【豆知識24】日本周辺域 地上天気図(SPAS)|日本語表記で1日7回発表

はじめに

 豆知識1~23では、主に高層天気図を取り上げてきました。高層天気図は重要ですが、地上に暮らす私たちにとっては、もちろん地上の天気図も重要です。
 そこで、これからの豆知識では、しばらくの間「地上天気図」に焦点を当てることにします。気象庁が作成する地上天気図には、「日本周辺域 地上天気図」と「アジア太平洋域 地上天気図」の2種類があります。今回は、「日本周辺域 地上天気図」について、お話します。

日本周辺域 地上天気図の概要

 日本周辺域 地上天気図は、日本周辺域 実況天気図、あるいは速報天気図とも呼ばれます。速報値であるため、後日修正される場合があります。
 略号としては、SPAS。SPが速報(Spot)、ASがアジア(Asia)の略です。天気図は、日本語表記。時刻は、日本時間(JST)です。

 この天気図は、高気圧、低気圧、及び前線などの動きなど速報的に把握するために用います。また、新聞やテレビ放送などの天気予報でも利用されます。気象庁のwebサイトには、海陸や天気図記号などを着色して識別しやすくしたカラー画像と、FAX送信で利用することを考慮した白黒画像の天気図が掲載されています(図1)。

図1 日本周辺域 地上天気図のカラー画像(左)と白黒画像(右)の例(気象庁)
注)2025年3月7日21時の実況天気図。

日本周辺域 地上天気図の対象時刻と発表時刻

 実況天気図は、日本時間の3、6、9、12、15、18、21時に観測されたデータをもとに、それぞれ同時刻を対象とした天気図が作成されます。つまり1日7回、作成されます(0時は無し)。それぞれの天気図は、対象時刻(観測時刻)の、約2時間10分後に発表されます(表1)。

 予想天気図は、日本時間の9、21時に観測されたデータをもとに、それぞれ24時間後、48時間後の天気図が作成されます。9時観測の24時間、48時間後予想図はそれぞれ15時頃、17時頃に発表。21時観測の24時間、48時間予想図は、それぞれ翌日4時頃、6時頃に発表されます(表1)。

 予想図の発表時刻については、表1だけではイメージしにくいかもしれません。そこで具体例として、2024年3月3日9時の観測データをもとに作成された予想図(図2)、3月3日21時の観測データをもとに作成された予想図(図3)を示します。
 3日9時の観測データをもと作成された予想図については、4日9時の予想図(24時間予想図)が3日15時頃に発表され(図2左)、5日9時の予想図(48時間予想図)は3日17時頃に発表されます(図2右)。
 また、3日21時の観測データをもとに作成された4日21時の予想図(24時間予想図)は、4日4時頃に発表され(図3左)、5日21時の予想図(48時間予想図)は4日6時頃に発表されます(図3右)。

 つまり、24時間予想図は対象時刻の約17~18時間前48時間予想図は対象時刻の約39~40時間前に発表されることになります。

図2 9 時の観測データをもとに作成された24時間予想図(左)、48時間予想図(右)の例(気象庁) 
注)データの観測日時、発表日時を赤字で書き込んだ。 

図3 21時の観測データをもとに作成された24時間予想図(左)、48時間予想図(右)の例(気象庁) 
注)データの観測日時、発表日時を赤字で書き込んだ。

日本周辺域 地上天気図に書かれている内容

等圧線

 地上天気図上の曲線(黒色の実線または破線)は等圧線で、天気図上で同じ気圧値のところを結んだ線です。豆知識2で述べたとおり、ある水平面(高度)の気圧とは、その面から上の空気の重さですので、気圧は上空ほど低くなります。観測地点によって標高は異なるため、気圧の観測結果(現地気圧)を、そのまま天気図作成に用いることはできません
 このため、地上天気図の気圧は、海面更正(ある高度で観測された気圧を海面0mの気圧に変換された値が用いられます。

 太い実線は1000hPaや1020hPaなど 20hPaごと、細い実線4hPaごとに描かれます(図4)。等圧線の間隔が広い場合は、必要に応じて2hPaごとの破線で補います(図5)。
 等圧線の間隔が狭い場合、気圧差が大きくなることから、強い風が吹きます。その他、等圧線を引くときの注意点など詳しくは、今後の豆知識でお話する予定です。

図4 地上天気図に描かれた等圧線の例(気象庁)
注)2024年10月19日15時の天気図。一部の等圧線に、気圧値を書き込んだ。

図5 地上天気図に描かれた等圧線の例(気象庁)
注)2024年5月22日9時の天気図。一部の等圧線(破線で示した2hPaごとの補助線)に、気圧値を書き込んだ。

高気圧、低気圧、低圧部

 地上天気図上では周囲よりも気圧が高く閉じた等圧線で囲まれたところには高気圧が解析され、中心位置を×マークで示し、「」の文字を記載します(図6①)。高気圧は2hPaごとに解析し、 最も内側の等圧線の気圧が、中心気圧(hPa)となります。

 周囲よりも気圧が低く閉じた等圧線で囲まれたところには、低気圧、低圧部、熱帯低気圧、台風のいずれかが解析されます。このうち低気圧と低圧部には「」の文字を記載しますが、低気圧は、中心位置を×マークで示すのに対し(図6②)、低圧部は中心位置を示しません(図6③)。
 低気圧の中心位置(×マーク)を囲む最も内側の等圧線の気圧が、中心気圧となります(台風については、後述)。

 高気圧(低気圧)の進行方向は白抜き矢印で図示し、その先端に進行速度を記載します。進行速度は、km/hの単位で表示。例えば30km/hは、時速30kmで進んでいることになります(図6④)。
 進行速度が9km/h以下の場合で、方向が定まっている(はっきりしている)ときは「ゆっくりとし(図6⑤)、方向が決まらない(はっきりしない)ときは「ほとんど停滞とします(図6⑥)。

 なお、異なる時刻の天気図から、低気圧等の進行速度を概算する場合、天気図(地図)上の2地点間の実際の距離を頭に入れておく必要があります。その点は、豆知識6をご参照ください。

図6 地上天気図に描かれた高気圧、低気圧、低圧部、及び移動速度に関する記載例(気象庁)
注)2024年9月8日18時の天気図。注目する箇所に、①~⑥の番号とその内容を書き込んだ。

台風、熱帯低気圧

 熱帯低気圧は、海面から蒸発する水蒸気が水滴に変わるときに放出される、潜熱をエネルギー源とする低気圧の総称です(潜熱は豆知識16参照)。暖気のかたまりで構成され、前線は伴いません
 太平洋(北半球側)で、東経180度より西側にある熱帯低気圧のうち、中心付近の最大風速が17.2m/s(34ノット)以上のものを、台風といいます(ノットは豆知識4参照)。

 台風、熱帯低気圧の中心には×印、台風の場合は台風番号を付して「台○○号(図7)、熱帯低気圧の場合は熱低の文字を(図8)、それぞれ記載します。前述のとおり、低気圧等についても基本的には高気圧と同様に2hPaごとに解析し、最も内側の等圧線の気圧値が、中心気圧となります。
 しかし、台風については例外があり、中心気圧が奇数になる場合や、最も内側の等圧線の気圧が中心気圧と異なる場合があります。進行方向と進行速度の表示方法は、前に述べた低気圧の場合と同じです。

図7 地上天気図に描かれた台風の例(気象庁)
注)2024年8月29日3時の天気図。注目する台風に矢印を書き込んだ。

図8 地上天気図に描かれた熱帯低気圧の例(気象庁)
注)2024年8月4日15時の天気図。注目する熱帯低気圧に矢印を書き込んだ。

前線

 前線は、寒気と暖気など性質の異なる2つの空気の境目付近に形成されます(詳しくは、豆知識19参照)。
 地上天気図には、温暖前線、寒冷前線、停滞前線、閉塞前線の4種類が描かれています(表2)。それぞれの前線は、半円とがった三角形、あるいは両者の組み合わせで表現されます。

 次に、それぞれの前線を、実際の実況天気図で確認してみましょう。温暖前線と寒冷前線を図9、停滞前線を図10、閉塞前線を図11に示します。なお、それぞれの前線については、今後の豆知識でもう少し詳しくお話する予定です。

図9 地上天気図に描かれた温暖前線と寒冷前線の例(気象庁)
注)2023年4月26日12時の天気図。注目する温暖前線を赤の実線、寒冷前線を青の実線で、それぞれ囲んだ。

図10 地上天気図に描かれた停滞前線の例(気象庁)
注)2024年7月17日6時の天気図。注目する停滞前線を、赤の実線で囲んだ。

図11 地上天気図に描かれた閉塞前線の例(気象庁)
注)2023年5月17日3時の天気図。注目する閉塞前線を、赤の実線で囲んだ。

さいごに

 今回紹介した、気象庁の地上実況天気図(速報天気図)や予想天気図は、気象庁のwebサイトで見ることができます。なお予想天気図は、24時間後、48時間後における地上天気図の予想を示したもの。テレビの天気予報などにも登場する、いわゆる明日、明後日の予想天気図の元になっています。
 今回は、日本周辺域を対象とした地上天気図を取り上げました。次回は、アジア太平洋域を対象とした地上天気図を取り上げる予定です。

今回の豆知識で参考にした図書等

●浅井冨雄,内田英治,河村 武 監修(1999)補強 気象の事典,平凡社
●安斎政雄(1998) 新・天気予報の手引(改訂29版),日本気象協会
●岩槻秀明(2017) 気象学のキホンがよ~くわかる本(第3版),秀和システム
●岩槻秀明(2024) 天気図の読み方がよ~くわかる本(第3版),秀和システム
●小倉義光(1994) お天気の科学-気象災害から身を守るために-,森北出版株式会社
●気象庁のwebサイト
●中島俊夫(2022)イラスト図解 よくわかる気象学 実技編,ナツメ社
●饒村 曜(2005)気象予報士 完全合格教本,新星出版社

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