はじめに
前々回の豆知識では、寒冷高気圧の代表例としてシベリア高気圧、前回の豆知識では、温暖高気圧の代表例として太平洋高気圧のお話をしました。
今回取り上げるオホーツク海高気圧は、上~中層では温暖高気圧的な特徴を、下層では寒冷高気圧的な特徴をあわせ持ちます。このように、同じ高気圧であっても高度によって性質が大きく異なる点が、オホーツク海高気圧の最大の特徴です。そのことを、図を用いてご説明します。また、オホーツク海高気圧に関係する、過去の気象予報士試験の問題も紹介します。
オホーツク海高気圧とは
オホーツク海高気圧とは、オホーツク海(図1①)や千島近海(図1②)に中心を持つ高気圧で、主に春の後半〜夏に現れます。
オホーツク海高気圧の発生には、夏になって急速に暖まってくるユーラシア大陸と、初夏まで海氷が残る冷たいオホーツク海の存在という地理的条件などが関係しています。また、この高気圧の発達には、オホーツク海(図1①)や沿海州(図1③)付近の上空で生じるブロッキング現象(豆知識11)が深く関わっています。
中・高緯度の上空を流れる偏西風(このうち特に風が強い帯状の部分がジェット気流)が北に大きく蛇行すると、その付近には、強いリッジ場(顕著な尾根)が形成され、さらに進展するとカットオフハイ(切離高気圧)となる場合もあります。これらを、ブロッキング高気圧と呼ぶことがあります。このような上空での高気圧性の場が持続すると、地上では高気圧が長期間停滞しやすくなります。
オホーツク海高気圧についても、このようなブロッキングの発生に伴い、数週間にわたり持続・停滞することがあります。

図1 気象情報に用いられる地名、海域名(気象庁提供、一部地域を拡大して掲載)
注)注目したエリアに①~③の番号を記入した。
オホーツク海高気圧は、上~中層では背の高い温暖高気圧的な性質を持ちます。図2のように、上層で空気が収束(①)する量が、下層で空気が発散(③)する量を上回る状態が続くと、空気の柱の中に空気がたまっていきます。その結果、周囲より空気が多く(重く)なり、高気圧の構造が形成されます。
また、下降流による断熱昇温(②)や暖気移流の影響のため、上~中層では周囲より気温が高い(④)特徴があります。一方で、オホーツク海は、海面水温が低いため(⑤)、その直上の空気は冷たく(⑥)、湿潤な性質を帯びます。このように、下層の空気が冷えて重くなることで、地表付近の気圧がいっそう高くなります。
以上のように、オホーツク海高気圧は、上~中層では温暖高気圧的な特徴を、下層では寒冷高気圧的な特徴をあわせ持つ高気圧と言えます。

図2 オホーツク海高気圧のイメージ図
高気圧の背の高さ、気温の高度分布
先ほど述べたように、オホーツク海高気圧は背が高く、上~中層では周囲より気温が高く、下層では低い特徴があります。このことを、2021年6月17日9時の気象図で確認してみましょう(図3)。
まず、地上天気図(①)。高気圧の中心は、千島近海付近にあります。以下では、高度が高い方から順に眺めてみます。
②に、300hPa(高度約9000m)の天気図を示します。先ほど述べた千島近海付近の地上高気圧の中心位置に、「高」の文字を記入しました(③~⑤も同様)。300hPa(②)の沿海州付近(高の文字のやや西側)に注目してみると、等高度線(実線)が北側(北東)に向かって凸となっていますね。つまり、このエリアでは強いリッジ場(顕著な尾根)が形成され、300hPaの高さにおいても、高気圧性の場となっていることが分かります。
次に500hPa(高度約5500m)の天気図(③)。この高度においても、沿海州や千島近海において高気圧性の場となっています。特に、サハリン付近には等高度線が閉じた高気圧があり、その中心付近にHの記号が示されています。さらに、この付近には、緑の矢印で示した、高温域が確認できます。
④は、同じく500hPaにおける気温分布を示した図です。この図でも、サハリン付近を中心に、気温が周りより高いことが分かります。
オホーツク海高気圧の場合、前述のとおり下層の気温は周囲より低いのですが、気温が低い高度は、およそ1km以下(海面から数百mまで)です。これは、冷たい海面による冷却の影響が、下層に限られるためです。そこで、今回は、925hPa(約750m)の気象図(⑤)の気温分布をみると、千島近海付近を中心に、気温が周囲より低いことが確認できます。





図3 2021年6月17日9時の地上実況天気図(①)、アジア300hPa天気図(②)、アジア500hPa天気図(③)、500hPa気温 解析図(④)、及び925hPa気温 解析図(⑤)
注)①:気象庁提供の日本周辺域 地上天気図。注目する地上高気圧の中心位置に、赤の矢印を記入した。
②、③:気象庁提供の高層天気図の一部を拡大して掲載。②と③の実線は等高度線。②の破線は等風速線、③の破線は等温線。③で注目した等温線(周囲より気温が高いことが読み取れる等温線)には、緑の矢印を記入した。
④、⑤:米国環境予測センター / 米国大気研究センター(NCEP/NCAR)の再解析データ。気温の分布は、色を変えて表示。数値は絶対温度を表す(単位:K)。図によって、色と温度の対応は異なる(各図の凡例のとおり)。
②~⑤:①において注目した地上高気圧の中心位置に、「高」の文字を記入した。
次に、2017年8月11日9時(図4)、2012年7月20日9時(図5)及び2007年7月20日9時(図6)の事例をみてみましょう。
これらの日時でも、オホーツク海~千島近海付近に、地上の高気圧が確認できます(図4~6の①)。また、300hPa(図4~6②)や500hPa(図4~6の③)の等高度線の特徴から、これらのオホーツク海高気圧も背が高いことが分かります。さらに、これらの高気圧の中心付近の気温は、500hPa(図4~6の③と④)では周囲より高い一方で、925hPa(図4~6の⑤)では低いことが確認できます。





図4 2017年8月11日9時の地上実況天気図(①)、アジア300hPa天気図(②)、アジア500hPa天気図(③)、500hPa気温 解析図(④)、及び925hPa気温 解析図(⑤)
注)①~⑤の注釈は、図3を参照。





図5 2012年7月20日9時の地上実況天気図(①)、アジア300hPa天気図(②)、アジア500hPa天気図(③)、500hPa気温 解析図(④)、及び925hPa気温 解析図(⑤)
注)①~⑤の注釈は、図3を参照。





図6 2007年7月20日9時の地上実況天気図(①)、アジア300hPa天気図(②)、アジア500hPa天気図(③)、500hPa気温 解析図(④)、及び925hPa気温 解析図(⑤)
注)①~⑤の注釈は、図3を参照。
日本の天候に与える影響(北東気流を中心に)
気団という観点からみると、オホーツク海高気圧の下層は、海洋性寒帯(極)気団に分類されるオホーツク海気団によって占められます。このオホーツク海気団は、南側の海洋性熱帯気団(小笠原気団)との間で、梅雨前線や秋雨前線の形成に関与します。
また、暖候期にオホーツク海高気圧が停滞すると、北日本から東日本にかけての太平洋側を中心に、海洋からの冷たく湿った北東風が持続的に吹き込みやすくなります。この北東風のことを北東気流と呼びます。北日本(主に東北地方)では、北東気流のことを、冷害と結びつけて「やませ」と表現することもあります。
北東気流に関しては、高気圧の中心が北日本や三陸沖にあり、関東に東または北東の風が入り、関東だけに下層雲が広がるタイプもあります。ただし、今回の豆知識では、オホーツク海高気圧をテーマとしていることから、以下ではオホーツク海高気圧に伴う北東気流を紹介します。
それでは、その事例を4つみてみましょう。すなわち、図7~10に、2021年6月17日9時、2017年8月10日9時、2012年6月15日9時及び同年7月20日9時の地上天気図(①)と925hPa風向・風速 解析図(②)を示します。
オホーツク海高気圧と、その南側の低気圧や前線との相対的な位置関係によって異なりますが、概して北日本~東日本の太平洋側を中心に、東~北東の風が吹いていることが確認できます(図7~10の②)。


図7 2021年6月17日9時の地上実況天気図(①)及び925hPa風向・風速 解析図(②)
注)①:気象庁提供の日本周辺域 地上天気図の一部を拡大して掲載。
②:気象庁のメソモデル初期値を、気象情報可視化ツール Wvisによって可視化した結果。風向は矢印(ベクトル)と流線を組み合わせて表示。風速(ノット)は、色を変えて表示。


図8 2017年8月10日9時の地上実況天気図(①)及び925hPa風向・風速 解析図(②)
注)①、②の注釈は、図7を参照。


図9 2012年6月25日9時の地上実況天気図(①)及び925hPa風向・風速 解析図(②)
注)①、②の注釈は、図7を参照。


図10 2012年7月20日9時の地上実況天気図(①)及び925hPa風向・風速 解析図(②)
注)①、②の注釈は、図7を参照。
北東気流(やませ)は、単にオホーツク海高気圧から吹き出す風だけに起因するわけではありません。オホーツク海高気圧に加え、太平洋側に低気圧や前線を伴うような気圧配置が存在するとき、オホーツク海高気圧の時計回りの風と、南方の低気圧や前線に伴う風が重なり合うことで、北東気流が強められたり、長く持続しやすくなると考えられています。
図7~10の地上天気図(①)でも、オホーツク海高気圧に加え、太平洋側に、低気圧や前線が位置している場合がありますね。
なお、北日本近海の太平洋は、オホーツク海に比較して海水温が高いため、高気圧から吹き出した冷湿な空気(北東気流)が、海面からの顕熱と水蒸気の供給を受けて不安定となります。このため、広範囲に層雲や層積雲(豆知識28)が発生しやすくなり、日照時間が減少するので、さらに低温となります。
高気圧の持続性について
太平洋高気圧の勢力の強弱も関係しますが(豆知識40)、一般に、オホーツク海高気圧が夏に頻繁に発生(停滞)すると、北日本から東日本にかけての太平洋沿岸を中心に、低温や日照不足のリスクが高まります。
近年では、2003年、1993年、および1980年に、そのような冷夏となりました。また、2017年は 8月前半を中心に北日本太平洋側で日照不足と低温、東日本では日照不足となりました。
以下では、2017年と2003年にオホーツク海高気圧が停滞した事例を、地上天気図を用いて紹介します。
2017年の事例
2017年は、7月末から8月中旬にかけオホーツク海高気圧が頻繁に発生(停滞)しました。すなわち、7月30日~8月5日、8月10日~8月14日、8月17日~8月20日頃を中心にオホーツク海高気圧がみられました。
このうち、7月31日~8月3日(図11)、8月10日~8月13日(図12)、8月17日~8月20日(図13)の地上天気図を、以下に示します。赤の矢印で示すように、オホーツク海高気圧がこの期間に、オホーツク海や千島近海付近に停滞していることが分かります。

図11 2017年7月31日~8月3日の地上実況天気図(1~4)
注)気象庁提供の日本周辺域 地上天気図。オホーツク海あるいは千島近海付近に注目する高気圧の中心がある場合、その位置に赤の矢印を記入した。

図12 2017年8月10日~8月13日の地上実況天気図(1~4)
注)図の注釈は、図11を参照。

図13 2017年8月17日~8月20日の地上実況天気図(1~4)
注)図の注釈は、図11を参照。
2003年の事例
2003年は、1993年以来10年ぶりの顕著な冷夏となりました。全国的な低温と日照不足が特徴で、特に北日本や東日本では平年を大幅に下回る気温となり、農業をはじめとする産業に大きな影響を与えました。
この年は、6月下旬から8月下旬にかけ、オホーツク海高気圧が頻繁に発生(停滞)しました。地上天気図で確認すると、オホーツク海高気圧が、6月25日~7月18日(図14)、7月21日~7月28日(図15)、8月13日~8月20日(図16)に、オホーツク海や千島近海付近に停滞していることが分かります(図中の赤の矢印)。






図14 2003年6月25日~7月18日の地上実況天気図(1~24)
注)図の注釈は、図11を参照。


図15 2003年7月21日~7月28日の地上実況天気図(1~8)
注)図の注釈は、図11を参照。


図16 2003年8月13日~8月20日の地上実況天気図(1~8)
注)図の注釈は、図11を参照。
気象予報士試験での出題例
過去の気象予報士試験において、オホーツク海高気圧に関する問題が出された例を、以下に紹介します。
第63回気象予報士試験 学科

図17 第63回学科 専門知識問15
(d)に関しては、「オホーツク海高気圧とは」「高気圧の持続性について」の項目で述べたとおり、設問の条件でオホーツク海高気圧が現れやすく、また、冷夏になりやすいです。よって、問題文(d)は、正しいです。
第58回気象予報士試験 学科

図18 第58回学科 専門知識8
(c)に関しては、「オホーツク海高気圧とは」の項目(特に図2)で述べたとおり、下層は低温・湿潤であり、上空のブロッキング高気圧の中心付近は高温となっています。よって、問題文(c)は、正しいです。
第56回気象予報士試験 学科

図19 第56回学科 専門知識10
(c)に関しては、図2及び図3~6を用いて述べたとおり、中心付近の寒気層は下層に限られます。よって、問題文(c)は、誤りです。
第51回気象予報士試験 学科

図20 第51回学科 専門知識7
(b)に関しては、図2及び図3~6を用いて述べたとおり、中心付近の寒気層は下層に限られます。よって、問題文(b)は、誤りです。
第46回気象予報士試験 学科

図21 第46回学科 専門知識8
(c)に関しては、「オホーツク海高気圧とは」の項目(特に図2)で述べたとおり、下層は低温・湿潤です。よって、問題文(c)は、正しいです。
第42回気象予報士試験 学科

図22 第42回学科 専門知識15
(a)に関しては、図2を用いて述べた内容を考慮すると、空欄には“オホーツク海の海面”の語句が入ります。
(b)に関しては、図2及び図3~6を用いて述べた内容を考慮すると、空欄には“高温”の語句が入ります。
(c)に関しては、「だし」風は、日本海沿岸地域を中心に発生する局地風であり、主に山地から平野部へ、または河川に沿った谷の出口から平野に向かって吹き出す風を指します。代表的な例としては、山形県の「清川だし」や新潟県の「荒川だし」が知られています。
これらの「だし」風は、オホーツク海高気圧や三陸沖に高気圧が存在する際に、下層に蓄積された冷たい空気が東寄りの風となって山を越え、吹き降りることで発生します。さらに、「だし」風の発生や強化には、前述の地形条件に加え、上空に気温の逆転層が存在することも関係します。すなわち、逆転層を伴った空気が山を越える際、上空の暖気と下層の寒気の境界にあたる逆転層が波動を生じ(波を打ち)、その結果として風速が一層強められます。
以上のことから、空欄には“低温で逆転層が”の語句が入ります。なお、逆転層については、豆知識18の図12~14をご覧いただけると幸いです。
第40回気象予報士試験 学科

図23 第40回学科 専門知識15
(d)に関しては、「オホーツク海高気圧とは」の項目で述べた内容を考慮すると、空欄には“オホーツク海”の語句が入ります。
第37回気象予報士試験 学科

図24 第37回学科 専門知識15
(d)に関しては、「オホーツク海高気圧とは」「高気圧の持続性について」の項目で述べたとおり、設問の条件では、オホーツク海高気圧が現れやすく、また、冷夏になりやすいです。よって、問題文(d)は、誤りです。
第22回気象予報士試験 学科

図25 第22回学科 専門知識15
(a)に関しては、「オホーツク海高気圧とは」の項目で述べたとおり、設問の条件では、オホーツク海高気圧が現れやすいです。よって、問題文(a)は、正しいです。
第9回気象予報士試験 学科

図26 第9回学科 専門知識8
(c)に関しては、図2及び図3~6を用いて述べたとおり、下層は冷たく、中上層では暖かいです。よって、問題文(c)は、正しいです。
さいごに
今回の豆知識で述べたとおり、オホーツク海高気圧については、「上・中層を中心とした背の高い、温暖高気圧」「下層を中心とした、冷涼で湿潤な寒冷高気圧」「上空の偏西風(等高度線)の蛇行に伴うブロッキングが発達に関与」など、着目する高度や気象要素によって、様々な顔を持ちます。
ちなみに、ブロッキング現象に関しては、発生のタイミングや場所を正確に予測するのが難しく、なぜこの現象が起こるのかについても、いまだ十分には解明されていません。今後の研究の進展が期待されます。
次回は、移動性高気圧を取り上げる予定です。
今回の豆知識で参考にした図書等
●浅井冨雄,内田英治,河村 武 監修(1999)増補 気象の事典,平凡社
●新井直樹,瀬之口 敦 (2011) 気象情報の見える化の試み-気象情報可視化ツール Wvisの開発と可視化事例-,天気58: 835-839
●安斎政雄(1998) 新・天気予報の手引(改訂29版),日本気象協会
●気象庁のwebサイト
●下山紀夫(2023) 気象予報のための天気図のみかた(増補改訂新装版),東京堂出版
●中島俊夫(2022)イラスト図解 よくわかる気象学 実技編,ナツメ社
●中村 尚(2003)オホーツクの冷たい海と大気循環変動,天気50: 516-526
●中村 尚,深町知宏(2005)オホーツク海高気圧の成因と予測への鍵,天気52: 591-598
●中村 昇(2023)気候変動とブロッキング現象,日本物理学会誌78: 516-524
●長谷川隆司,上田 文夫,柿本 太三(2006)気象衛星画像の見方と使い方,オーム社
●福地 章(2023)よくわかる高層気象の知識(2訂版),成山堂書店
●藤川典久(2013) 停滞性の高低気圧及び前線の特徴と形成メカニズム,平成24年度季節予報研修テキスト「季節予報作業指針」, 気象庁地球環境・海洋部, 41-82
●古川武彦,酒井重典(2004) アンサンブル予報,東京堂出版
●米国環境予測センター(NCEP)と米国大気研究センター(NCAR)で開発・提供されている大気再解析データ(Kalnay et al., 1996; Kistler et al., 2001)

