【豆知識5】気象庁とWindy.comの高層天気図を使って上空の風を調べる|各天気図によって等高度線の間隔が異なる点に注意

はじめに

 前々回の豆知識3では、

①850hPa、700hPa、500hPa、300hPa面の順に高度が高くなるにつれ、各等圧面の傾斜(北に向かう 傾き)が大きくなる
②高度が高くなるにつれ等圧面の傾きが大きくなるので、上空ほど風は強くなる。
温帯では、熱帯や寒帯と比べて南北方向の気温傾度(気圧傾度)が大きく西風が強くなる。
ことを図解しました。

 今回は、この①~③を、実際の高層天気図(2024年4月28日21時)を使って確かめてみましょう。

気象庁の高層実況天気図を使って風の吹き方を確認する

今回取り上げる天気図の高度

 気象図は、立体的に見ることが大切です。多くの場合、複雑な地上天気図に比べ、上層の天気図は単純化された流れを表します。そこで、「上層から見ていくと、複雑な様相を呈している下層の状況のしわけが頭の中でできるようになる」とされています。

 そこで、気象庁が作成した高層実況天気図として300hPa天気図(図1)、500hPa天気図(図2)、700hPa天気図(図3)、850hPa天気図(図4)を高い高度から順に示します。参考として、地上天気図(図5)も示します。各図の原図は、モノクロです。赤や黄色の文字や矢印は、私が書き加えました。

 各図には、高度、風、気温、湿り具合等のいろいろな情報が盛り込まれています。今回は、高度と風に絞って、お話します。なお、「豆知識2」で述べたとおり、「等圧面上の等高度線」と「等高度面上の等圧線」は、同じ意味で捉えてください。

図1 300hPa(高度約9000m)高層実況天気図(気象庁,2024年4月28日21時)

図2 500hPa(高度約5500m)高層実況天気図(気象庁,2024年4月28日21時)

図3 700hPa(高度約3000m)高層実況天気図(気象庁,2024年4月28日21時)

図4 850hPa(高度約1500m)高層実況天気図(気象庁,2024年4月28日21時)

図5 地上実況天気図(気象庁,2024年4月28日21時)

各高度の天気図(気象庁)を見て確認できること

 図1~5を見て、「はじめに」の項で述べた①~③を確認してみましょう。

①上空ほど、等圧面の傾きが大きい

 300hPa高層実況天気図では、等高度線は120m間隔で記載されています。一方、500hPa、700hPa、850hPaの天気図では60m間隔で記載されています(ちなみに、地上天気図では、等高度線ではなく等圧線が4hPa間隔で記載)。

 この点を頭に入れて、まず、300hPa天気図(図1)の等高度線の値を読み取ってみましょう。等高度線の最大値は図の下側(南側)の9720m、最小値は図の上側(北側)の8640mですね。つまり、この図は北側が南側に比べ1080m低いことから(表1)、その高度差の分、北に向かって傾いている(低くなっている)状況がイメージできると思います。

 次に500hPa天気図(図2)では、等高度線の最大値は5900m、最小値は5220mであり、その差は680m(表1)。以下、同じように、700hPa(図3)、850hPa(図4)の数値も読み取りました(表1)。この表から、上空ほど、各等圧面の南北方向の高度差が大きい、すなわち傾きが大きことが確認できます。

②等圧面の傾きに対応して、上空ほど風は強くなる

 上空ほど等圧面の傾きが多いということは、上空ほど風が強くなることを意味します。実際に図1~4の風速を読み取ってみましょう(矢羽根による風速表示は、豆知識4を参照)。例えば、北海道付近に注目すると、各等圧面の最大値は、300hPa天気図(図1)では約130kt500hPa(図2)では約85kt700hPa(図3)では約45kt850hPa(図4)では約25kt地上(図5)では約10ktとなっています。

 このことから、等圧面の傾きに対応して、上空ほど風が強いことが確認できます。

③温帯では、熱帯や寒帯と比べ、南北方向の気温傾度(気圧傾度)が大きく西風が強くなる

 まず、300hPa天気図(図1)をご覧ください。温帯(中緯度地帯)に位置する日本、特に北日本で等高度線の間隔が狭く、強い西風が吹いています。同様に、500hPa(図2)、700hPa(図3)、850hPa(図4)においても、温帯(中緯度地帯)では、熱帯(低緯度地帯)や寒帯(高緯度地帯)と比べ、強い西風が吹いていることが確認できます。

Windy.comの高層天気図を使って風の吹き方を確認する

風速の表現方法について

 Windy.comのwebサイトでは、風速0~60ktに対応する配色が画面右下に示されます(図6右下の黄色枠で囲ったところ,クリックで単位の切り替え可能)。

 また、実際のwebサイト画面上で、マップの任意の地点をクリックすると、その地点の風速が表示されます。図6は、そうやって各地点の風速を調べ、私が書き込んだものです。この図には、60kt以上の各風速に対応する色も示されています。

 この後に紹介する図の中にも、60kt以上の風速が登場するので、図6の「各風速と配色の関係」を頭に入れておきましょう。

図6 Windy.comのwebサイトにおける各風速と配色の関係
注)2024年4月14日9時の予想図の中から抜粋して作図

今回取り上げる天気図の高度

 以下にWindy.comのwebサイトより入手した、各等圧面の高度・風の予想図(欧州中期予報センターのモデルを使用)を紹介します。すなわち、300hPa(図7)、400hPa(図8)、500hPa(図9)、600hPa(図10)、700hPa(図11)、800hPa(図12)、900hPa(図13)面の高度・風の予想図を、高い高度から順に示します。参考として、地上の気圧・風の予想図(図14)も示します。

図7  300hPa(高度約9000m)高度・風 予想図(欧州中期予報センターのモデルを使用,Windy.comのwebサイトより入手)
注)2024年4月28日21時の予想図(4月28日9時を初期値とした数値予報モデルによる12時間後の予測値)。

図8  400hPa(高度約7000m)高度・風 予想図(欧州中期予報センターのモデルを使用,Windy.comのwebサイトより入手)
注)予想年月日・時刻は、図7の注釈と同じ。

図9  500hPa(高度約5500m)高度・風 予想図(欧州中期予報センターのモデルを使用,Windy.comのwebサイトより入手)
注)予想年月日・時刻は、図7の注釈と同じ。

図10  600hPa(高度約4200m)高度・風 予想図(欧州中期予報センターのモデルを使用,Windy.comのwebサイトより入手)
注)予想年月日・時刻は、図7の注釈と同じ。

図11  700hPa(高度約3000m)高度・風 予想図(欧州中期予報センターのモデルを使用,Windy.comのwebサイトより入手)
注)予想年月日・時刻は、図7の注釈と同じ。

図12  800hPa(高度約2000m)高度・風 予想図(欧州中期予報センターのモデルを使用,Windy.comのwebサイトより入手)
注)予想年月日・時刻は、図7の注釈と同じ。

図13  900hPa(高度約900m)高度・風 予想図(欧州中期予報センターのモデルを使用,Windy.comのwebサイトより入手)
注)予想年月日・時刻は、図7の注釈と同じ。

図14  地上の気圧・風 予想図(欧州中期予報センターのモデルを使用,Windy.comのwebサイトより入手)
注)予想年月日・時刻は、図7の注釈と同じ。

各高度の天気図(Windy.com)を見て確認できること

 図7~14を見て、「はじめに」の項で述べた①~③を確認してみましょう。先ほど、気象庁の図1~5を用いて行った内容と、重複するところがあります。しかし、今度はWindy.comの天気図を用いて、さらに細かく高度を分けて、①~③を確認します。

①上空ほど、等圧面の傾きが大きい

 各等圧面の高度・風予想図における等高度線の間隔は、図7(300hPa)が71m、図8(400hPa)が58m、図9(500hPa)が48m、図10(600hPa)が42m、図11(700hPa)が37m、図12(800hPa)が34m、図13(900hPa)が31mとなっています(ちなみに、図14の地上予想図では、等圧線の間隔が2hPaとなっている)。なお、Windy.comの高層天気図における等高度線の間隔は、対象日時によって若干異なります。

 この点を頭に入れて、まず、300hPa(図7)の等高度線の値を読み取ってみましょう。等高度線の最大値は図の下側(南側)の9727m、最小値は図の上側(北側)の8662mですね。つまり、この図は北側が南側に比べ1065m低いことから(表2)、その高度差の分、北に向かって傾いている(低くなっている)状況がイメージできると思います。

 次に400hPa(図8)では、等高度線の最大値は7656m、最小値は6786mであり、その差は870m(表2)。以下、同じように、500hPa(図9)、600hPa(図10)、700hPa(図11)、800hPa(図12)、900hPa(図13)の数値を読み取りも読み取りました(表2)。この表から、「上空ほど各等圧面の南北方向の高度差が大きい、すなわち傾きが大きいこと」が、Windy.comの高層天気図からも確認できます。

②等圧面の傾きに対応して、上空ほど風は強くなる

 実際に図7~15の風速を読み取ってみましょう(各風速と配色の関係は、図6を参照)。例えば、北海道付近に注目すると、各等圧面の最大値は、300hPa(図7)では100kt以上400hPa(図8)では80~100kt500hPa(図9)では70~80kt600hPa(図10)及び700hPa(図11)では50~60kt800hPa(図12)では30~40kt900hPa(図13)では20~30kt地上(図14)では10~20ktとなっています。

 このことから、「等圧面の傾きに対応して、上空ほど風が強いこと」が、Windy.comの高層天気図からも確認できます。

③温帯では、熱帯や寒帯と比べ、南北方向の気温傾度(気圧傾度)が大きく西風が強くなる

 まず、300hPa(図7)をご覧ください。温帯(中緯度地帯)に位置する日本、特に北日本で等高度線の間隔が狭く、強い西風が吹いています。

 同様に、400hPa(図8)~900hPa(図13)においても、「温帯(中緯度地帯)では、熱帯(低緯度地帯)や寒帯(高緯度地帯)と比べ、強い西風が吹いていること」が、Windy.comの高層天気図からも確認できます。

おわりに

 今回は、2024年4月28日21時の事例を対象とし、気象庁の300hPa、500hPa、700hPa、850hPa天気図、Windy.com の300hPa、400hPa、500hPa、600hPa、700hPa、800hPa、900hPa天気図を紹介しました。
 この事例を通して、①上空ほど、等圧面の傾きが大きい ②等圧面の傾きに対応して、上空ほど風は強くなる ③温帯では、熱帯や寒帯と比べ、南北方向の気温傾度(気圧傾度)が大きく西風が強くなること。これらを、実感していただければ幸いです。

今回の豆知識で参考にした図書等

・安斎政雄(1998) 新・天気予報の手引(改訂29版),日本気象協会
・気象庁のwebサイト
・中島俊夫(2022)イラスト図解 よくわかる気象学 実技編,ナツメ社
・新田 尚,土屋 喬,成瀬秀夫,稲葉征男(2002) 気象予報士試験 実技演習,オーム社
・Windy.comのwebサイト

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