【豆知識4】風向に関しては、なぜ東北風と呼ばずに北東風と呼ぶの?|風速の単位 “ノット” って何?|風向と風速について解説します

 前回の豆知識3では、「地上と上空で、風の向きや強さが異なる仕組み」を考えてみました。今後、異なる高度の実際の気象図を用いて、風の吹き方を具体的に見ていきたいと思います。その準備として今回は、風向や風速が、各種気象図ではどのように表現(呼び方、図示の方法等)されているのかを紹介します。

風向について

 風向とは、風の吹いて行く方向ではなく、風が吹いて来る方向をいいます。それは風の性質が、行く方向ではなく、来る方向によって決まるからです。例えば、冬に肌を刺すような冷たい北風は、寒い北(ユーラシア大陸)から吹いてきますね。

 風向を4方位で表す場合は、東西南北をそのまま用います。4方位から中間を含め、8方位をつくるには、現在では西欧語方式で、南北を優先して先につけます。つまり、北東・南東・南西・北西です。余談ですが、20世紀初頭まで、日本では中国語式に準じて東西を南北に優先させて、8方位をつくっていました。“東北地方”、早稲田の校歌に出てくる“都の西北”などの言葉は、当時の呼び方が、そのまま定着したものです。いずれにしろ、現在の気象・気候の分野では、西欧語式呼称が受け入れられ、風向には北東(NE)北西(NW)を使います。

 8方位から16方位をつくるときは、東西南北を優先して頭につけます。つまり、北と北東の中間は北を優先して北北東と呼びます。北東と東の中間は東を優先し、東北東です(図1)。風向は、36方位(番号)で表すこともあります。

図1 風向の表示(16方位)

 なお、上層風の観測では、風向は北から時計回りの360度方位で表現します(図2)。例えば、気象庁は、高層気象観測データをwebサイトで公開しています。この中で、風向は角度で表示されており、例えば180°が南風270°が西風に相当します(図2)。

図2 風向の表示(360度方位の一部を記載)

 もう少し具体的にみてみましょう。図3は、福岡における2023年7月8日9時(上図)、2024年1月21日9時(下図)の高層気象観測データの中から一部を抜粋したものです。風向に注目すると、7月8日は主に南西風、1月21日は、下層は北風、それより上層では北西あるいは西寄りの風が吹いていることがわかります。

図3 高層気象観測データの例(気象庁)
注)2023年7月8日9時(上図)、2024年1月21日9時(下図)。

風速(風の強さ)について

瞬間風速と風速

 風速はたえず変化するので、瞬間値と10 分間の平均値で表します。
 気象庁では、瞬間風速を、風速計の測定値(0.25秒間隔)を、3秒間平均した値(測定値12個の平均値)と定義しています。最大瞬間風速は、瞬間風速の最大値です。風速とは、10分間平均風速を指し、最大風速は10分間平均風速の最大値です。

風速の単位

 風速は通常、秒速(m/s)で表示します。台風の接近時に、テレビのニュースなどでは「中心付近の最大風速は40m/s」という表現が使われるので、この単位(秒速)は馴染み深いかと思います。なお気象庁では、風速が10m/s以上15m/s未満の風を「やや強い風」、風速が15m/s以上20m/s未満の風を「強い風」、風速が20m/s以上30m/s未満の風を「非常に強い風」、風速がおよそ30m/s以上、または最大瞬間風速が50m/s以上の風を「猛烈な風」と定義しています。

 国際的には、風速の単位としてノット(kt)が用いられる場合があります。このため気象庁の天気図にも、ノット表示がしばしば登場します。秒速(m/s)とノット(kt)との関係は、図4のとおり。例として、「秒速10(m/s)は、約20(kt)に換算できる」ことを、覚えておきましょう。この換算方法に従うと、前述の「中心付近の最大風速が40m/sの台風」は「中心付近の最大風速が約80ktの台風」と置き換えることも可能ですね。

図4 風速の単位の換算例(秒速10m/sを時速に換算する場合)

風向や風速の表示

矢羽根表示

 風向と風速は、天気図上では矢羽根という形で表現されます。風の強さについては、5ktで短い線が1つ(短矢羽根)10ktで長い線が1つ(長矢羽根)50ktで旗が1つ(旗矢羽根)記入されます。このような矢羽根の形や数で風速矢羽根のつく方向で風向を表します(図5)。

図5 風向・風速の矢羽根表示
注)青が矢羽根表示。赤の→は、後述する矢印表示。

 なお、図5には、天気記号の丸い円の外側に矢羽根(青色の部分)を書きました。しかし、例えば850hPa風・相当温位図(図6)のように、矢羽根だけが表示される場合があります。(風・相当温位図については、今後の豆知識で取り上げます)

図6  850hPa 風・相当温位図(気象庁)
注)2024年4月23日9時の予想図。風速はノット(kt)で表示。東シナ海上の1地点について、風向を書き込んだ。

矢印表示

 風向は、風が吹いていく方向に矢印を向けて表示する場合があります。この場合、北風は「↓」、南風は「↑」、東風は「←」、西風は「→」として表示されています。前述の矢羽根の向きとは、逆方向になる点に(図5)、ご注意ください。

 このような矢印表示では、多くの場合、風速は色の違いで表現されます。ここでは、二つの例を紹介します。まず、気象庁の地上の風向・風速(アメダスデータ)を図7に示します。西日本の4地点について風向を書き込みました。矢印は風の吹いて行く方向を示す一方で、風向は風が吹いて来る方向であることを(図5)、確認しましょう。なお、図7では風速(m/s)は、矢印の色の違いで表現されています。

図7 地上の風向・風速(アメダスデータ,気象庁)
注)2024年5月1日9時のデータ。風速は秒速(m/s)で表示。西日本の4地点について、風向を書き込んだ。

 次に、米国環境予測センター / 米国大気研究センター(NCEP/NCAR)の850hPaの風向・風速(再解析データ)を図8に示します。風向は、風が吹いていく方向に矢印を向けて表示されています(ベクトル表示)。東シナ海上の1地点に、「南西の風」と書き込みました。
 前に掲載した図6の東シナ海上の1地点にも「南西の風」と書き込んでいるので、両者を比べてみましょう。それぞれ同じ風向でありながら、ベクトルの向き(図8)と矢羽根の向き(図6)は、逆方向になることを確認しましょう。なお図8では、風速(m/s)を、マップ上の色の違いで表現しています。

図8 850hPaの風向・風速(NCEP/NCARの再解析データ)
注)2019年6月6日21時のデータ。風速は秒速(m/s)で表示。東シナ海上の1地点について、風向を書き込んだ。

流線表示

 風向・風速は流線表示(場合によってはアニメーション表示されることがあります。ここでは、二つの例を紹介します。

 まず、Windy.comのwebサイトより入手した、925hPa 風向・風速予想図(気象庁のメソモデル使用)を図9に示します。図9は静止画ですが、実際のwebサイト上では粒子アニメーションで表示され、風向や風速の細かい変化を直感的に把握することができます。また、風速(kt)は、マップ上に色でも表現されています。

図9  925hPa 風向・風速(気象庁のメソモデル,Windy.comのwebサイトより入手)
注)2019年5月4日21時の予測値。風速はノット(kt)で表示。日本海及び東シナ海上のそれぞれ1エリアについて、風向を書き込んだ。

 次に、気象情報可視化ツール Wvisより入手した、925hPa 風向・風速予想図(気象庁のメソモデル使用)を図10に示します。図10についても、今回は静止画を掲載していますが、アニメーション表示することが可能です。また、今回は、流線と矢印と組み合わせた表示画面を紹介します。この図の場合、流線によって風の流れ、矢印(矢印の向きと大きさ、色)によって風向・風速が表現されています。

図10  925hPa 風向・風速(気象庁のメソモデル,気象情報可視化ツール Wvisより入手)
注)2016年1月24日9時の予測値。風速はノット(kt)で表示。黄海及び東シナ海上のそれぞれ1エリアについて、風向を書き込んだ。

 なお、図9と図10の一部のエリアに、風向を書き込みました。図6~8の風向の図示方法との違いを比べてみましょう。

今回の豆知識で参考にした図書等

・新井直樹,瀬之口 敦 (2011) 気象情報の見える化の試み-気象情報可視化ツール Wvisの開発と可視化事例-,天気58: 835-839
・安斎政雄(1998) 新・天気予報の手引(改訂29版),日本気象協会
・気象庁のwebサイト
・中島俊夫(2022)イラスト図解 よくわかる気象学 実技編,ナツメ社
・西澤利栄(2005) 気候のフィールド調査法,古今書院
・米国環境予測センター(NCEP)と米国大気研究センター(NCAR)で開発・提供されている大気再解析データ(Kalnay et al., 1996; Kistler et al., 2001)
・Windy.comのwebサイト 

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