はじめに
前回の豆知識5では、地上と上空の風の違いを「実際の高層天気図」を使って調べました。次回以降の「豆知識」では、風と天気との関係を紹介していく予定です。その準備として今回は、気象現象のスケール(規模、大きさ)について、考えてみます。
緯度と経度について
気象現象のスケールを考える前に、その現象の位置を示す緯度・経度を理解することが大切です。図1をご覧ください。この図は、同じ緯度差の距離(A, B)、同じ経度差の距離(a, b, c, d)を模式的に示したものです。地球上どこであっても、緯度1度あたりの距離(同じ緯度差に相当する距離)は、同じです(図1:A=B)。一方、経度1度あたりの距離(同じ経度差に相当する距離)は、赤道から北極に近づくにつれ短くなります(図1:a>b>c>d)。

図1 同じ緯度差の距離(A, B)、同じ経度差の距離(a,b,c,d)の模式図
このため、地図上で2地点間の距離を知りたい場合、「経度差」ではなく「緯度差」に注目しましょう。地球の一周の長さは、4万kmです。よって、緯度1度あたりの距離は111km(40,000÷360)となります。緯度差10度であれば、その距離は1111kmとなります。
天気図を描く図法や天気図上での距離
天気図(地図)に用いられる図法
球体である地球を平らな地図上に表現には、様々な手法(図法)がありますね。このうち、風向きのような方向を表すことが重要な天気図では、正角図法がよく用いられます。
例えば、気象庁の地上実況天気図(図2)では、この図法の一種であるポーラーステレオ図法(極心平射図法)が用いられています。

図2 気象庁の地上実況天気図(2024年5月19日9時,特定の2地点間に距離を加筆)
天気図上での距離
前述のとおり、緯度10度あたりの距離は、地球上どこでも1111kmです。つまり、図2において北緯20~30度(赤で示した幅)、北緯30~40度(緑で示した幅)、北緯40~50度(青で示した幅)の距離は、いずれも1111kmです。
ここで、図2を改めてよく見ると、天気図上での長さは、赤の幅>緑の幅>青の幅、の順になっていることに気付かれるでしょう。これは、前述のポーラーステレオ図法の特徴の一つです。天気図上から低気圧の移動距離を求める、あるいは気象現象のスケールを推定する等の際は、この点に注意が必要です。
ちなみに、緯度10度あたりの距離は、1111kmであると同時に、600海里に相当します。この単位については、豆知識4の中の図4を参照してください。
気象現象のスケール
水平スケールと時間スケール
気象現象には、様々な水平スケール(規模、大きさ)のものが存在します。まずは身近な例として、雲の大きさを考えてみましょう。図3は、晴れた空にぽっかり浮かぶ積雲。図4は、空を暗く覆いながら迫りつつある積乱雲。両者を比較すると、積乱雲のスケールが大きいと言えます。

図3 積雲(著者撮影)

図4 積乱雲(著者撮影)
次に、もっとスケールが大きい気象現象として、梅雨前線を取り上げます。例として、2020年7月6日12時の地上天気図を見ると、梅雨前線が東西に長くのびています(図5)。気象衛星画像(赤外画像)では、梅雨前線付近の広い範囲で、帯状の雲が確認できます(図6)。

図5 2020年7月6日12時の地上実況天気図(気象庁)

図6 2020年7月6日12時の気象衛星赤外画像
画像は高知大学気象情報頁 (http://weather.is.kochi-u.ac.jp/)による。
注)赤外画像では、雲頂高度が高い雲ほど白く見える。
冬に寒波をもたらす気象現象も、広範囲に影響を及ぼします。例として、2016年1月25日12時の地上天気図を見ると、日本列島は、広く西高東低の冬型の気圧配置となっています(図7)。気象衛星画像(可視画像)では、強い寒気の吹き出しにより、日本海を筋状の雲が覆っていることに加え、日本列島を越えた太平洋上でも筋状の雲が広がっています(図8)。

図7 2016年1月25日12時の地上実況天気図(気象庁)

図8 2016年1月25日12時の気象衛星可視画像
画像は高知大学気象情報頁 (http://weather.is.kochi-u.ac.jp/) による。
注)可視画像では、厚い雲ほど白く見える。
既に述べたとおり、緯度10度あたりの距離は1111kmです(図2)。よって、今回紹介した梅雨前線(図5)や、冬型の気圧配置(図7)に関連する気象現象のスケールは、優に2000kmを超えていることがわかりますね。
気象のような幅広い現象では、厳密に水平スケールを定義することは困難です。そこで「積雲や雷雲のように孤立した現象であれば、その水平サイズ」「高・低気圧のように現象が相互に並んでいる場合には、両者の間の距離」などを考慮して、個々の現象に即した定義が与えられます。
そのうえで、水平スケールは、その距離が2km以下の小規模(ミクロスケール)、2~2000kmの中規模(メソスケール)、2000km以上の大規模(マクロスケール)に分けられています。
中規模はさらにメソγ(2~20km)、メソβ(20~200km)、メソα(200~2000km)のスケールに細分されます。
また、大規模は、2000~数千kmの総観規模(シノプティックスケール)、数千km以上の惑星規模(プラネタリースケール)に細分されます。
時間スケールについては「発生から消滅までの寿命時間」「出現・強弱を繰り返す場合、その周期」「形や強さをあまり変えないで移動する現象では、通過に要する時間」などを考慮して、個々の現象に即した定義が与えられています。
水平スケールと時間スケールとの関係
代表的な気象現象について、水平スケールと時間スケールの関係を図9に示します。竜巻は、100m単位の狭い範囲で、分単位の短い時間、影響を及ぼします。積乱雲1個は、数~10kmの規模で寿命は1時間程度ですが、発達した積乱雲が数十kmの範囲で集団を形成(組織化)すると、数時間~1日単位の集中豪雨をもたらします。台風の水平規模は数百~千km程度、移動性高気圧や低気圧の水平規模は3~5千km程度。両者の寿命は、条件によって大きく異なりますが、数日間から一週間程度です。
このように、一般的に、水平スケールの大きい気象現象ほど、時間スケールも長い傾向にあります。

図9 気象現象の水平スケールと時間スケールとの関係
おわりに
今回は、気象現象の規模(ミクロスケール、メソスケール、マクロスケール)を中心に、お話しました。マクロとミクロは一般的に使われている言葉ですが、”メソ”には、なじみがないかもしれません。これは、”中間”を表すギリシア語の接頭語です。
今後「メソスケールの気象現象」という言葉に出会った時は、今回の「豆知識6」を思い出していただければ幸いです。
今回の豆知識で参考にした図書等
・小倉義光(1999) 一般気象学(第2版),東京大学出版会
・気象庁のwebサイト
・高知大学のwebサイト(気象情報項)
・中島俊夫(2022)イラスト図解 よくわかる気象学 実技編,ナツメ社
・新田 尚,立平良三(2004) 改訂版 最新 天気予報の技術,東京堂出版