【豆知識10】渦度って何?|渦度は、上空の「気圧の谷」や「強風軸」の位置の推定に役立ちます

はじめに

 豆知識8や9では、上空の気圧の谷や偏西風(強風域)を取り上げました。これらの位置を推定するのに、「渦度」が役立ちます。「渦度」という言葉は、あまり、馴染みがないかもしれません。これから、図を使ってお話します。

渦度とは

渦度の概念

 図1①~③のように、風の流れの上に2本の棒、すなわち1本(赤)は流れに直角に、もう一本(青)は流れの方向に置いたとします。
 図1①のように、どこも同じ速度で直線的に流れている場合、2本の棒は東側に流されても形を変えません。

図1 風の流れと回転成分(渦度)

 しかし、直線的な流れであっても、その速度が北と南(上下)で異なる(図1②)ような場合(風のシアー:豆知識7)、赤の棒だけが回転します。また、図1③のように、速度は同じで湾曲して流れている場合、青の棒が回転します。

 図1②、③のように棒を回転させるような流れには、「渦度」があるといいます。ある点の渦度は流れのシアーによるものと、湾曲によるものの和として与えられます。このため、渦度風のシアーが大きいほど、また、流れの湾曲の度合いが大きいほど、大きくなります。

正渦度と負渦度

 前述のとおり、風が蛇行している所では、渦度が存在します。このうち、時計回り(高気圧性)の回転成分のことを負渦度反時計回り(低気圧性)の回転成分正渦度といいます(図2)。

図2 風が蛇行しているときの回転成分と渦度(模式図)

 正渦度が多く集まっている部分や正渦度の数値が大きい部分を、正渦度極大域と呼びます。また、これから正渦度極大域がやってくる場所を正渦度移流域といいます。

渦度と天気図

 渦度の解析には、500hPaの天気図が用いられます。一例として、2024年7月20日9時の500hPa 高度・渦度 解析図を示します(図3)。

図3  2024年7月20日9時の500hPa 高度・渦度 解析図(気象庁)
注)気象庁の数値予報モデルによる予測値(初期値)。図の見方のポイントを、図中に書き込んだ。

 正渦度域網掛け、負渦度域が白い領域となっています。また、渦度の中心付近の極大値(極大域)が、天気図に書き込まれています。その値は、〇〇×10-6 / s の「〇〇」の部分だけが表記されています。さらにこの図には、等渦度線と呼ばれる渦度の等しい値を結んだ線が、破線で描かれています。

上空の気圧の谷・尾根と渦度分布

「上空の気圧の谷・尾根」と「正・負渦度域」との対応

 前述の内容(図2)と少し重複しますが、上空において、等高度線が湾曲している場合を考えます(図4)。①、③、⑤の部分は湾曲していないので、渦度はありません。②の部分(気圧の谷)には正の渦度、④の部分(気圧の尾根)には負の渦度があります。

図4 「上空の気圧の谷・尾根」と「正・負渦度域」との対応(模式図)

 また、①~②~③の流れは、低気圧性の湾曲のため、どこでも正の渦度です。③~④~⑤の流れは、高気圧性の湾曲のため、どこでも負の渦度です。それぞれの値(絶対値)は、②及び④の所で最も大きくなります。すなわち、気圧の谷の所では大きな正の渦度気圧の尾根の所には大きな負の渦度があります。

正渦度域を考慮した、トラフ(上空の気圧の谷)解析

 以上のように、トラフと正渦度域は対応します。よって、等高度線や風のシアーに加え、正渦度域にも着目することで、より正確にトラフの位置を解析することができます(図5)。

図5 トラフ付近の等高度線、風向及び正渦度極大値(模式図)

トラフと正渦度域が対応している4つの事例

 それでは、トラフと正渦度域が対応している例を、具体的にみてみましょう。

2024年3月17日9時

 図6(左)は、2024年3月17日9時の500hPa 高度・風 予想図です。等高度線と風のシアーに着目して、トラフ付近のエリアを黄色の線で囲みました。
 図6(右)は、同時刻の500hPa 高度・渦度 解析図です。図6(左)のトラフ付近のエリアと同じ場所を、赤色の線で囲みました。この赤の枠内に、+227(×10-6 / s)と+189(×10-6 / s)の正渦度極大値がみられます。つまり、トラフと正渦度極大域の位置は、おおまかに一致していることが分かります。

図6  2024年3月17日9時の500hPa 高度・風 予想図(左)と500hPa 高度・渦度 解析図(右)
注1)左図は、欧州中期予報センターの数値予報モデルによる予測値(Windy.comのwebサイトより入手)。実線は等高度線。風速(ノット)の分布は、色を変えて表示(詳細は、まめ知識5の図6を参照)。細く途切れた線は、風の流れを示す。注目するトラフ付近を、黄色の線で囲った。
注2)右図は、気象庁の数値予報モデルによる予測値(初期値)。図の見方は、図3を参照)。注目するトラフ付近を、赤色の線で囲った。

 さらに、別の日時の3つの事例も紹介します(図7、8、9)。これらの図についても、トラフと正渦度極大域の位置は、おおまかに一致しています。

2024年3月25日21時

図7  2024年3月25日21時の500hPa 高度・風 予想図(左)と500hPa 高度・渦度 解析図(右)
注)図の注釈は図6参照。

2024年4月18日21時

図8  2024年4月18日21時の500hPa 高度・風 予想図(左)と500hPa 高度・渦度 解析図(右)
注)図の注釈は図6参照。

2024年6月21日9時

図9  2024年6月21日9時の500hPa 高度・風 予想図(左)と500hPa 高度・渦度 解析図(右)
注)図の注釈は図6参照。

強風軸と渦度0線

強風軸と渦度との関係

 次に、強風軸(上空で風が強い帯状の部分)と渦度との関係をみてみましょう。図10では、上空の西風の中では③の風が最も強く、②、①の順に風が弱まる(④、⑤の順に風が弱まる)と仮定しています。この場合、風のシアーによって、①~③に正渦度、③~⑤に負渦度が存在します。

図10 渦度0線と強風軸

 この正渦度と負渦度の境目を、渦度0線(ぜろせん)と呼びます。図10の場合、北極側に正渦度域、赤道側に負渦度域があります。このパターンでは、多くの場合、正渦度と負渦度の境目(渦度0線)が強風軸と対応します。

 なお、渦度0線であっても、北極側に負渦度、赤道側に正渦度が対応している場合は、強風軸とはならず、逆に最も風が弱い場所となります。

強風軸と渦度0線が対応している5つの事例

 それでは強風軸と渦度0線が対応している例を、具体的にみてみましょう。

2024年4月1日21時

 図11(上)は、2024年4月1日21時の500hPa 高度・風 予想図です。着目する強風軸を、黄色の線で囲みました。
 図11(下)は、同時刻の500hPa 高度・渦度 解析図です。注目する渦度0線(北極側の正渦度域と、赤道側の負渦度域の境目)を、赤色の線で囲みました。図11(上)の強風軸(黄色の枠内)と図11(下)の渦度0線(赤色の枠内)の位置を比べると、両者はおおまかに一致していることが分かります。

図11  2024年4月1日21時の500hPa 高度・風 予想図(上)と500hPa 高度・渦度 解析図(下)
注1)上図は、欧州中期予報センターの数値予報モデルによる予測値(Windy.comのwebサイトより入手)。実線は等高度線。風速(ノット)の分布は、色を変えて表示(詳細は、豆知識5の図6を参照)。細く途切れた線は、風の流れを示す。注目する強風軸を、黄色の線で囲った。
注2)下図は、気象庁の数値予報モデルによる予測値(初期値)。図の見方は、図3を参照)。注目する渦度0線付近を、赤色の線で囲った。

 さらに、別の日時の4つの事例も紹介します(図12、13、14、15)。これらの図についても、強風軸と渦度0線の位置は、大まかに一致しています。

2024年4月21日21時

図12  2024年4月21日21時の500hPa 高度・風 予想図(上)と500hPa 高度・渦度 解析図(下)
注)図の注釈は図11参照。

2024年5月5日9時

図13  2024年5月5日9時の500hPa 高度・風 予想図(上)と500hPa 高度・渦度 解析図(下)
注)図の注釈は図11参照。

2024年5月8日9時

図14  2024年5月8日9時の500hPa 高度・風 予想図(上)と500hPa 高度・渦度 解析図(下)
注)図の注釈は図11参照。

2024年6月28日21時

図15  2024年6月28日21時の500hPa 高度・風 予想図(上)と500hPa 高度・渦度 解析図(下)
注)図の注釈は図11参照。

おわりに

 今回の豆知識では、渦度について紹介しました。図5で示したとおり、等高度線や風のシアーに加え、正渦度域にも着目することで、より正確にトラフの位置を解析することができます。また、図10で示したとおり、渦度0線を目安にして、強風軸の位置をおおまかに推定することができます。
 気象庁のwebサイトには、最新の渦度に関する気象図が掲載されています。興味がある方は、それらの図も参照されてはいかがでしょうか。

今回の豆知識で参考にした図書等

・安斎政雄(1998) 新・天気予報の手引(改訂29版),日本気象協会
・岩槻秀明(2017) 気象学のキホンがよ~くわかる本(第3版),秀和システム
・小倉義光(1999) 一般気象学(第2版),東京大学出版会
・気象庁のwebサイト
・中島俊夫(2022)イラスト図解 よくわかる気象学 実技編,ナツメ社・Windy.comのwebサイト

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