、専門家の間では様々な定義が使われています。このような状況の中、気象庁は、「次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなし数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、長さ50~300km程度、幅20~50km程度の線状に伸びる強い降水域を『線状降水帯』という」としています。
また、気象庁が「線状降水帯」をキーワードに使用して解説する「顕著な大雨に関する気象情報」(2021年6月から運用開始)は、図3の基準をすべて満たす場合に発表されます。

図3 「顕著な大雨に関する気象情報」の発表基準
注)筆者が注目した点は、赤字にした。
この発表基準(図3)の2番目の項目に、「形状が線状(長軸・短軸比2.5以上)」と書かれています。(ちなみに、過去には「長軸と短軸の比が3対1以上のものを“線状”」に分類し、集中豪雨の事例を解析した研究報告もあります。)
参考までに、気象庁の発表基準(図3)にある「長軸・短軸比2.5以上」の、「2.5」のイメージを図4に示します。

図4 長軸・短軸比2.5のイメージ
線状降水帯による顕著な大雨によって、多くの災害が毎年のように発生しています。線状降水帯の発生メカニズムについては、未解明な点も多く、今後も継続的な研究が必要不可欠となっています。
線状降水帯の事例
気象庁が「顕著な大雨に関する気象情報」を発表し、線状降水帯が発生した16の事例を紹介します。
なお、線状降水帯が発生する位置と地上天気図でみた総観規模擾乱(環境場)との関係については、5つのパターンに分類されています(加藤,2017)。すなわち、線状降水帯は「1.低気圧の中心付近」「2.寒冷前線上」「3.停滞前線(梅雨前線・秋雨前線)上」「4.梅雨前線や秋雨前線の南側100~300km」「5.台風からの暖湿流が流入する領域」で発生するとされています。なお、5については、台風に加え、線状降水帯の北側100~300kmに停滞前線(特に秋雨前線)が存在することが多いことが指摘されています。
今回の豆知識で紹介するのは、任意に抽出した一部の事例です。また、地上天気図の時刻と発生時刻が一致しない場合が多いため、前線と線状降水帯の厳密な位置関係の検討は行っていません。そこで、今回の豆知識では大まかな分類として、線状降水帯の発生パターンを「1)低気圧や前線付近」「2)低気圧や前線の南側100~300km」「3)台風から暖湿気が流入する領域」「4)前線に台風起源の暖湿気が流入する領域(前線+台風複合型)」「5)その他の環境場(上記に明確に分類できないもの)」としました。
1)低気圧や前線付近で発生
(1)2023年7月12日21~22時頃(石川、富山県)
・「顕著な大雨に関する気象情報」が、21時39分に石川県(加賀)、22時09分に富山県(西部)、22時39分に富山県(東部、西部)に発表された。
・梅雨前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込み、線状降水帯が発生した(図5)。



図5 2023年7月12日21:40の気象レーダー観測画像(①)、同日21時の地上天気図(②)、同日21時の気象衛星による赤外画像(③)
注)①:気象庁提供の気象レーダー(いわゆる雨雲レーダー)観測に基づく換算降水強度。注目した県名を白字で加筆。②:気象庁提供の地上実況天気図(一部を拡大したもの)。③:気象衛星画像は高知大学気象情報頁 (http://weather.is.kochi-u.ac.jp/) による。①~③:注目した線状降水帯の大まかな位置に黄色の矢印を記入した。
(2)2024年9月21日9時頃(石川県)
・「顕著な大雨に関する気象情報」が、9時07分に石川県(能登)に発表された。
・日本海から東北地方付近に停滞した前線や、前線上の低気圧に向かって暖かく湿った空気が流れ込み、線状降水帯が発生した(図6)。




図6 2024年9月21日9:10の気象レーダー観測画像(①)、同日9時の地上天気図(②)、同日9時の気象衛星による赤外画像(③)と可視画像(④)
注)①:気象庁提供の気象レーダー(いわゆる雨雲レーダー)観測に基づく換算降水強度。注目した県名を白字で加筆。②:気象庁提供の地上実況天気図(一部を拡大したもの)。③、④:気象衛星画像は高知大学気象情報頁 (http://weather.is.kochi-u.ac.jp/) による。①~④:注目した線状降水帯の大まかな位置に黄色の矢印を記入した。
2)低気圧や前線の南側100~300kmで発生
(1)2022年7月18日15時頃(長崎県)
・「顕著な大雨に関する気象情報」が、15時09分に長崎県(壱岐・対馬)に発表された。
・黄海から日本海に進む低気圧や前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込み、線状降水帯が発生した(図7)。




図7 2022年7月18日15:00の気象レーダー観測画像(①)、同日15時の地上天気図(②)、同日15時の気象衛星による赤外画像(③)と可視画像(④)
注)図の注釈は、図6を参照。
(2)2023年7月10日3時頃(福岡県)
・「顕著な大雨に関する気象情報」が、3時09分に福岡県(福岡地方)に発表された。
・梅雨前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込み、線状降水帯が発生した(図8)。



図8 2023年7月10日3:10の気象レーダー観測画像(①)、同日3時の地上天気図(②)、同日3時の気象衛星による赤外画像(③)
注)図の注釈は、図5を参照。
(3)2023年7月10日8~9時頃(佐賀、大分、福岡県)
・「顕著な大雨に関する気象情報」が、8時10分に佐賀県(南部)、8時20分に大分県(北部、西部)、8時29分に福岡県(北九州地方、筑豊地方、筑後地方)に発表された。
・梅雨前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込み、線状降水帯が発生した(図9)。




図9 2023年7月10日8:50の気象レーダー観測画像(①)、同日9時の地上天気図(②)、同日9時の気象衛星による赤外画像(③)と可視画像(④)
注)図の注釈は、図6を参照。
(4)2024年6月21日5~6時頃(鹿児島県)
・「顕著な大雨に関する気象情報」が、5時18分に鹿児島県(大隅地方)、5時27分に鹿児島県(薩摩地方、大隅地方)に発表された。
・東シナ海から九州を通って日本の南へのびる梅雨前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込み、線状降水帯が発生した(図10)。



図10 2024年6月21日5:20の気象レーダー観測画像(①)、同日6時の地上天気図(②)、同日6時の気象衛星による赤外画像(③)
注)図の注釈は、図5を参照。
(5)2024年9月20日6時頃(秋田県)
・「顕著な大雨に関する気象情報」が、5時47分に秋田県(沿岸)に発表された。
・低気圧が前線を伴って日本海を東進し、その低気圧や前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込み、線状降水帯が発生した(図11)。



図11 2024年9月20日5:50の気象レーダー観測画像(①)、同日6時の地上天気図(②)、同日6時の気象衛星による赤外画像(③)
注)図の注釈は、図5を参照。
(6)2025年8月11日3~4時頃(長崎県)
・「顕著な大雨に関する気象情報」が、3時27分に長崎県(南部)に発表された。
・前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込み、線状降水帯が発生した(図12)。



図12 2025年8月11日3:30の気象レーダー観測画像(①)、同日3時の地上天気図(②)、同日3時の気象衛星による赤外画像(③)
注)図の注釈は、図5を参照。
(7)2025年9月10日5~6時頃(長崎、熊本県)
・「顕著な大雨に関する気象情報」が、5時27分に長崎県(南部)、5時57分に熊本県(天草・芦北地方)に発表された。
・前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込み、線状降水帯が発生した(図13)。



図13 2025年9月10日5:50の気象レーダー観測画像(①)、同日6時の地上天気図(②)、同日6時の気象衛星による赤外画像(③)
注)図の注釈は、図5を参照。
3)台風から暖湿気が流入する領域で発生
(1)2023年8月9日21時頃(熊本、宮崎県)
・「顕著な大雨に関する気象情報」が、21時00分に熊本県(球磨地方)、宮崎県(南部山沿い)に発表された。
・台風第6号の発達した雨雲や周辺の暖かく湿った空気が流れ込み、線状降水帯が発生した(図14)。



図14 2023年8月9日21:00の気象レーダー観測画像(①)、同日21時の地上天気図(②)、同日21時の気象衛星による赤外画像(③)
注)図の注釈は、図5を参照。
(2)2024年8月29日18~19時頃(徳島、香川県)
・「顕著な大雨に関する気象情報」が、18時29分に徳島県(北部)、香川県に発表された。
・台風第10号本体やその周辺、さらに太平洋高気圧の縁をまわる暖かく湿った空気の影響が続き、線状降水帯が発生した(図15)。



図15 2024年8月29日18:30の気象レーダー観測画像(①)、同日18時の地上天気図(②)、同日19時の気象衛星による赤外画像(③)、同日18時の可視画像(④)
注)図の注釈は、図6を参照。
4)前線に台風起源の暖湿気が流入する領域で発生(前線+台風複合型)
(1)2023年6月2日8~9時頃(高知県)
・「顕著な大雨に関する気象情報」が、8時10分に高知県(西部)に発表された。
・梅雨前線に向かって台風第2号周辺の暖かく湿った空気が流れ込み、線状降水帯が発生した(図16)。



図16 2023年6月2日8:30の気象レーダー観測画像(①)、同日9時の地上天気図(②)、同日9時の気象衛星による赤外画像(③)
注)図の注釈は、図5を参照。
(2)2023年6月2日12時頃(和歌山県)
・「顕著な大雨に関する気象情報」が12時01分に和歌山県(北部)に発表された。
・梅雨前線に向かって台風第2号周辺の暖かく湿った空気が流れ込み、線状降水帯が発生した(図17)。



図17 2023年6月2日12:00の気象レーダー観測画像(①)、同日12時の地上天気図(②)、同日12時の気象衛星による赤外画像(③)
注)図の注釈は、図5を参照。
(3)2023年6月2日15~16時頃(三重、愛知県)
・「顕著な大雨に関する気象情報」が15時40分に三重県(南部)、15時51分に愛知県(東部)に発表された。
・梅雨前線に向かって台風第2号周辺の暖かく湿った空気が流れ込み、線状降水帯が発生した(図18)。



図18 2023年6月2日15:30の気象レーダー観測画像(①)、同日15時の地上天気図(②)、同日15時の気象衛星による赤外画像(③)
注)図の注釈は、図5を参照。
5)その他の環境場で発生
(1)2024年8月26日0~1時頃(栃木県)
・「顕著な大雨に関する気象情報」が0時27分に栃木県(北部)に発表された。
・太平洋高気圧の縁をまわる暖かく湿った空気と日中の気温上昇の影響で、大気の状態が非常に不安定となり、線状降水帯が発生した(図19)。



図19 2024年8月26日0:30の気象レーダー観測画像(①)、同日3時の地上天気図(②)、同日1時の気象衛星による赤外画像(③)
注)図の注釈は、図5を参照。
(2)2024年10月22日15時頃(宮崎県)
・「顕著な大雨に関する気象情報」が、15時07分に宮崎県(南部平野部)に発表された。
・対馬海峡の低気圧に向かって高気圧の縁をまわる暖かく湿った空気が流れ込み、大気の状態が非常に不安定となり、線状降水帯が発生した(図20)。




図20 2024年10月22日15:10の気象レーダー観測画像(①)、同日15時の地上天気図(②)、同日15時の気象衛星による赤外画像(③)と可視画像(④)
注)図の注釈は、図6を参照。
それぞれの事例において、気象レーダー観測画像と気象衛星画像(赤外画像)を見比べてみましょう。図2を用いて述べたように、雲域よりも狭い範囲に線状(帯状)の強い降水域が形成される傾向があります(例えば図6、7、11)
いずれにしても、図5~20の16事例を通して、線状降水帯のイメージを掴んでいただけると幸いです。
過去の気象予報士の試験問題
「線状降水帯」に類する言葉に「帯状降水域」があります。過去の気象予報士試験においては、この用語も登場しており、今回は、両者に関する出題例を紹介します。
第61回気象予報士試験実技2
実技2では、XX年7⽉5⽇から6⽇にかけての⽇本付近における気象について問われました。このうち、7月5日21時(12UTC)の地上天気図を、図21として示します。梅雨前線が日本付近に確認できます。

図21 地上天気図(第61回実技2より引用) XX年7月5日21時(12UTC)
注)実線:気圧(hPa) 。矢羽:風向・風速(ノット)(短矢羽:5ノット、長矢羽:10ノット、旗矢羽:50ノット)。図の番号は、実際の予報士試験の図の番号とは異なる。
以下に紹介するのは、その12時間後(7月6日9時)の気象衛星画像(赤外画像)とレーダーエコー合成図に関する設問です。

図22 第61回実技2問2(1)

図23 気象衛星赤外画像(第61回実技2より引用) XX年7月6日9時(00UTC)

図24 レーダーエコー合成図(第61回実技2より引用) XX年7月6日9時(00UTC)
注)塗りつぶし域:前1時間降水量(mm)(凡例のとおり)。
図25は、先ほどのレーダーエコー合成図(図24)に、答えを導くうえでヒントとなる情報(図23中の領域A、B、C)を、私が書き込んだものです。なお、豆知識17で述べたとおり、赤外画像で白い(明るい)雲は雲頂高度が高い雲、暗め(灰色)の雲は雲頂高度が低い雲です。この点を踏まえて、図23と25を比較してみましょう。

図25 解答を導くうえでヒントとなる情報注)図24に、図23中の領域A、B、Cを加筆したもの。
領域Aは、赤外画像(図23)で白く見えるため、雲頂高度はやや高いです。しかし、レーダーエコー合成図(図25)では、降水はほとんど観測されていません。よって、主に上・中層の雲域と考えられます。
領域B(⼭地の南⻄斜⾯)は、赤外画像(図23)では暗めに写っている(一部透けて見える)ため、雲頂高度は低いです。一方、レーダーエコー合成図(図25)では、強い降水が観測されています。よって、主に下層の対流雲(豆知識28)の雲域と考えられます。
領域Cは、赤外画像(図23)で白く輝いて見えるため、雲頂高度は高いです。また、レーダーエコー合成図(図25)でも、非常に強い降水が観測されています。さらに、赤外画像(図23)で、雲域は団塊状に写っていることから、積乱雲主体であると考えられます。
なお、領域Cでは、降水域(図25)の範囲が雲域(図23)のそれよりも狭く、線状に非常に強く観測されていることから、線状降水帯が発生していることが想定されます。
以上のことから解答は、
領域A:雲頂高度はやや高いが、降水はほとんどない(弱い)。
領域B:雲頂高度は低いが、強い降水域が分布している。
領域C:雲は団塊状で雲頂高度は高く、雲域より狭い範囲に、非常に強い降水域が線状にのびる。
となります(気象業務支援センターの解答例)。
第56回気象予報士試験実技1
実技1では、XX 年12⽉10⽇から11日にかけての⽇本付近における気象について問われました。このうち、12月10日9時(00UTC)の地上天気図を、図26として示します。東シナ海に前線を伴った低気圧が確認できます。

図26 地上天気図(第56回実技1より引用) XX年12月10日9時(00UTC)。
注)実線:気圧(hPa) 。矢羽:風向・風速(ノット)(短矢羽:5ノット、長矢羽:10ノット、旗矢羽:50ノット)。図の番号は、実際の予報士試験の図の番号とは異なる。
以下に紹介するのは、その12時間後(12月10日21時)のレーダーエコー合成図と気象衛星画像(赤外画像)に関する設問です。

図27 第56回実技1問4(1)(2)

図28 レーダーエコー合成図(第56回実技1より引用) XX年12月10日21時(12UTC)
注)塗りつぶし域:降水量強度(mm/h)(凡例のとおり)。

図29 気象衛星赤外画像(第56回実技1より引用) XX年12月10日21時(12UTC)
筆者注)図中の破線やA, B, a, b の記号は、今回の豆知識では省略した問4(3)に関するもの。
問4(1)では、強雨域の特徴が問われているので、
(気象業務支援センターの解答例)「強雨域は帯状の南西側ほど幅が狭くなっている。」
となります。
今回の豆知識のテーマである、線状降水帯の形状を示しているとも考えられるので、
(その他の解答例)「強雨域は線状にのび南西側ほど幅が狭くなっている。」
としても良いと思います。
問4(2)では、レーダーエコー合成図(降水域)と気象衛星赤外画像(雲域)の見え方の違いが問われています。図29のA付近が設問の対象であり、この領域はレーダーエコー合成図(図28)で非常に強い降水が観測されています。
また、赤外画像(図29)において雲域は、白く輝き、また凹凸がみられることから、雲頂高度が高い積乱雲が主体であると考えられます。雲域(図29)と比較して、非常に強い降水域(図28)の範囲が狭いのは、積乱雲が圏界面付近まで達して、かなとこ状の上層雲を形成したためと考えられます。以上のことから解答は、
(気象業務支援センターの解答例)「積乱雲が圏界面まで発達し、その付近で雲が水平に広がるため。」
となります。
また、先ほど述べた「かなとこ状」の言葉を用いて、
(その他の解答例)「積乱雲が圏界面まで達し、その付近でかなとこ状になったため。」
としても良いと思います。
なお、これらについては、今回の豆知識の図2を用いて述べた内容もあわせてご参照ください。
第51回気象予報士試験 学科

図30 第51回学科 一般知識問9
(a)に関しては、図2を用いて述べたとおり、帯状降水域は、次々と発生した積乱雲が風下側へ移動して一列に並びます。よって、問題文の下線部(a)は、誤りです。
(b)に関しては、図1で示したとおり、風向が高度によって異なる場合があります。よって、問題文の下線部(b)は、誤りです。
(c)に関しては、図2を用いて述べたとおり、一般風の風上側に形成されます。よって、問題文の下線部(c)は、誤りです。
(d)に関しては、図1で示したとおり、降水域の走向(積乱雲が並ぶ方向)は、一般風(中層風)の風向に対して垂直ではない場合があります。よって、問題文の下線部(d)は、誤りです。
第36回気象予報士試験実技1

図31 第36回実技1問4(1)

図32 地上天気図(第36回実技1より引用) XX年7月11日21時(12UTC)。
注)実線:気圧(hPa) 。矢羽:風向・風速(ノット)(短矢羽:5ノット、長矢羽:10ノット、旗矢羽:50ノット)。図の番号は、実際の予報士試験の図の番号とは異なる。

図33 解析雨量による前3時間降水量図(第36回実技1より引用) XX年7月11日21時(12UTC)
注)塗りつぶし域:前3時間降水量(凡例のとおり)。灰色域:レーダーデータの処理範囲外
図33と図32を比較してみれば、降水域Bが寒冷前線のすぐ南側に位置していることが分かります。よって解答は「南側にある」となります。
第26回気象予報士試験 学科

図34 第26回学科 専門知識問2
図2を用いて述べたとおり、降水域の走向(積乱雲が並ぶ方向)と、一般風(中層風)の風向が同じ場合、次々と積乱雲が真上(同一地点)を通り抜けていくので、激しい雨が長く続くことになります。よって、(a)は「A」、(b)は「長時間持続する」となります。
一方で、線状に並ぶ降水セルを流す一般風が、線状エコーの走向と交差する場合を考えてみます。例えば図34において線状エコーが南東進する場合、進行方向にある地点では、激しい大気現象が急に出現することになります。よって、(c)は「B」となります。
(d)に関しては、豆知識44の図1を用いて述べたように、孤立した積乱雲の寿命は30~60分程度です。よって、(d)は「数十分」となります。
以上のことから、本問の解答は、(a)A、(b)長時間持続する、(c)B、(d)数十分、とする③です。
第26回気象予報士試験実技2
実技2では、XX 年6⽉2⽇から3⽇にかけての⽇本付近における気象について問われました。このうち、6月2日9時(00UTC)の地上天気図を、図35として示します。停滞前線が東シナ海付近に確認できます。

図35 地上天気図(第26回実技2より引用) XX年6月2日9時(00UTC)
注)実線:気圧(hPa) 。矢羽:風向・風速(ノット)(短矢羽:5ノット、長矢羽:10ノット、旗矢羽:50ノット)。図の番号は、実際の予報士試験の図の番号とは異なる。
以下に紹介するのは、その時(6月2日9時)の気象衛星画像とレーダーエコー合成図に関する設問です。

図36 第26回実技2問1(3)①、②

図37-1 気象衛星赤外画像(第26回実技2より引用) XX年6月2日9時(00UTC)

図37-2 気象衛星可視画像(第26回実技2より引用) XX年6月2日9時(00UTC)

図38 レーダーエコー合成図(第26回実技2より引用) XX年6月2日9時(12UTC)
注)エコー強度(mm/h):凡例の通り
問1(3)①については、図37の雲域Aは、赤外画像(図37-1)で白いことから雲頂高度が高い雲であり、可視画像(図37-2)でも白いことから厚い雲です。団塊状で可視画像では凹凸があり、一部で影も見えます。これらの特徴をもつ雲は積乱雲で、その積乱雲が連なって列状または帯状をなしています。以上のことから解答は、
(気象業務支援センターの解答例)「赤外、可視画像とも白く、団塊状の積乱雲の雲列となっている。」
となります。
問1(3)②については、図38で32mm/h以上の降雨域の形状の特徴、およびその降雨域が雲域A(図37)のどの部分に対応しているのかを見て、それをありのままに書くと、
(気象業務支援センターの解答例)「帯状の狭い範囲に分布し、雲域の北西縁付近に位置している。」
となります。
今回の豆知識のテーマである、線状降水帯の形状を示しているとも考えられるので、
(その他の解答例)「降雨域は線状をなし、雲域Aの北西縁付近に位置している。」
としても良いと思います。
さいごに
今回の豆知識では、「メソ対流系の分類」と「線状(帯状)の降水域の型」を整理したうえで、「線状降水帯」のお話をしました。
前述のとおり、「線状降水帯」という言葉は、近年注目を集めています。ただし、「線状降水帯」に伴う集中豪雨は、最近になって起こるようになった現象ではなく、「線状(帯状)の強い降水域」として昔から恐れられていたものです。
いずれにしても、気象庁では「線状降水帯」をキーワードとして「顕著な大雨に関する気象情報」などを随時発表しています。大雨による災害から身を守るため、これらの情報には十分注意しましょう。
今回の豆知識で参考にした図書等
●岩槻秀明(2017) 気象学のキホンがよ~くわかる本(第3版),秀和システム
●小倉義光(1994) お天気の科学-気象災害から身を守るために-,森北出版
●小倉義光(1997) メソ気象の基礎理論,東京大学出版会
●小倉義光(1999) 一般気象学(第2版),東京大学出版会
●小倉義光,隈部良司,西村修司(2011)「平成20年8月末豪雨」の天気系,特にメソ対流系の組織化について, 天気58: 201-217
●加藤輝之(2017) 図解説 中小規模気象学,気象庁
●Kato, T. (2020) Quasi-stationary band-shaped precipitation systems, named “senjo-kousuitai”, causing localized heavy rainfall in Japan, Journal of the Meteorological Society of Japan 98: 485-509
●加藤輝之(2023) 1. 線状降水帯のレビューと今後の課題, 天気70: 466-469
●気象庁のwebサイト
●気象業務支援センターのwebサイト
●高知大学のwebサイト(気象情報項)
●瀬古 弘(2010) 中緯度のメソβスケール線状降水系の形態と維持機構に関する研究, 気象庁研究時報62: 1-74
●津口裕茂(2016) 線状降水帯, 天気63: 727-729
●津口裕茂,加藤輝之(2014) 集中豪雨事例の客観的な抽出とその特性・特徴に関する統計解析, 天気61: 455-469
●二宮洸三(2001) 豪雨と降水システム,東京堂出版
●吉﨑正憲,加藤輝之(2007) 豪雨・豪雪の気象学,朝倉書店
