地上と上空では、風の向きや強さが異なります。今回は、その仕組みを考えてみましょう。なお、前回の「まめ知識2」で述べたとおり、「➀等圧面上の等高度線」は、「➁等高度面上の等圧線」と全く同じ概念で見ることができます。以下の文章では、①と②の表現が出てきますが、両者は同じ意味で捉えてください。
上空の風
地衡風(ちこうふう)
地面摩擦の影響を受けない上空において、図1のような直線の等圧線をもつ、気圧配置を仮定します(上が北、下が南)。上の方が低圧部(気圧が低い)、下の方が高圧部(気圧が高い)とします。ここで、気圧の高い方から低い方へ働く力を、気圧傾度力といいます。
この場合、気圧傾度力の向きに南風が吹きそうですね。ところが、実際は西風が吹きます。その理由は、地球の自転の影響で、北半球では風に直角に右向きに、コリオリ力と呼ばれる力が働くからです。このように(図1)、気圧傾度力とコリオリ力が釣り合った状態で吹く風を、気象学では地衡風といいます。このときの風速は、等圧線の間隔が狭いほど(気圧傾度が大きいほど)大きくなります。
ちなみに、コリオリ力は、転向力とも呼ばれます。フランスの学者コリオリが1844年に初めて議論したものです。

図1 上空における地衡風
次に、地衡風をもう少し立体的にイメージしてみましょう。図2は、「豆知識2で紹介した図2」を単純化したものです。

図2 各高度における等圧面の傾き
今回は、図2の高さのうち、高度5500m付近に焦点をあてます。この高さ付近において「等圧面の傾きが大きい場合」と「等圧面の傾きが小さい場合」の地衡風を考えます。
等圧面の傾きが大きい場合が、図3です。まず、この図を正面から見てみましょう。東経135度線に沿って、鉛直に大気を切り、横(西側)から見た断面図とお考えください。「豆知識2」でお話したとおり、赤道側と北極側の気温差に対応して、等圧面は傾きます。この図では、その気温差が大きく、等圧面の傾きも大きいと仮定しています。次に、この図を上から見てみましょう。つまり、等高度面(5500m)で水平に切って、その上空から眺めてみます。すると、南側(図の右側)が高圧部、北側(図の左側)が低圧部となり、等圧線(490hPa、500hPa、510hPa、520hPa、530hPa)を東西方向に引くことができます。これは、図1のイメージと同じですね。

図3 高度5500m付近において等圧面の傾きが大きい場合の地衡風
図1で述べたとおり、地衡風は等圧線に平行に吹くので、図3でも西風が吹きます。また、等圧線の間隔が狭いので、風は強く吹きます。このような上空の強い西風は、偏西風あるいはジェット気流と呼ばれることもあります。
次に、高度5500m付近の等圧面の傾きが小さい場合の、地衡風の吹き方を考えます(図4)。図を正面から見てみましょう。この例では、赤道側と北極側の気温差が小さく、等圧面の傾きも小さいと仮定しています。次に、この図を上から見てみましょう。つまり、等高度面(5500m)で水平に切って、その上空から眺めてみます。
この場合も、南側(図の右側)が高圧部、北側(図の左側)が低圧部となり、等圧線を東西方向に引くことができる点は、図3と同じです。ただし、その等圧線(490hPa、500hPa)の間隔が広い点が異なります。等圧線が混んでいない(密でない)ので、気圧差が小さく、地衡風は弱くなります。

図4 高度5500m付近において等圧面の傾きが小さい場合の地衡風
以上述べたように、赤道側と北極側の気温差が大きいほど等圧面が傾き、風が強くなります(図3と図4の比較)。なお、北半球において、赤道~北緯30度を熱帯、北緯30~60度を温帯、北緯60度~北極を寒帯とします。
この場合、温帯では、熱帯や寒帯と比べ南北方向の気温傾度(気圧傾度)が大きく、西風が強くなります。また、上空ほど等圧面の傾きが大きいため(図2)、それに対応して上空ほど風は強くなります。以上のことから、温帯(中緯度地帯)の上空では、ジェット気流が出現しやすくなります。
傾度風(けいどふう)
私たちは、車で急カーブを曲がるときに、外側に向かう遠心力を感じますね。気象の分野においても地上天気図の等圧線(等圧面天気図の等高度線)が曲率をもつ(曲がっている)場合、空気の運動に対して、気圧傾度力とコリオリ力のほかに、遠心力を考える必要があります。
等圧線が低気圧性の場合には(図5左)、コリオリ力と遠心力の和が気圧傾度力と釣り合い、また、高気圧性の場合には、気圧傾度力と遠心力の和がコリオリ力と釣り合い(図5右)、いずれも、その接線(円と1点で接する直線)の方向に風が吹きます。このような風を傾度風といいます。

図5 等圧線が曲がっている場合の風の吹き方(傾度風)
遠心力は、低気圧性のときは気圧傾度を弱める方向に、高気圧性のときは気圧傾度を強める方向に働きます(図5)。このため、傾度風は、地衡風(図1)と比べ、低気圧性のときは弱く、高気圧性のときは強くなります。
地上付近の風(摩擦力を考慮)
ある物体が他の物体と接触しながら運動するとき、その接触面には、進行方向に対して逆向きの力、すなわち摩擦力が働きますね。地上付近で吹く風には、気圧傾度力とコリオリ力に加え、このような摩擦力が働きます(図6)。その結果、風は等圧線とある傾きをなして(等圧線を横切って)、低圧部に向かって吹きます。
通常、陸上(図6左)の方が、海(湖)上(図6右)よりも摩擦力が大きく働くので、風が等圧線を横切る角度(θ)が大きくなります。また、摩擦力は風速にも影響を与えます。一般に海上の風速は、地衡風の50~70%、陸上の場合は、地形の影響にもよりますが、さらに小さくなります。

図6 地上付近において摩擦力を考慮した風(左図:摩擦が大きい場合,右図:摩擦が小さい場合)
余談になりますが、オランダの学者ボイス・バロットは、「風を背にして立つ時、北半球では左斜め前方に暴風雨(低気圧)の中心がある」という法則を、19世紀半ばに見出しました。気象観測機器が発達していなかった当時、船乗りが自分のいる場所の風向だけから、恐ろしい暴風の中心方向を推察するために用いた方法です。
この法則における風向と低圧部の位置関係は、図6を見れば納得いただけると思います。なお、この法則は、大まかに低気圧や台風の位置を知りたいときに、現代でも使える大変便利なものです。
摩擦のため、地上付近の風が、等圧線を横切って低圧部に吹くことの重要性を、他の観点から考えてみます。図7に示すように円形の等圧線をもつ低気圧や高気圧があったとします。もし、摩擦の影響がなければ、空気塊は水平面内で円運動を繰り返すだけです。
しかし、実際には摩擦の影響で風は等圧線を横切って、低気圧の場合は中心に向かって吹き込み(図7左)、高気圧の場合は周りに向かって吹き出します(図7右)。

図7 北半球における低気圧(左側)及び高気圧(右側)域内の風向
ここで低気圧の場合、中心に向かって吹き込んだ風は収束し(空気が集まり)、その空気は上昇します。この上昇流は、台風の発達に本質的な役割をしています。
今回の豆知識で参考にした図書等
・安斎政雄(1998) 新・天気予報の手引(改訂29版),日本気象協会
・小倉義光(1994) お天気の科学-気象災害から身を守るために-,森北出版株式会社
・小倉義光(1999) 一般気象学(第2版),東京大学出版会