【豆知識23】季節風(寒波)による西日本での積雪(20事例)、南岸低気圧による関東での積雪(15事例)|両者の特徴を解説

はじめに

 前回の豆知識では、「上空の寒気の強さの指標となる500hPaの気温」「雨か雪かの目安となる850hPaの気温」を話題にしました。そのうえで「日本列島における寒気の南下と雪が降る範囲」について、2024年度に雪が降った事例を7つ選び、関連する気象図を紹介しました。

 今回は、日頃あまり雪が降らない地域で雪が積もった事例を、過去約20年の中からピックアップ。まずは、西日本の平地でも雪が積もった事例。このようなとき、天気予報では「今季最強の寒波が襲来!西日本でも注意!」といったフレーズで注意が呼びかけられることがあります。今回は20の事例を通し、特に下層寒気の流入に焦点を当て、お話します。
 次に、関東地方の平地でも雪が積もった事例。関東の降雪は、南岸低気圧が原因となることが多いとされています。本当にそうなのか、15の事例で確認してみます。

 今回の事例紹介では、似たような図が繰り返し登場します。この反復の過程で、「西日本で積雪のパターン」と「関東での積雪のパターン」のそれぞれのイメージを固めていただき、両者の違いを実感していただければ幸いです。

西日本での積雪時の寒気の流入(20事例の紹介)

 雪と言えば、西高東低の冬型の気圧配置が強まり、寒気が日本付近に流れ込んだとき、日本海側を中心に降る雪(季節風に伴う雪)が知られています。このタイプの場合、日本海上では大陸から北西の季節風が吹き、相対的に暖かい海面から大気下層へ大量の熱と水蒸気が輸送されます(気団変質)。
 これによって大気下層の安定度が低下し、積雲や積乱雲が発生して、日本列島の日本海側を中心に降雪がもたらされるのです。

 これから紹介する「西日本の平地での積雪」についても、季節風に伴う雪である場合がほとんどです。前回の豆知識では「北陸地方などの日本海側では、500hPaの-36℃が、大雪(強い寒気)の目安となること」「日本海側を中心に降る雪(季節風に伴う雪)に関しては850hPaの-6℃が、地上で雨か雪かの目安となること」を述べました。
 なお、前回は述べませんでしたが、850hPaの-12℃は強い下層寒気(大雪)の目安とされることがあります。

 以下に、西日本の平地で雪が積もった20事例について、地上と850hPaの天気図を示します。これらの図から、積雪時の地上の気圧配置、850hPaの気温、寒気の流入程度を確認してみます。

2003年1月5日

●日本付近は、強い冬型の気圧配置(図1①)。
●北陸・東北で大雪。西日本でも積雪。最深積雪は、鹿児島市6cm、広島市6cm、佐賀市4cm、長崎市3cm、山口市3cm。
●500hPaの高層観測では(5日9時)、札幌-39.2℃、秋田-41.8℃、輪島-40.5℃、米子-35.7℃、福岡-23.5℃。
●850hPaの解析図では(5日9時、図1②)、-12℃の等温線が九州北部地方付近、-6℃の等温線が種子島・屋久島地方付近を通る。北西の風が、これらの等温線に交差して吹く(寒気移流)。

図1  2003年1月5日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)①、②は気象庁提供。
②:太実線は、850hPaの等温線。矢羽根は、850hPaの風向と風速。網掛け域は700hPaの上昇流域、白い区域は700hPaの下降流域。注目する-12℃の等温線を青、-6℃の等温線を緑で上書きした。

2003年1月29日

●日本付近は、強い冬型の気圧配置(図2①)。
●西日本でも積雪。最深積雪は、佐賀市4cm、山口市2cm、広島市2cm。
●500hPaの高層観測では(29日9時)、札幌-40.7℃、秋田-41.7℃、輪島-41.7℃、米子-33.4℃、福岡-27.5℃。
●850hPaの解析図では(29日9時、図2②)、-12℃の等温線が九州北部地方付近、-6℃の等温線が種子島・屋久島地方付近を通る。北西又は西北西の風が、これらの等温線に交差して吹く(寒気移流)。

図2  2003年1月29日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図1参照。

2004年1月22日

●日本付近は、西日本を中心に冬型の気圧配置(図3①)。
●積雪のなかった金沢市では、21日からの雪で、22日の最深積雪49cm。九州でも雪。最深積雪は、佐賀市4cm、長崎市4cm。
●500hPaの高層観測では(22日9時)、札幌-37.2℃、秋田-32.3℃、輪島-33.3℃、米子-29.9℃、福岡-29.6℃。
●850hPaの解析図では(22日9時、図3②)、-12℃の等温線が九州北部地方付近、-6℃の等温線が種子島・屋久島地方付近を通る。北西又は西北西の風が、これらの等温線に交差して吹く(寒気移流)。

図3  2004年1月22日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図1参照。

2005年12月22日

●日本付近は、強い冬型の気圧配置(図4①)。
●秋田市の最深積雪は56cm。西日本でも雪。最深積雪は、広島市12cm鹿児島市11cm、佐賀市4cm、長崎市3cm。
●500hPaの高層観測では(22日9時)、札幌-39.2℃、秋田-36.3℃、輪島-40.1℃、米子-42.5℃、福岡-36.5℃。
●850hPaの解析図では(22日9時、図4②)、-12℃の等温線が九州北部地方付近、-6℃の等温線が種子島・屋久島地方付近を通る。北西の風が、これらの等温線に交差して吹く(寒気移流)。

図4  2005年12月22日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図1参照。

2009年1月24日

●西日本を中心に、冬型の気圧配置(図5①)。
●日本海側中心に広範囲で雪となり、九州北部の平地など、西日本でも積雪。最深積雪は、山口市12cm、福岡市 6cm。
●500hPaの高層観測では(24日21時)、札幌-41.9℃、秋田-38.4℃、輪島-37.8℃、米子-33℃、福岡-29.4℃。
●850hPaの解析図では(24日21時、図5②)、-12℃の等温線が対馬海峡付近、-6℃の等温線が九州南岸付近を通る。西北西の風が、これらの等温線に交差して吹く(寒気移流)。

図5  2009年1月24日21時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図1参照。

2010年1月13日

●日本付近は、強い冬型の気圧配置(図6①)。
●九州各地でも積雪。最深積雪は、長崎市9cm、鹿児島市5cm。
●500hPaの高層観測では(13日9時)、札幌-38.7℃、秋田-37.9℃、輪島-40.3℃、米子-31.8℃、福岡-30.7℃。
●850hPaの解析図では(13日9時、図6②)、-12℃の等温線が九州北部地方付近、-6℃の等温線が九州南岸付近を通る。北西又は西北西の風が、これらの等温線に交差して吹く(寒気移流)。

図6  2010年1月13日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図1参照。

2010年12月31日

●日本付近は、強い冬型の気圧配置(図7①)。
●日本海側を中心に、九州~東北で雪。最深積雪は、鹿児島市22cm長崎市11cm
●500hPaの高層観測では(31日9時)、札幌-35.4℃、秋田-35.1℃、輪島-37.7℃、松江-39.1℃、福岡-39.7℃。
●850hPaの解析図では(31日9時、図7②)、-12℃の等温線が対馬海峡付近、-6℃の等温線が種子島・屋久島地方付近を通る。北西の風が、これらの等温線に交差して吹く(寒気移流)。

図7  2010年12月31日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図1参照。

2011年1月31日

●日本付近は、冬型の気圧配置(図8①)。
●北陸を中心に、日本海側で大雪。九州でも積雪。最深積雪は、鹿児島市2cm、佐賀市2cm、長崎市1cm。
●500hPaの高層観測では(31日9時)、札幌-38.0℃、秋田-36.6℃、輪島-37.6℃、松江-34.0℃、福岡-28.4℃。
●850hPaの解析図では(31日9時、図8②)、-12℃の等温線が九州北部~南部地方付近、-6℃の等温線が奄美地方付近を通る。北西の風が、これらの等温線に交差して吹く(寒気移流)。

図8  2011年1月31日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図1参照。

2016年1月24日

●日本付近は、強い冬型の気圧配置(図9①)。
●北陸を中心に雪が強まり、山陰や九州でも断続的な降雪。沖縄・西日本を中心に記録的な低温となり、九州の49地点で真冬日(日最高気温が0℃未満の日)。鹿児島県名瀬(奄美地方)で115年ぶりの雪。最深積雪は、長崎市17cm鹿児島市14cm、佐賀市7cm。
●500hPaの高層観測では(24日9時)、札幌-42.7℃、秋田-41.6℃、輪島-42.3℃、松江-29.8℃、福岡-22.4℃。
●850hPaの解析図では(24日9時、図9②)、-12℃の等温線が九州南部地方付近、-6℃の等温線が奄美地方付近を通る。北西又は西北西の風が、これらの等温線に交差して吹く(寒気移流)。

図9  2016年1月24日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図1参照。

2017年1月15日

●日本付近は、強い冬型の気圧配置(図10①)。
●西日本~東海の太平洋側でも積雪。最深積雪は、広島市19cm京都市14cm、名古屋市4cm。
●500hPaの高層観測では(15日9時)、札幌-43.9℃、秋田-46.1℃、輪島-39.9℃、松江-29.7℃、福岡-27.3℃。
●850hPaの解析図では(15日9時、図10②)、-9℃の等温線が九州北部地方付近、-6℃の等温線が九州南部地方付近を通る。北西の風が、これらの等温線に交差して吹く(寒気移流)。

図10  2017年1月15日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図1参照。

2017年2月11日

●日本付近は、強い冬型の気圧配置(図11①)。
●山陰~北陸を中心に大雪。鳥取市の最深積雪は、91cmで33年ぶりに90cm超。九州でも積雪。最深積雪は、佐賀市で5cm。
●500hPaの高層観測では(11日9時)、札幌-35.1℃、秋田-40.1℃、輪島-39.6℃、松江-37.1℃、福岡-27.3℃。
●850hPaの解析図では(11日9時、図11②)、-9℃の等温線が九州北部~南部地方付近、-6℃の等温線が種子島・屋久島地方付近を通る。北西の風が、これらの等温線に交差して吹く(寒気移流)。

図11  2017年2月11日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図1参照。

2018年2月6日

●日本付近は、冬型の気圧配置(図12①)。
●北陸で記録的大雪。福井で「昭和56年豪雪」以来の最深積雪130cm超え。九州でも積雪。最深積雪は、佐賀市で2cm。
●500hPaの高層観測では(6日9時)、札幌-42.2℃、秋田-42.4℃、輪島-41℃、松江-35.3℃、福岡-35.8℃。
●850hPaの解析図では(6日9時、図12②)、-12℃の等温線が九州北部~南部地方付近、-6℃の等温線が種子島・屋久島付近を通る。北西又は西北西の風が、これらの等温線に交差して吹く(寒気移流)。

図12  2018年2月6日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図1参照。

2018年2月11日

●日本付近は、強い冬型の気圧配置(図13①)。
●九州の平地でも積雪。最深積雪は、佐賀市4cm、福岡市3cm。
●500hPaの高層観測では(11日21時)、札幌-40.4℃、秋田-38.9℃、輪島-32.4℃、松江-28.5℃、福岡-23.2℃。
●850hPaの解析図では(11日21時、図13②)、-12℃の等温線が対馬海峡付近、-6℃の等温線が種子島・屋久島付近を通る。西北西の風が、これらの等温線に交差して吹く(寒気移流)。

図13  2018年2月11日21時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図1参照。

2021年1月8日

●日本付近は、冬型の気圧配置(図14①)。
●西日本~北日本日本海側を中心に雪。九州でも積雪。最深積雪は、長崎市12cm、佐賀市8cm、福岡市2cm。
●500hPaの高層観測では(8日21時)、札幌-44.1℃、秋田-44.5℃、輪島-40.8℃、松江-35.1℃、福岡-31.5℃。
●850hPaの解析図では(8日21時、図14②)、-12℃の等温線が九州北部~南部地方付近、-6℃の等温線が種子島・屋久島付近を通る。北西の風が、これらの等温線に交差して吹く(寒気移流)。

図14  2021年1月8日21時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図1参照。

2021年2月18日

●日本付近は、強い冬型の気圧配置(図15①)。
●北日本や東日本~西日本の日本海側を中心に雪。九州でも積雪。最深積雪は、佐賀市6cm、長崎市4cm、鹿児島市2cm。
●500hPaの高層観測では(18日9時)、札幌-35.5℃、秋田-37.9℃、輪島-34.8℃、松江-31.1℃、福岡-28.7℃。
●850hPaの解析図では(18日9時、図15②)、-12℃の等温線が九州北部地方付近、-6℃の等温線が種子島・屋久島付近を通る。北西の風が、これらの等温線に交差して吹く(寒気移流)。

図15  2021年2月18日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図1参照。

2022年12月18日

●日本付近は、強い冬型の気圧配置(図16①)。
●日本海側を中心に雪。九州でも積雪。最深積雪は、佐賀市4cm、長崎市1cm。
●500hPaの高層観測では(18日9時)、札幌-41.9℃、秋田-40.0℃、輪島-39.1℃、松江-24.9℃、福岡-24.8℃。
●850hPaの解析図では(18日9時、図16②)、-12℃の等温線が対馬海峡付近、-6℃の等温線が九州南岸付近を通る。北西又は西北西の風が、これらの等温線に交差して吹く(寒気移流)。

図16  2022年12月18日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図
(②)注)図の注釈は図1参照。

2022年12月23日

●12月23日の日本付近は、強い冬型の気圧配置(図17①)。
●西日本や北陸、北日本は雪。西日本でも積雪。最深積雪は、高知市14cm徳島市10cm、広島市6cm、佐賀市1cm。
●500hPaの高層観測では(23日9時)、札幌-29.2℃、秋田-37.4℃、輪島-39.7℃、松江-35.0℃、福岡-25.1℃。
●850hPaの解析図では(23日9時、図17②)、-12℃の等温線が対馬海峡付近、-6℃の等温線が九州南岸付近を通る。北西又は西北西の風が、これらの等温線に交差して吹く(寒気移流)。

図17  2022年12月23日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図1参照。

2023年1月24日

●日本付近は、強い冬型の気圧配置(図18①)。
●日本海側は雪、太平洋側で雪や雨。西日本でも積雪。最深積雪は、神戸市4cm、鹿児島市4cm、長崎市3cm、佐賀市3cm。
●500hPaの高層観測では(24日21時)、札幌-42.8℃、秋田-41.8℃、福岡-25.5℃。
●850hPaの解析図では(24日21時、図18②)、-12℃の等温線が九州南岸付近、-6℃の等温線が奄美地方付近を通る。北西の風が、これらの等温線に交差して吹く(寒気移流)。

図18  2023年1月24日21時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図1参照。

2023年12月22日

●日本付近は、冬型の気圧配置(図19①)。
●西~北日本日本海側は雪、西日本太平洋側は曇りで雪の所も。北陸で顕著な大雪。西日本でも積雪。最深積雪は、佐賀市1cm、山口市1cm。
●500hPaの高層観測では(22日9時)、札幌-42.6℃、秋田-41.8℃、輪島-40.0℃、福岡-24.7℃。
●850hPaの解析図では(22日9時、図19②)、-12℃の等温線が対馬海峡付近、-6℃の等温線が九州南岸付近を通る。北西の風がこれらの等温線に交差して吹く(寒気移流)。

図19  2023年12月22日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図1参照。

2024年1月24日

●日本付近は、強い冬型の気圧配置(図20①)。
●日本海側や北日本で大雪や暴風雪。西日本でも積雪。最深積雪は、山口市6cm、佐賀市4cm、長崎市2cm。
●500hPaの高層観測では(24日9時)、札幌-40.3℃、秋田-40.3℃、輪島-40.2℃、福岡-25.8℃。
●850hPaの解析図では(24日9時、図20②)、-12℃の等温線が九州北部地方付近、-6℃の等温線が九州南岸付近を通る。北西の風が、これらの等温線に交差して吹く(寒気移流)。

図20  2024年1月24日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図1参照。

西日本での積雪時の寒気の流入(まとめ)

 今回紹介した20事例については、西高東低の冬型の気圧配置となっていました(図1~20の①)。このとき850hPaでは、北西や西北西の風が-12℃や-6℃の等温線に交差して吹く、すなわち寒気移流がみられました。

 図21は、図1②~図20② の-12℃と-6℃の等温線を、図21①と②に総括したものです。西日本の中でも、特に九州地方に注目してみます。強い下層寒気(大雪)の目安とされる-12℃の等温線は、九州北部地方付近に位置する事例が比較的多くみられました(図21①)。雨か雪かの目安とされる-6℃の等温線は、九州南岸や種子島・屋久島付近に位置する事例が多くみられました(図21②)。

図21  西日本での積雪時(2003~2024年)における850hPa の-12℃の等温線の位置(①)及び-6℃の等温線の位置(②)
注)図1~20中の-12℃と-6℃の各等温線の位置を、図21にまとめて転記。本図では、北海道、本州、四国、九州の4島のみ、黄色で模式的に描いた。

関東での積雪時の寒気の流入(15事例)

 これまで紹介した「季節風に伴う雪」以外にも、冬季に本州の南を低気圧が進むとき、関東地方で降る雪(南岸低気圧に伴う雪)もあります。前述のとおり、日本海側の雪は、日本海上の気団変質(熱と水蒸気の輸送)に伴うものです。
 一方、南岸低気圧に伴う雪は、低温時(地上気温が、およそ2℃以下)の低気圧通過に伴う降水現象といえます。

 「季節風に伴う雪」に関しては、850hPaの-6℃が、地上で雨か雪かの目安となりますが、「南岸低気圧に伴う雪」に関しては、850hPaの-3℃が注目される場合があります。-6℃ではなく-3℃が雨か雪かの目安となる要因として「関東平野に形成される滞留寒気」が関係するとされています。

 いずれにしても、南岸低気圧に伴う関東地方の雪の目安は、本当に850hPaの-3℃以下なのでしょうか。そのことを、過去20年の事例で確認してみましょう。
 以下に、関東地方で雪が積もった15事例について、地上と850hPaの天気図を示します。これらの図から、積雪時の地上天気図(南岸低気圧の有無)、850hPaの気温などを確認してみます。

2005年2月19日

●低気圧が、本州南岸を発達しながら北東進(図22①)。
●関東北部や甲信では雪。関東北部の平野部でも積雪。最深積雪は、前橋市2cm、熊谷市1cm。
●500hPaの高層観測では(19日9時)、輪島-19.7℃、館野-18.8℃、潮岬-15.4℃。
●850hPaの解析図では(19日9時、図22②)、-3℃の等温線が、関東地方付近において、南西に向かって凸状になっている。

図22  2005年2月19日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)①、②は気象庁提供。
①:前後の地上天気図も調べ、南岸低気圧の中心位置(6時間おき)を赤の星印で示した。
②:太実線は、850hPaの等温線。矢羽根は、850hPaの風向と風速。網掛け域は700hPaの上昇流域、白い区域は700hPaの下降流域。注目する-6℃の等温線を緑、-3℃の等温線を赤で上書きした。

2006年1月21日

●低気圧が本州南岸を東北東進(図23①)。
●関東南部で、8年ぶりの大雪。最深積雪は、水戸市17cm横浜市11cm千葉市10cm、東京都千代田区9cm。
●500hPaの高層観測では(21日9時)、輪島-25.6℃、館野-24.2℃、潮岬-18.7℃。
●850hPaの解析図では(21日9時、図23②)、-3℃の等温線が関東地方付近を通る。

図23  2006年1月21日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図22参照。

2008年2月3日9時

●低気圧が、関東の南海上を北東進(図24①)。
●関東地方では雪。最深積雪は、横浜市7cm、千葉市6cm、東京都千代田区3cm。
●500hPaの高層観測では(3日9時)、輪島-25.6℃、館野-19.6℃、潮岬-18.5℃。
●850hPaの解析図では(3日9時、図24②)、-3℃の等温線が関東地方付近を通る。

図24  2008年2月3日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図22参照。

2010年2月1日

●発達中の低気圧が、本州南岸を東北東進(図25①)。
●関東地方では夜に入り雨が雪に変わる。最深積雪は、熊谷市2cm、横浜市1cm、東京都千代田1cm、水戸市1cm。
●500hPaの高層観測では(1日21時)、輪島-23.4℃、館野-19.7℃、潮岬-22.7℃。
●850hPaの解析図では(1日21時、図25②)、-3℃の等温線が関東地方付近を通る。

図25  2010年2月1日21時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図22参照。

2011年2月14日

●低気圧が、本州南岸に沿って北東進(図26①)。
●本州の都市部でも積雪。最深積雪は、熊谷市5cm、名古屋市4cm、大阪市3cm、水戸市3cm、東京都千代田区2cm。
●500hPaの高層観測では(14日21時)、輪島-28.6℃、館野-22.4℃、潮岬-21.8℃。
●850hPaの解析図では(14日21時、図26②)、-3℃の等温線が関東地方付近を通る。

図26  2011年2月14日21時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図22参照。

2012年1月23日

●低気圧が、関東の南海上を東北東進(図27①)。
●関東南部は、雨が夜には雪に変わる。最深積雪は、東京都千代田区4cm、千葉市1cm。
●500hPaの高層観測では(23日21時)、輪島-36.3℃、館野-32.6℃、潮岬-26.6℃。
●850hPaの解析図では(23日21時、図27②)、-3℃の等温線が関東南岸付近を通る。

図27  2012年1月23日21時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図22参照。

2012年2月29日

●低気圧が、関東の南海上を東北東進(図28①)。
●関東甲信は大雪。最深積雪は、前橋市17cm宇都宮市16cm熊谷市10cm、横浜市5cm、水戸市5cm、東京都千代田区2cm。
●500hPaの高層観測では(29日9時)、輪島-25.4℃、館野-21.6℃、潮岬-14.9℃。
●850hPaの解析図では(29日9時、図28②)、-3℃の等温線が関東地方付近を通る。

図28  2012年2月29日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図22参照。

2013年1月14日

●低気圧が、関東の南海上を北東進(図29①)。
●関東南部を中心に雪。最深積雪は、横浜市13cm、東京都千代田区8cm、千葉市8cm、熊谷市4cm。
●500hPaの高層観測では(14日21時)、輪島-25.7℃、館野-22.3℃、潮岬-21.9℃。
●850hPaの解析図では(14日21時、図29②)、-3℃の等温線が関東南岸付近を通る。

図29  2013年1月14日21時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図22参照。

2013年1月28日

●低気圧が関東の東海上に抜ける。日本付近は、冬型の気圧配置がやや強まる(図30①)。
●房総半島で大雪。最深積雪は、千葉市6cm、銚子市5cm。
●500hPaの高層観測では(28日9時)、輪島-35.2℃、館野-38.0℃、潮岬-29.3℃。
●850hPaの解析図では(28日9時、図30②)、-6℃の等温線が関東の東海上付近を通る。

図30  2013年1月28日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図22参照。

2014年2月8日

●低気圧が、関東南岸を北東進(図31①)
●西日本~東日本で雪。特に関東甲信では記録的大雪。最深積雪は、熊谷市43cm甲府市43cm前橋市32cm千葉市32cm東京都千代田区27cm横浜市16cm、岡山市8cm、名古屋市5cm、京都市2cm、広島市2cm。
●500hPaの高層観測では(8日21時)、輪島-23.2℃、館野-18.3℃、潮岬-21.6℃。
●850hPaの解析図では(8日21時、図31②)、-6℃と-3℃の等温線が、関東甲信地方付近において、南西又は南に向かって凸状になっている。

図31  2014年2月8日21時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図22参照。

2014年2月14日夜~15日朝

●2月14日21時、低気圧が関東南岸を北東進(図32①)。2月15日9時、関東沿岸を北東進する低気圧は発達のピークを迎える。
●14日夜から15日朝にかけ、関東甲信を中心に記録的大雪。15日の最深積雪は、甲府市114cm前橋市73cm熊谷市62cm宇都宮市32cm横浜市28cm東京都千代田区27cm千葉市13cm
●500hPaの高層観測では(14日21時)、輪島-26.6℃、館野-21.7℃、潮岬-19.7℃。
●850hPaの解析図では(14日21時、図32②)、-6℃と-3℃の等温線が、関東甲信地方付近において、南西に向かって凸状になっている。

図32  2014年2月14日21時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図22参照。

2016年1月18日

●低気圧が、本州の南岸を北東進(図33①)。
●関東甲信で大雪。最深積雪は、前橋市20cm熊谷市15cm、東京都千代田区6cm、横浜市5cm。
●500hPaの高層観測では(18日9時)、輪島-20.3℃、館野-15.8℃。
●850hPaの解析図では(18日9時、図33②)、-3℃の等温線が東北地方(南部)付近を通る。

図33  2016年1月18日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図22参照。

2018年1月22日

●低気圧が、関東の南海上を東北東進(図34①)。
●関東を中心に大雪。最深積雪は、東京都千代田区23cm熊谷市19cm水戸市19cm横浜市18cm千葉市10cm
●500hPaの高層観測では(22日21時)、輪島-30.4℃、館野-20.7℃、潮岬-17.1℃。
●850hPaの解析図では(22日21時、図34②)、-3℃の等温線が関東地方付近を通る。

図34  2018年1月22日21時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図22参照。

2022年1月6日

●低気圧が、伊豆諸島の南を東北東進(図35①)。
●東海から関東南部で雪。最深積雪は、東京都千代田区10cm、横浜市8cm、千葉市7cm、水戸市7cm。
●500hPaの高層観測では(6日21時)、輪島-33.6℃、館野-28.0℃、潮岬-20.1℃。
●850hPaの解析図では(6日21時、図35②)、-3℃の等温線が関東地方付近を通る。

図35  2022年1月6日21時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図22参照。

2024年2月5日

●低気圧が、本州南岸を東北東進(図36①)。
●関東で大雪。最深積雪は、熊谷市11cm、東京都千代田区8cm、横浜市4cm、千葉市3cm。
●500hPaの高層観測では(5日21時)、館野-19.1℃。
●850hPaの解析図では(5日21時、図36②)、-6℃と-3℃の等温線が関東地方付近を通る。

図36  2024年2月5日21時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図22参照。

関東での積雪時の寒気の流入(まとめ)

 図37は、図22②~図36② の-6℃と-3℃の等温線を、図37①と②に総括したものです。-6℃の等温線は東北地方(南部)付近(①)、-3℃の等温線は関東地方付近(②)を、それぞれ通る事例が多くみられました。この事例からも「南岸低気圧に伴う関東地方の雪の目安は、850hPaの気温が-3℃以下である」ことが確認できました。

図37  関東地方での積雪時(2005~2024年)における850hPa の-6℃の等温線の位置(①)及び-3℃の等温線の位置(②)
注)図22~36中の-6℃と-3℃の各等温線の位置を、図37にまとめて転記。本図では、北海道、本州、四国、九州の4島のみ、黄色で模式的に描いた。

 図38は、図22①~図36①に示した南岸低気圧の移動経路を、1つの図に総括したものです。過去の経験則では、南岸低気圧が八丈島の北を通るときには低気圧による暖気移流で関東では雨となり、南を通るときには雪になるとされてきました。しかし、その後、荒木健太郎氏の研究によって、低気圧の進路が降雪事例と降雨事例で、統計的に有意な差がないことが明らかにされました。

 今回の図38では、厳密に解析したわけではありませんが、その傾向は伺えます(南岸低気圧が八丈島の北を通っても、関東で雪が積もる場合がある)。低気圧が陸地に近い所を通れば雨になりやすい、離れれば雪となりやすいといった定性的な判断は可能であっても、低気圧の通過する位置だけで雨雪判別を行うのは適当ではないといえそうです。

図38  関東地方での積雪時(2005~2024年)における南岸低気圧の移動経路
注)図22~36の南岸低気圧の移動経路を、図38にまとめて転記。八丈島の位置を、赤い丸印で表示。本図では、北海道、本州、四国、九州の4島のみ、黄色で模式的に描いた。

さいごに

 雪に慣れてない地域では、わずか数cmの積雪でも交通障害など大きな影響がでることがあります。今回は、過去約20年の中から、西日本の20事例、関東地方の15事例を紹介。これらの多くの事例を通して、下層に寒気が流入するイメージを掴んでいただけるかと思います。
 最近は、テレビの天気予報などでも「雪の予想」に際し、850hPa(高度約1500m)の気温分布を紹介することが増えました。今後そのような機会があれば、今回の多くの事例を思い浮かべていただき、850hPaの等温線(-12℃、-6℃、-3℃など)の位置に注目していただけると幸いです。

今回の豆知識で参考にした図書等

●安斎政雄(1998) 新・天気予報の手引(改訂29版),日本気象協会
●荒木健太郎(2018)南岸低気圧による首都圏降雪現象の実態解明のための研究,三重大学大学院 生物資源学研究科博士論文
●荒木健太郎・上野健一・縫村崇行(2017)シンポジウム「関東の大雪に備える」報告,天気64:193-200
●気象庁のwebサイト・中島俊夫(2022)イラスト図解 よくわかる気象学 実技編,ナツメ社
●新田 尚,稲葉征男,土屋 喬,二宮洸三,(2004)天気図の使い方と楽しみ方,オーム社
●日本気象協会(1996)気象FAXの利用法 PartⅡ(改訂2版),日本気象協会
●牧野 眞一(2014)南岸低気圧による関東地方の降雪時の気象特性,平成25年度予報技術研修テキスト, 気象庁予報部, 28-38
●吉﨑正憲・加藤輝之(2007) 豪雨・豪雪の気象学,朝倉書店

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