【豆知識22】雨は夜更け過ぎに雪へと変わるだろうか?|500hPaや850hPaの気温などに注目

はじめに

 今回から雪を取り上げます。タイトルの前半部分「雨は夜更け過ぎに雪へとかわるだろうか?」は、ヒット曲(クリスマス・イブ)の歌詞を参考にしました。雪は、降る量が少なければ、お子さんの雪遊び等の面から歓迎されることがあります。
 しかし、まとまった雪になると、社会生活に大きな影響や被害が及びます。今回の豆知識では、まず「大雪の基準」「雪による被害」について述べます。
 さらに、「上空の寒気の強さの指標となる500hPaの気温」「雨か雪かの目安となる850hPaの気温、地上の気温・湿度」などについて、実際の降雪(降雨)時の気象図やデータを用いてお話します。

大雪の基準

 皆さんは、「大雪」という言葉で、どのくらいの積雪をイメージしますか。参考として、新潟県(新潟市)、島根県、福岡県の平地における大雪注意報・警報の基準を抜き出しました(表1)。
 例えば新潟県(新潟市)の警報基準は、予想される降雪の深さが6時間で30cm(12時間に換算すると60cm相当)。福岡県の警報基準は12時間で10cmですので、両者には6倍の開きがあります。このように、大雪という言葉の捉え方は、地域によって異なります。
 このため「大雪の目安は、○hPaの気温が○℃以下」といった表現を参考にする場合は、どの地域を対象にしているのかという意識を持つことが大切です。

雪による被害

 雪による被害(雪害)には、いろいろな種類があります(表2)。すなわち、雪が降っている最中の視程障害、降った雪の重みによる被害など様々です。
 また、日頃あまり雪が降らない地域では、わずか数cmの積雪により社会的に大きな影響が出ることもあります。

寒気の指標となる500hPaと850hPaの気温

 大雪予報の経験則として、「高層気象観測地点の1つである輪島の上空500hPa の気温が-35℃以下となる場合、北陸地方などの日本海側では大雪となる可能性が高い」とされています。ちなみに気象庁の500hPaや850hPaの高層実況天気図(寒候期)では、等温線は6℃間隔で書かれています。
 このようなことから、北陸地方などの日本海側では、500hPaの-36℃(6の倍数)が、大雪(強い寒気)の目安とされる場合が多いです(表3)。

 雪の予報に当たっては、上空から雪として降ってきても地面に達するまでに溶けて雨に変わる場合もあるので、下層の気温にも着目します。一般的に、850hPaの-6℃が、地上で雨か雪かの目安となります(表3)。
 雪といえば、冬型の気圧配置が強まり寒気が日本付近に流れ込んだとき、日本海側を中心に降る雪(季節風に伴う雪が知られています。しかし、それ以外にも、冬季に本州の南を低気圧が進むとき、関東地方で降る雪(南岸低気圧に伴う雪もあります。この場合、850hPaの-3℃が注目される場合があります(表3)。この点は、次回の豆知識で取り上げる予定です。

地上で雪となる気温・湿度の目安

 先ほど述べたように、雨か雪かの目安として850hPaの気温に着目しますが、気温の低い空気は密度が大きいので、しばしば850hPaよりも下層に寒気が流入してくることがあります。この場合、気温が0℃近くになれば雪となる可能性が高く、アメダスの気温の観測値の推移にも絶えず注目する必要があります。

 地上における気温・湿度」と「雨・みぞれ(雨と雪が混じったもの)・」との関係を、図1に示します。この図はあくまでも目安ですが、例えば、同じ気温3℃でも湿度50%なら「雪」、湿度75%なら「みぞれ」、湿度90%なら「雨」になる可能性が高いこと表しています。

図1 地上の気温・湿度と雨・みぞれ・雪との関係
注)この図による雨・みぞれ・雪の区分は、あくまでも目安である。気温・湿度の観測値を本図に書き込んで推定された天気(雨・みぞれ・雪)と、実際に観測された天気が異なる場合もある。

 このように、地上の気温が0℃より高くても、湿度が低ければ雪が降る場合があります。その理由として、豆知識16(図3)で取り上げた潜熱が関係しています。
 つまり、湿度が低いと、落下中の雪片(氷)が水蒸気に変化(昇華)する過程で熱が奪われ、雪片が 0℃以下に冷やされます。このため、気温が多少高くても、雪片(氷)が融けないことがあるのです。

日本列島における寒気の南下と雪が降る範囲

 冬型の気圧配置が強まり寒気が日本付近に流れ込む場合、その寒気の強さ(寒気の南下)の程度によって、日本列島で雪が降る範囲は異なります。
 これから、2024年12月、2025年1月に雪が降った事例を7つ選び、その時の「500hPaの-36℃及び850hPaの-6℃の等温線」の位置(南下の程度)をお示しします。
 そのうえで、「降雪量の分布図」と比べてみます。また一部の地点については、地上で観測された気温と湿度から、雨と雪の判別についても考察します。

主に北海道で積雪(2事例)

2024年12月26日21時

 まず、北海道を中心に積雪がみられた、2024年12月26日21時の事例です(図2)。前述のとおり、気象庁の500hPaや850hPaの高層実況天気図(寒候期)では、等温線は6℃間隔で書かれています。
 ただし、これから紹介するWindy.com の気象図では、等温線の間隔が2℃です。そこで500hPaの気象図(①)には-36℃の位置、850hPaの気象図(②)には-6℃の位置を、それぞれおおまかに書き込みました。

 前3時間降水量(③)と、前6時間降雪量(④)の図は、気象庁のwebサイトから入手しました。対象となる時間が「③は3時間」「④は6時間」と異なりますが、大まかな傾向は把握できると思います。
 降雪量とは「一定時間に、新たに積もった雪の深さ」のことです。また、「④(降雪量)の観測地点数」は「③(降水量)の観測地点数」に比べ少なく、雪が少ない地域(太平洋側の地域など)では顕著に観測地点数が少ない点にはご注意ください。
 なお、各図の⑤と⑥においては、全国の観測地点の中から2地点を選び(⑤の★、▲)、地上の気温、湿度、及び観測された天気(気象庁のwebサイトより入手)を、⑥の図内に書き込みました(⑥の★、▲)。

図2  2024年12月26日21時の500hPa 気温・風 予想図(①)、850hPa 気温・風 予想図(②)、前3時間降水量(③)、前6時間降雪量(④)、地上実況天気図(⑤)及び注目した2地点における地上の気温、湿度、観測された天気(⑥)
注)①、②は欧州中期予報センターの数値予報モデルによる予測値(Windy.comのwebサイトより入手)。③~⑤は気象庁提供。
①:-36℃の大まかな位置を記入。
②:-6℃の大まかな位置を記入。
⑤:注目した2地点(★、▲)の大まかな位置を記入。
⑥:⑤の2地点(★、▲)における地上の気温、湿度、観測された天気(気象庁のwebサイトより入手)を図内に記入。

 以上を念頭において、まずは2024年12月26日21時の気象図をみてみましょう(図2)。500hPaにおける-36℃の等温線は、日本海北部~北海道付近にあります(図2①)。850hPaにおける-6℃の等温線は、日本海から東北付近を通っています(②)。
 この頃の降水量(③)と降雪量(④)の分布を比べると、北海道や東北の一部では雪が中心、北陸と近畿日本海側では雨が中心であることが分かります。
 また、12月26日21時の青森の気温は0.6℃、湿度は83%であり、観測された天気は雪。高田の気温は4.5℃、湿度は93%であり、観測された天気は雨でした(⑤、⑥)。

2025年1月6日9時

 同じく北海道を中心に積雪がみられた、2025年1月6日9時の事例です(図3)。500hPaにおける-36℃の等温線は、日本海北部~北海道付近にあります(①)。850hPaにおける-6℃の等温線は、日本海から北海道付近を通っています(②)。この頃、北海道では雪が中心(③)、西日本では雨が中心となりました(④)。
 また、1月6日9時の寿都の気温は1.5℃、湿度は95%であり、観測された天気はみぞれ。青森の気温は4℃、湿度は86%であり、観測された天気は雨でした(⑤、⑥)。

図3  2025年1月6日9時の500hPa 気温・風 予想図(①)、850hPa 気温・風 予想図(②)、前3時間降水量(③)、前6時間降雪量(④)、地上実況天気図(⑤)及び注目した2地点における地上の気温、湿度、観測された天気(⑥)
注)図の注釈は図2参照。

主に北海道~北陸で積雪(2事例)

2024年12月27日9時

 次に、北海道、東北に加え、北陸でも積雪がみられた2024年12月27日9時の事例です(図4)。500hPaにおける-36℃の等温線は、東北(北部)付近にあります(①)。850hPaにおける-6℃の等温線は、北陸(西部)~東北(南部)付近を通っています(②)。
 この頃、北海道、東北、北陸では雪が中心(③)、近畿日本海側では雨が中心となりました(④)。
 また、12月27日9時の坂田の気温は1.8℃、湿度は76%であり、観測された天気は雪。富山の気温は3.3℃、湿度は94%であり、観測された天気は雨でした(⑤、⑥)。

図4   2024年12月27日9時の500hPa 気温・風 予想図(①)、850hPa 気温・風 予想図(②)、前3時間降水量(③)、前6時間降雪量(④)、地上実況天気図(⑤)及び注目した2地点における地上の気温、湿度、観測された天気(⑥)
注)図の注釈は図2参照。

2024年12月29日9時

 同じく北海道、東北、北陸を中心に積雪がみられた2024年12月29日9時の事例です(図5)。500hPaにおける-36℃の等温線は、北陸(東部)~東北(南部)付近にあります(①)。850hPaにおける-6℃の等温線は、中国、近畿、東北(南部)付近を通っています(②)。
 この頃、北海道、東北、北陸を中心に雪(③)、四国、九州の一部などでは雨となりました(④)。
 また、12月29日9時の新潟の気温は0.5℃、湿度は100%であり、観測された天気はみぞれ。境の気温は5.1℃、湿度は73%であり、観測された天気は雨でした(⑤、⑥)。

図5   2024年12月29日9時の500hPa 気温・風 予想図(①)、850hPa 気温・風 予想図(②)、前3時間降水量(③)、前6時間降雪量(④)、地上実況天気図(⑤)及び注目した2地点における地上の気温、湿度、観測された天気(⑥)
注)図の注釈は図2参照。

主に北海道~山陰で積雪(3事例)

2024年12月28日9時

 次に、北海道、東北、北陸に加え、近畿日本海側、山陰でも積雪がみられた2024年12月28日9時の事例です(図6)。500hPaにおける-36℃の等温線は、東北(北部)付近にあります(①)。850hPaにおける-6℃の等温線は、九州(北部)、近畿、東北(南部)付近を通っています(②)。
 この頃、北海道、東北、北陸、近畿日本海側、山陰を中心に雪(③)、四国、九州を中心に雨となりました(④)。
 また、12月28日9時の米子の気温は2.5℃、湿度は82%であり、観測された天気はみぞれ。山口の気温は3.1℃、湿度は93%であり、観測された天気は雨でした(⑤、⑥)。

図6   2024年12月28日9時の500hPa 気温・風 予想図(①)、850hPa 気温・風 予想図(②)、前3時間降水量(③)、前6時間降雪量(④)、地上実況天気図(⑤)及び注目した2地点における地上の気温、湿度、観測された天気(⑥)
注)図の注釈は図2参照。

2025年1月8日9時

 同じく北海道、東北、北陸、近畿日本海側、山陰を中心に積雪がみられた、2025年1月8日9時の事例です(図7)。500hPaにおける-36℃の等温線は、北陸(東部)~東北(南部)付近にあります(①)。850hPaにおける-6℃の等温線は、四国、近畿、東海、甲信付近を通っています(②)。
 この頃、北海道、東北、北陸、近畿日本海側、山陰を中心に雪(③)、四国、九州の一部などでは雨となりました(④)。
 また、1月8日9時の豊岡の気温は2.5℃、湿度は74%であり、観測された天気は雪。佐賀の気温は5℃、湿度は70%であり、観測された天気は雨でした(⑤、⑥)。

図7   2025年1月8日9時の500hPa 気温・風 予想図(①)、850hPa 気温・風 予想図(②)、前3時間降水量(③)、前6時間降雪量(④)、地上実況天気図(⑤)及び注目した2地点における地上の気温、湿度、観測された天気(⑥)
注)図の注釈は図2参照。

2025年1月10日9時

 北海道、東北、北陸、近畿日本海側、山陰を中心に積雪がみられた事例を、さらにもう一つ紹介します(2025年1月10日9時,図8)。500hPaにおける-36℃の等温線は、東北(南部)付近にあります(①)。850hPaにおける-6℃の等温線は、四国の南、東海道沖付近を通っています(②)。
 この頃、北海道、東北、北陸、近畿日本海側、山陰を中心に雪となりました(④)。
 また、1月10日9時の浜田の気温は1.9℃、湿度は63%であり、観測された天気は雪。境の気温は1.5℃、湿度は88%であり、観測された天気はみぞれでした(⑤、⑥)。

図8   2025年1月10日9時の500hPa 気温・風 予想図(①)、850hPa 気温・風 予想図(②)、前3時間降水量(③)、前6時間降雪量(④)、地上実況天気図(⑤)及び注目した2地点における地上の気温、湿度、観測された天気(⑥)
注)図の注釈は図2参照。

7つの事例のまとめ

 以上の7つの事例に示すように、500hPaや850hPaの気象図で示した寒気の南下に伴い、降雪エリアも南下していることが分かります(図2~8の①、②、④)。例えば850hPaにおける-6℃の等温線より北側のエリア(②)は、降雪エリア(④)と大まかに一致しています。
 ただし、完全には一致していません。この理由として「④は、各観測地点において新たに積もった雪の深さを表しており、単に雪が降っただけ(積もらなかった)地点は、もっと南まで分布している可能性がある」「④の観測地点は、地点によって標高や地形が異なる(雪の降り方が異なる)」ことなどが考えられます。

 7つの事例では、地上の気温が0℃より高くても、湿度が低ければ、地上で雪やみぞれが観測される場合があることも確認しました(図2~8の⑥)。
 なお、図2~8の⑥の合計14地点(2地点×7事例)のプロット(★、▲)は、気温・湿度の観測値を図中に書き込んで推定された天気(雨・みぞれ・雪)と、実際に観測された天気が一致しています。しかし、一致しない場合もあることを、改めてご承知おきください。

さいごに

 降雪量を、降水量に換算してみます。雪質によって幅がありますが、密度が0.1g/cmの雪であれば、1cmの降雪量が1mmの降水量に相当します。雪の予報に当たっては、まず雨なのか雪なのか」、次に積雪となるのか」、さらに何cm積もるのか」等について段階的に考察されます。
 日頃あまり雪が降らない地域では、わずか数cmの積雪でも交通障害など大きな影響がでることがあります。さきほど述べた換算法を使えば、3cm雪が積もる予想」をするためには、「3mmの雨が降る予想」の精度が必要になり、かつ「雨になるか雪になるかの判断」も求められます。このように、雪の予想は難しいものです。
 今回の豆知識では、上空の寒気の強さの指標となる「500hPaの気温」、雨か雪の目安となる「850hPaの気温、地上の気温・湿度」について、事例を交えて紹介しました。これらを通して、雪の予報に関する、おおまかなイメージを掴んでいただければ幸いです。
 次回のまめ知識でも、引き続き雪をテーマにする予定です。

今回の豆知識で参考にした図書等

・荒木健太郎(2014)雲の中では何が起こっているのか,ペレ出版
・安斎政雄(1998) 新・天気予報の手引(改訂29版),日本気象協会
・岩槻秀明(2017) 気象学のキホンがよ~くわかる本(第3版),秀和システム
・石瀬宗弘(1982)実況の対応から見た56豪雪と38豪雪の特徴,天気29:1044-1049
・小倉義光(1999) 一般気象学(第2版),東京大学出版会
・気象庁のwebサイト
・中島俊夫(2022)イラスト図解 よくわかる気象学 実技編,ナツメ社
・新田 尚,土屋 喬,成瀬秀雄,稲葉征男(2002)気象予報士試験 実技演習,オーム社
・新田 尚,稲葉征男,土屋 喬,二宮洸三,(2004)天気図の使い方と楽しみ方,オーム社
・日本気象協会(1996)気象FAXの利用法 PartⅡ(改訂2版),日本気象協会
・牧野 眞一(2014)南岸低気圧による関東地方の降雪時の気象特性,平成25年度予報技術研修テキスト, 気象庁予報部, 28-38
・松尾敬世(2001)雪と雨をわけるもの,天気48:33-37
・吉﨑正憲・加藤輝之(2007) 豪雨・豪雪の気象学,朝倉書店
・Windy.comのwebサイト

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