はじめに
前回は、850hPa天気図を使った前線解析、下層暖湿気のモニタリングを話題にしました。その具体例としては、梅雨前線や秋雨前線を主に取り上げました。今回は、温帯低気圧の発達に伴う、850hPa面の暖気移流と寒気移流に注目します。
この内容は、豆知識14でも少しだけ取り上げました。しかし、その時は850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(モノクロ表示)を使いました。
今回は、Windy.comのwebサイトから入手した850hPa風・気温図(カラー表示)を使います。また、豆知識14のときよりも、さらに具体的な事例を増やして紹介します。その前に、まずは温度移流(暖気移流と寒気移流)についてお話します。
暖気移流と寒気移流について
等温線を横切って気温が高い方から低い方に風が吹く(暖気を寒気側に運ぶ)ことを、暖気移流と呼びます(図1①)。このとき、等温線が、暖気側から寒気側に凸状の形状をとることもあります。
一方、等温線を横切って気温が低い方から高い方に風が吹く(寒気を暖気側に運ぶ)ことを、寒気移流と呼びます(図1②)。このとき、等温線が、寒気側から暖気側に凸状の形状をとることもあります。
このような暖気移流や寒気移流を温度移流といいます。温度移流は「等温線の間隔が密である」「等温線を横切る風が強い」「風が等温線を横切る角度が90度に近い」ほど、大きくなります。風が等温線に並行に吹いていれば、上記の条件を全く満たさないので、「温度移流はない」ことになります。

図1 暖気移流と寒気移流(模式図)
低気圧の発達期と最盛期における850hPaの温度移流(9事例)
豆知識9、13及び14では、「発達中の低気圧の場合、その前面では湿潤な暖気が上昇しながら流入し、後面では乾燥した寒気が下降しながら流入する」ことを述べました。今回は、低気圧の発達期や最盛期における850hPaの暖気移流と寒気移流を、カラー表示の気象図を用いて確認してみます。
2024年3月6日9時(低気圧の発達期)、3月7日9時(低気圧の最盛期)
まずは、2024年3月6日9時の天気図です(図2-1)。地上天気図(①)は、豆知識13、14でも、用いた図です。この図(①)を見ると、発達中の低気圧が日本の東にあり(中心は、矢印の位置)、寒冷前線が沖縄の南へのびています。また、低気圧の中心から南東へ温暖前線がのびています。850hPa 気温・風 予想図(②)は、今回、新たに掲載しました。
この図(②)を見ると、低気圧(中心は、矢印の位置)の前面(東側)には、等温線の集中帯が東西にのびており、一部は北にやや凸状の形状を示しています。また、その等温線の集中帯を南(暖気側)から北(寒気側)に横切るように風が吹いています。すなわち、暖気移流が確認できます。
低気圧の後面(西側)にも、等温線の集中帯が東西にのびています。このエリアでは等温線の集中帯を北(寒気側)から南(暖気側)に横切るように風が吹いています。すなわち、寒気移流が確認できます。

図2-1 2024年3月6日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)①は気象庁提供。②は、欧州中期予報センターの数値予報モデルによる予測値(Windy.comのwebサイトより入手)。
②:実線は等温線。気温の分布は、色を変えて表示。細く途切れた線は、風の流れを示す。
①、②:注目する低気圧の中心位置に、矢印を記入した。
次に最盛期の低気圧における温度移流を、その翌日の2024年3月7日9時の天気図(図2-2)で確認します。地上天気図をみると(①)、低気圧は日本のはるか東へと進みました(中心は、矢印の位置)。
ここで、低気圧前面(東側)の等温線の集中帯をみると、北に向かう凸状の形状が、3月6日9時よりもはっきりしており、暖気移流がさらに顕著になっています。低気圧の後面(西側)の等温線の集中帯は、南に向かってやや凸状の形状を示し、3月6日9時よりも寒気移流がさらに顕著になっています。

図2-2 2024年3月7日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)図の注釈は図2-1参照。
さらに、2024年3月12~13日(図3-1、3-2)、3月17~18日(図4-1、4-2)、4月18~19日(図5-1、5-2)、6月21~22日(図6-1、6-2)、6月30日~7月1日(図7-1、7-2)、10月23~24日(図8-1、8-2)、11月10~11日(図9-1、9-2)、11月21~22日(図10-1、10-2)の天気図も紹介します。これら場合も、発達期及び最盛期の低気圧における暖気移流や寒気移流に関して、2024年3月6~7日の事例と同じ特徴を確認できます。
2024年3月12日9時(低気圧の発達期)、3月13日9時(低気圧の最盛期)

図3-1 2024年3月12日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)図の注釈は図2-1参照。

図3-2 2024年3月13日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)図の注釈は図2-1参照。
2024年3月17日9時(低気圧の発達期)、3月18日9時(低気圧の最盛期)

図4-1 2024年3月17日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)図の注釈は図2-1参照。

図4-2 2024年3月18日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)図の注釈は図2-1参照。
2024年4月18日9時(低気圧の発達期)、4月19日9時(低気圧の最盛期)

図5-1 2024年4月18日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)図の注釈は図2-1参照。

図5-2 2024年4月19日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)図の注釈は図2-1参照。
2024年6月21日9時(低気圧の発達期)、6月22日9時(低気圧の最盛期)

図6-1 2024年6月21日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)図の注釈は図2-1参照。

図6-2 2024年6月22日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)図の注釈は図2-1参照。
2024年6月30日9時(低気圧の発達期)、7月1日9時(低気圧の最盛期)

図7-1 2024年6月30日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)図の注釈は図2-1参照。

図7-2 2024年7月1日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)図の注釈は図2-1参照。
2024年10月23日9時(低気圧の発達期)、10月24日9時(低気圧の最盛期)

図8-1 2024年10月23日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)図の注釈は図2-1参照。

図8-2 2024年10月24日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)図の注釈は図2-1参照。
2024年11月10日9時(低気圧の発達期)、11月11日9時(低気圧の最盛期)

図9-1 2024年11月10日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)図の注釈は図2-1参照。

図9-2 2024年11月11日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)図の注釈は図2-1参照。
2024年11月21日9時(低気圧の発達期)、11月22日9時(低気圧の最盛期)

図10-1 2024年11月21日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)図の注釈は図2-1参照。

図10-2 2024年11月22日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)図の注釈は図2-1参照。
おわりに
豆知識9では、発達する低気圧に見られる3つの特徴の1つとして「低気圧(気圧の谷の軸)の進行方向の前面(東側)で暖気移流、進行方向の後面(西側)で寒気移流が卓越していること」を述べました。
今回は、発達した低気圧として9つの事例を取り上げ、850hPa風・気温図(カラー表示)を用いて暖気移流、寒気移流の出現状況を紹介しました。これらの事例を通して、「低気圧前面の暖気移流、後面の寒気移流」「等温線を横切って吹く風(温度移流)」を実感していだだければ幸いです。
今回の豆知識で参考にした図書等
・安斎政雄(1998) 新・天気予報の手引(改訂29版),日本気象協会
・岩槻秀明(2017) 気象学のキホンがよ~くわかる本(第3版),秀和システム
・小倉義光(1999) 一般気象学(第2版),東京大学出版会
・気象庁のwebサイト・中島俊夫(2022)イラスト図解 よくわかる気象学 実技編,ナツメ社
・Windy.comのwebサイト