はじめに
豆知識24において、「地上天気図上では周囲よりも気圧が高く、閉じた等圧線で囲まれたところには高気圧が解析され、中心位置を×マークで示し、“ 高 ”の文字を記載すること」を述べました。
ただし、一口に高気圧と言っても、その種類は、成因(発生する原因)や構造(例えば背の高さ)などから、いくつかに分けることができます。
今回の豆知識では、その中から寒冷高気圧(シベリア高気圧)を取り上げます。また、この高気圧に関係する、気象予報士試験の問題も紹介します。
寒冷高気圧とは
ある水平面(高度)の気圧とは、その面から上の空気の重さのことでしたね(豆知識2)。そのことを念頭に、図1を用いて、寒冷高気圧について考えてみます。冬季に晴れて風が弱い夜間などは、地表面から熱が放出され(①)、地表面付近の空気が冷やされます(放射冷却)。

図1 寒冷高気圧のイメージ図
この放射冷却によって、地表面付近(対流圏の下層)に、冷やされた寒冷な空気がたまります(②)。この寒冷な空気は、温暖な空気より重いので、寒気が蓄積された部分は他の区域に比べて気圧が高くなります(③)。このようにしてできた高気圧は、中心付近の温度が低く、寒冷高気圧と呼ばれます。
寒冷高気圧は、その成因が対流圏の下層にあります。このため、形成される高度は、地上から2~3kmまでです。高気圧としては背が低いのが特徴で、「背の低い高気圧」とも呼ばれます。
シベリア高気圧(寒冷高気圧)
出現する背景や事例
寒冷高気圧の代表例が、シベリア高気圧(大陸高気圧)です。シベリア高気圧は、寒候期にモンゴル北部からシベリア付近で発達し、11月から2月にかけてその勢力を最も強める高気圧です。
この高気圧は、大陸の冷却で生じた冷たく乾燥した大陸性寒気団や北極方面から南下した寒気団が、チベット高原やヒマラヤ山脈にさえぎられて、たまったためにできる停滞性のある高気圧です。
シベリア高気圧を、実際の地上天気図で確認してみましょう。図2①、図3①、図4①をご覧ください。これは日本周辺域 地上天気図(豆知識24)です。対象が日本周辺域であることから、大陸から張り出すシベリア高気圧の全貌がわかりにくいですね。
そこで、図2②、図3②、図4②の、アジア太平洋域 地上天気図(豆知識25)の登場です。アジア太平洋域の天気図は、日本周辺域の天気図よりも対象範囲が広いため、シベリア高気圧の広がりがわかりやすいですね。


図2 2023年1月24日9時の日本周辺域 地上天気図(①)及びアジア太平洋域 地上天気図(②)
注)①、②は気象庁提供。②は一部を拡大して掲載。①、②において、注目する高気圧の中心が対象エリア内に示されている場合は、その位置に赤の矢印を記入。


図3 2023年1月1日9時の日本周辺域 地上天気図(①)及びアジア太平洋域 地上天気図(②)
注)①、②の注釈は、図2を参照。


図4 2022年2月4日9時の日本周辺域 地上天気図(①)及びアジア太平洋域 地上天気図(②)
注)①、②の注釈は、図2を参照。
高気圧の高さ
シベリア高気圧のような寒冷高気圧は、下層に形成されるため、500hPa(約5500m)や300hPa(約9000m)などの高さの高層天気図には、閉じた高気圧性の等圧線(等高度線)は描けません。
このことを、実際の天気図で確認してみましょう。図5①(地上天気図)をご覧ください。大陸から高気圧が張り出していますね。この地上における高気圧の中心位置(赤の矢印)に、図5②(500hPa天気図)と図5③(300hPa天気図)では、「H」の文字を記入しました。
図5②(500hPa天気図)と図5③(300hPa天気図)において、「H」の付近に閉じた高気圧性の等高度線は確認できません。つまり、この高気圧は、背が低いことが分かります。



図5 2025年2月17日9時のアジア太平洋域 地上天気図(①)、アジア500hPa天気図(②)、及びアジア300hPa天気図(③)
注)①~③は気象庁提供の天気図の一部を拡大して掲載。①において注目した地上高気圧の中心位置(赤の矢印)に、②と③では「H」の文字を記入した。
日本の天候に与える影響
シベリア高気圧から吹き出す風が、日本の冬を支配する北西の季節風です。つまり、西高東低の冬型の気圧配置が強まると、気圧の傾きが大きくなり、北西の季節風が強まります。海上は波が高くなり、しける所もあります。また、寒気が流れ込むことによって、日本列島の日本海側を中心に降雪がもたらされます(豆知識23)。
例えば、2025年2月17日~22日は大陸から高気圧が張り出し、冬型の気圧配置が続きました。このうち、2月19日、20日、21日の気象概況、地上天気図、及び850hPaの気温・風の状況をみてみましょう(図6~8)。
1.2025年2月19日(図6は9時の天気図)
・発達した低気圧が、日本のはるか東。一方、大陸から高気圧が張り出し、日本付近は、西高東低の冬型の気圧配置が続く。
・冬型の気圧配置の影響で気圧の傾きが大きくなり、西~北日本では、やや強い風や強い風が吹く。
・西~北日本は、日本海側を中心に曇りや雪、山間部で日降雪量50cm超の所も。


図6 2025年2月19日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)①:気象庁提供のアジア太平洋域 地上天気図の一部を拡大して掲載。注目する地上高気圧の中心位置に、赤の矢印を記入した。
②:欧州中期予報センターの数値予報モデルによる予測値(Windy.comのwebサイトより入手)。実線は等温線。気温の分布は、色を変えて表示。細く途切れた線は、風の流れを示す。①において注目した地上高気圧の中心位置に、②では「H」の文字を記入した。
2.2025年2月20日(図7は9時の天気図)
・大陸から高気圧が張り出し、日本付近は、冬型の気圧配置が続く。
・気圧の傾きが大きい状態が続いており、西~北日本ではやや強い風が吹く。
・西~北日本の日本海側は雪。


図7 2025年2月20日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)①、②の注釈は、図6を参照。
3.2025年2月21日(図8は9時の天気図)
・大陸から高気圧が張り出し、日本付近は、冬型の気圧配置が続く。
・全国的に風がやや強く、西~北日本の日本海側は寒気の影響で曇りや雪。特に、北陸や東北では大雪。


図8 2025年2月21日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)①、②の注釈は、図6を参照。
2月19日9時、20日9時、21日9時の地上天気図をみると(図6①、図7①、図8①)、ユーラシア大陸には発達したシベリア高気圧があります。また、対応する日時の850hPa 気温・風 予想図をみると(図6②、図7②、図8②)、シベリア高気圧の中心から東側が強い寒気で構成されています。
(ちなみに、この例のように、シベリア高気圧の中心と寒気の中心は、必ずしも同じ場所にあるわけではありません。このことは、シベリア高気圧の成因を、放射冷却だけで十分に説明できるとは限らないことを示唆しています。もしこの点に関心をお持ちでしたら、関連する研究や文献を調べられてはいかがでしょうか)
いずれにしても、図6~8に示すような気象条件下では、北よりの季節風と共に、シベリア方面からの寒気が日本列島にまで南下してきます。なお、寒気の南下に関しては、豆知識23で多くの事例を紹介しています。よろしければ、こちらも、ご覧いただけると幸いです。
気象予報士試験での出題例
過去の気象予報士試験において、寒冷高気圧(シベリア高気圧)に関する問題が出された例を、以下に紹介します。
第62回気象予報士試験 学科

図9 第62回学科 専門知識問10
(a)に関しては、図1を用いて述べたとおり、寒冷高気圧(シベリア高気圧)は、対流圏下層が寒冷な空気で満たされた背の低い高気圧です。よって、問題文(a)は、誤りです。
第58回気象予報士試験 学科

図10 第58回学科 専門知識問8
問題文(a)は、誤りです(第62回学科 専門知識問10の解説参照)。
第50回気象予報士試験 学科

図11 第50回学科 専門知識問8
問題文(a)は、誤りです(第62回学科 専門知識問10の解説参照)。
第46回気象予報士試験 学科

図12 第46回学科 専門知識問8
問題文(b)は、誤りです(第62回学科 専門知識問10の解説参照)。
第20回気象予報士試験 学科

図13 第20回学科 専門知識問7
問題文(a)は、誤りです(第62回学科 専門知識問10の解説参照)。
第11回気象予報士試験 学科

図14 第11回学科 専門知識問8
問題文(a)は、誤りです(第62回学科 専門知識問10の解説参照)。
第9回気象予報士試験 学科

図15 第9回学科 専門知識問8
問題文(a)は、誤りです(第62回学科 専門知識問10の解説参照)。
さいごに
今回は、背が低い高気圧である寒冷高気圧は、どうやってできるのか、お話しました。さらに、その 代表例として、シベリア高気圧(大陸高気圧)を紹介しました。
シベリア高気圧の中心は モンゴルからバイカル湖付近にあることが多いです。バイカル湖の位置については、図4②と図6②に青の矢印で記入してみました。ちなみに、バイカル湖は「世界で最も古い淡水湖の一つ」とされています。
今回取り上げたのは、背が低い高気圧。次回の豆知識では、背が高い高気圧を紹介する予定です。
今回の豆知識で参考にした図書等
●安斎政雄(1998) 新・天気予報の手引(改訂29版),日本気象協会
●岩槻秀明(2017) 気象学のキホンがよ~くわかる本(第3版),秀和システム
●小倉義光(1994) お天気の科学-気象災害から身を守るために-,森北出版
●気象庁のwebサイト
●気象業務支援センターのwebサイト
●高谷康太郎(2013)シベリア高気圧の長期変動と大気循環変動との関係,日本気象学会 長期予報研究連絡会資料
●高谷康太郎,中村 尚(2007)シベリア高気圧の活動とその長周期の変動について,低温科学65: 31-42
●東京大学 先端科学技術研究センター 気候変動科学分野 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 中村研究室のwebサイト(研究内容:冬の異常気象)
●中島俊夫(2022)イラスト図解 よくわかる気象学 実技編,ナツメ社
●新田 尚,立平良三(2004) 改訂版 最新 天気予報の技術,東京堂出版
●Windy.comのwebサイト
