はじめに
高気圧は、それを維持する機構の違いから、寒冷高気圧(シベリア高気圧など)と温暖高気圧(太平洋高気圧など)の2種類に分類されます(豆知識39~41)。
冬のシベリア高気圧や夏の太平洋高気圧はほとんど移動しませんが、等圧線の形状が円形や長円形を示し、温帯低気圧と同様に規則的に移動する高気圧も存在します。これが移動性高気圧です。
今回の豆知識では、この「移動性高気圧」の特徴についてお話します。また、関連する過去の気象予報士試験の問題も紹介します。
移動性高気圧とは
気象庁のwebサイト(高気圧の用語)では、移動性高気圧を「温帯低気圧と交互に東に移動していく高気圧。春、秋に多く現れる」と定義しています。
図1~5に、5つの事例を示します。これらの事例では、移動性高気圧が東あるいは南東に進んでいる様子が確認できます。また、高気圧の東方面には低気圧が位置し、高気圧の西方面にも別の低気圧が存在する場合が多く見られます。
つまり、移動性高気圧と温帯低気圧が交互に東に移動していることが分かります。

図1 2025年5月7日21時~9日9時の地上天気図
注)①~④は気象庁提供の地上実況天気図(速報天気図)。注目する高気圧の中心位置に、青の矢印を記入した。

図2 2024年10月12日21時~14日9時の地上天気図
注)図の注釈は、図1を参照。

図3 2023年4月3日21時~5日9時の地上天気図
注)図の注釈は、図1を参照。

図4 2022年10月30日21時~11月1日9時の地上天気図
注)図の注釈は、図1を参照。

図5 2022年3月3日21時~5日9時の地上天気図
注)図の注釈は、図1を参照。
移動性高気圧は、中緯度偏西風帯の傾圧不安定波(豆知識8)に対応する下層の高気圧(豆知識9)で、通常、温帯低気圧とペアをなしています。
図6をご覧ください。この図は、豆知識9の図1をベースにしながら、「上空①と②、地上の左側の低気圧の内容」を加筆したものです。豆知識9では「低気圧」が主役であったことから、図6の赤の破線で囲った部分を中心に話をしました。今回は、「高気圧」が主役ですので、図6の青の破線で囲った部分に注目してください。この図では、上空の気圧の尾根(リッジ)(③)前面では下降気流が強まり、天気が回復しやすいことを表しています。
図6の青の破線で囲った部分は、後で述べる図7~11の②の事例とも関係してくることを、あらかじめご承知おきください。

図6 発達しつつある上空の偏西風波動(気圧の尾根・谷)と地上の高・低気圧との関係(模式図)
注)豆知識9における図1に、「上空①と②、地上の左側の低気圧の内容」を加筆したもの。図の説明の詳細は、豆知識9の本文を参照。
移動性高気圧の前面(東側)と後面(西側)の天気(5事例)
ご承知のとおり、移動性高気圧に覆われると、一般に天気は良くなります。しかし、正確には天気が良いのは主に高気圧の前面(東側)です。移動性高気圧の中心が通過する頃には、薄雲が広がり始め、次の低気圧が近づくにつれて次第に天気が悪くなることが多くあります。
これは、高気圧の後面(西側)の領域が、次に近づく低気圧の前面(東側)に位置することが多く、その結果として上空には南西から暖気が流入しやすくなる(豆知識9、豆知識20)ためです。
それでは、移動性高気圧が通過するときの、上空の気圧の尾根(リッジ)、雲域、及び降水域の特徴を、5つの事例で確認してみましょう(図7~11)。
まずは2025年5月9日9時の事例に関し、図7をご覧ください。地上天気図(①)を見ると、移動性高気圧が日本の東(青の矢印)、温帯低気圧が黄海付近(赤の矢印)に位置しています。次に、500hPaの解析図(②)。地上の高気圧に対応するリッジ(青のギザギザ線)、地上の低気圧に対応するトラフ(赤の二重線)が確認できます。この点は、図6(青の破線で囲った部分)の配置と似ていますね。
気象衛星画像をみると(③、④)、高気圧の中心付近には雲域がほとんど見られず、晴天域となっています。
一方、東日本では、可視画像(③)で暗く写り一部透けて見えること、赤外画像(④)で白く写っていることから、主に薄い上層雲が広がっていると判断できます。近畿・中国・四国地方では、可視画像では全般的に白く、赤外画像では白く写り、上層雲よりは厚みのある雲域が広がっています。すなわち、高気圧の後面(西側)では、上・中層雲が広がる傾向を確認できます。
また、東シナ海や九州地方の一部では、可視(③)、赤外(④)ともに白く写り、厚くて雲頂高度の高い雲が確認できます。これらの雲域に対応して降水域も見られます(⑤)。
2025年5月9日9時





図7 2025年5月9日9時の地上天気図(①)、500hPa 高度・渦度 解析図(②)、気象衛星による可視画像(③)、赤外画像(④)、及び気象レーダー観測画像(⑤)
注)①:気象庁提供の地上実況天気図(速報天気図)。注目する高気圧に青、低気圧に赤の矢印をそれぞれ記入。
②:気象庁の数値予報モデルによる予測値(初期値)。上空の気圧の尾根(リッジ)の大まかな位置を青のギザギザ線、上空の気圧の谷(トラフ)の大まかな位置を赤の二重線で示した。本図の見方や渦度については、豆知識10を参照。
③と④:高知大学気象情報頁 (http://weather.is.kochi-u.ac.jp/) による。画像の見方は、豆知識17を参照。
⑤:気象レーダー(いわゆる雨雲レーダー)観測に基づく換算降水強度(気象庁提供)。
②~⑤:①において注目した地上高気圧の中心位置に「高」、低気圧の中心位置に「低」の文字をそれぞれ記入した。
その他の4つの事例(図8~11)についても、高気圧の中心付近や前面(東側)では、雲域があまり見られない一方、高気圧の後面(西側)では、上・中層雲が広がる傾向を確認できます。
2024年10月14日9時





図8 2024年10月14日9時の地上天気図(①)、500hPa 高度・渦度 解析図(②)、気象衛星による可視画像(③)、赤外画像(④)、及び気象レーダー観測画像(⑤)
注)図の注釈は、図7を参照。
2023年4月5日9時




図9 2023年4月5日9時の地上天気図(①)、500hPa 高度・渦度 解析図(②)、気象衛星による赤外画像(④)、及び気象レーダー観測画像(⑤)
注)可視画像は入手できなかった。各図の注釈は、図7を参照。
2022年10月31日9時





図10 2022年10月31日9時の地上天気図(①)、500hPa 高度・渦度 解析図(②)、気象衛星による可視画像(③)、赤外画像(④)、及び気象レーダー観測画像(⑤)
注)図の注釈は、図7を参照。
2022年3月4日9時





図11 2022年3月4日9時の地上天気図(①)、500hPa 高度・渦度 解析図(②)、気象衛星による可視画像(③)、赤外画像(④)、及び気象レーダー観測画像(⑤)
注)赤外画像のみ、10時の観測データ。各図の注釈は、図7を参照。
気象予報士試験での出題例
過去の気象予報士試験において、移動性高気圧に関する問題が出された例を、以下に紹介します。
第58回気象予報士試験 学科

図12 第58回学科 専門知識問8
(b)に関しては、図7及び図8~11を用いて述べたとおり、移動性高気圧の後面(西側)では、上・中層雲が広がっていることが多くあります。よって、問題文(b)は、正しいです。
第20回気象予報士試験 学科

図13 第20回学科 専門知識7
(b)に関しても、図7及び図8~11を用いて述べたとおり、移動性高気圧の後面(西側)では、上・中層雲が広がっていることが多くあります。よって、問題文(b)は、正しいです。
第9回気象予報士試験 学科

図14 第9回学科 専門知識8
(d)に関しては、図6を用いて述べたとおり、移動性高気圧は上空の気圧の尾根に対応しています。また、「移動性高気圧の前面(東側)と後面(西側)の天気(5事例)」の項目で述べたとおり、天気が良いのは主に高気圧の前面(東側)です。よって、問題文(d)は、正しいです。
さいごに
今回は移動性高気圧を取り上げましたが、豆知識39~41では停滞性の高気圧について紹介しました。これらの高気圧とは対照的に、低気圧は基本的に移動性であるため、「移動性低気圧」と呼ばれることはあまりありません。
移動性高気圧に覆われると天気が良くなることは、広く知られています。しかし、前述のとおり、移動性高気圧の中心が通過する頃には薄雲が広がり始め、天気が下り坂に向かうことが多くあります。「予想天気図では高気圧に覆われているのに、なぜ今日は曇りなのだろう」と感じることがあれば、今日の豆知識を思い出してもらえると嬉しいです。
今回の豆知識で参考にした図書等
●浅井冨雄,内田英治,河村 武 監修(1999)増補 気象の事典,平凡社
●安斎政雄(1998) 新・天気予報の手引(改訂29版),日本気象協会
●気象庁のwebサイト
●高知大学のwebサイト(気象情報項)
●下山紀夫(2023) 気象予報のための天気図のみかた(増補改訂新装版),東京堂出版
●中島俊夫(2022)イラスト図解 よくわかる気象学 実技編,ナツメ社
●新田 尚,立平良三(2004) 改訂版 最新 天気予報の技術,東京堂出版
●長谷川隆司,上田 文夫,柿本 太三(2006)気象衛星画像の見方と使い方,オーム社
