はじめに
今回の豆知識も、温度移流(暖気移流、寒気移流)がテーマです。前回は、「低気圧の前面の暖気移流、後面の寒気移流」という観点から9つの事例を紹介しました。
今回は、着眼点を少し変えて、「暖気(寒気)移流によって、前日と比べて気温が急上昇(下降)した19事例」を紹介します。
また、前回は、風が流線(粒子アニメーションの静止画)表示の気象図だけを用いました。今回は、風が矢羽根表示の気象図も使います。両者の気象図において、温度移流がどのように表現されているのか見比べてみましょう。
異なる気象図における温度移流の表現(1事例)
2024年5月8日の天気を、例にお話します。この日は、低気圧や前線が日本の東に遠ざかり、日本の上空(500hPa)に強い寒気が流入。北海道は雪の所も。最高気温は日本海側で平年を大きく下回りました。この日の9時の2種類の気象図を、図1(①と②)に示します。

図1 2024年5月8日9時の850hPa 気温・風 予想図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)①は、欧州中期予報センターの数値予報モデルによる予測値(Windy.comのwebサイトより入手)。②は気象庁提供。
①:実線は等温線。気温の分布は、色を変えて表示。細く途切れた線は、風の流れを示す。
②:太実線は、850hPaの等温線。矢羽根は、850hPaの風向と風速。網掛け域は700hPaの上昇流域、白い区域は700hPaの下降流域。
①、②:注目する温度移流のエリアを実線で囲った。
図①はWindy.comのwebサイトより入手した、850hPa 気温・風 予想図です。気温の分布は色を変えて表現され、等温線が実線で示されています。細く途切れた線は、風の流れを示します(実際のweb上では粒子アニメーションで表示)。
①では-5℃、-3℃、-1℃、1℃、3℃の等温線が日本海において、南西に向かって凸状になっています。さらに、北東の風がこれらの等温線と大きな角度で交差して吹いています(等温線を横切って吹く)。つまり、寒気移流が見られます。
図1②は、850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(気象庁)です。この図は、豆知識14で紹介しました。今回は850hPa 気温・風に注目します。太実線は850hPaの等温線、矢羽根は850hPaの風向と風速を示します。
②では、-6℃、0℃、3℃の等温線が日本海において、南西に向かって凸状になっています。さらに、矢羽根で表現されている北東の風は、これらの等温線と大きな角度で交差して吹いています。つまり、寒気移流が見られます。
図1①と②は、見た目の印象は異なりますが、同じように日本海の寒気移流が表現されていることがわかります。
ちなみに、風向・風速は、「矢羽根」「流線」以外に「矢印」で表現される場合もあります。これらの詳細は、豆知識4をご覧ください。
Windy.comの850hPa気象図での暖気移流・寒気移流(8事例)
さきほどは、2024年5月8日の温度移流について述べました(図1)。これから、それ以外で2024年に暖気(寒気)移流によって、前日と比べて気温が急上昇(下降)した8つの事例を、Windy.comの気象図(図1①)を使って紹介します。
豆知識20の図1では、模式図を使って、南から北への暖気移流、北から南への寒気移流を示しました。ただし、実際の温度移流は「南から北」「北から南」といった典型的なものばかりではありません。また、豆知識20では、温度移流は「等温線の間隔が密である」「風が等温線を横切る角度が90度に近い」ほど、大きくなると述べました。
以上のような、「温度移流の方向」「等温線の間隔」「風が等温線を横切る角度」にも注目して、以下の事例を見ていただければと思います。
2024年3月16日の暖気移流
3月16日は、高気圧に覆われ、広く晴れ(図2①)。西~東日本は、気温が上昇し5月上~中旬並の所もありました。
図2②は、3月16日21時の850hPa 気温・風 予想図です。7℃、5℃、3℃の等温線が西日本付近において、北東に向かってやや凸状になっています。さらに、南西の風がこれらの等温線と大きな角度で交差して吹いています。つまり、暖気移流が見られます。

図2 2024年3月16日21時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)①は気象庁提供。②は欧州中期予報センターの数値予報モデルによる予測値(Windy.comのwebサイトより入手)。
②:実線は等温線。気温の分布は、色を変えて表示。細く途切れた線は、風の流れを示す。注目する温度移流のエリアを実線で囲った。
2024年4月14日の暖気移流
4月14日は、西~北日本は、広く高気圧に覆われて晴れ(図3①)。最高気温は北海道で平年より15℃以上高く、7月下旬並の所もありました。
図3②は、4月14日9時の850hPaの気温と風です。11℃、9℃、7℃の等温線が北海道付近において、東に向かってやや凸状になっています。さらに、西よりの風がこれらの等温線と交差して吹いています。つまり、暖気移流が見られます。

図3 2024年4月14日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)図の注釈は図2参照。
2024年4月20日の暖気移流
4月20日は、黄海の低気圧からのびる前線が接近(図4①)。暖かい空気が流れ込み、広い範囲で気温が上昇。西日本を中心に、最高気温が6月下旬~7月上旬並の所もありました。
図4②は、4月20日9時の850hPaの気温と風です。13℃、11℃、9℃の等温線が九州付近において、北に向かって凸状になっています。さらに、南よりの風がこれらの等温線と大きな角度で交差して吹いています。つまり、暖気移流が見られます。

図4 2024年4月20日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)図の注釈は図2参照。
2024年5月16日の暖気移流と寒気移流
5月16日は、日本海の低気圧の影響で全国的に強風(図5①)。北日本の日本海側を中心に晴れて、気温が上昇。一方、西日本では、多くの地点で最高気温が平年より低くなりました。
図5②は、5月16日9時の850hPaの気温と風です。東日本(図②a)や日本の東においては15℃、13℃、11℃の等温線が、北に向かってやや凸状になっています。さらに、南よりの風がこれらの等温線と交差して吹いています。つまり、暖気移流が見られます。
一方、西日本(図②b)では3℃、5℃、7℃、9℃の等温線が、南に向かって凸状になっています。さらに、北よりの風がこれらの等温線と交差して吹いています。つまり、寒気移流が見られます。

図5 2024年5月16日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)図の注釈は図2参照。
2024年5月30日の寒気移流
5月30日、前日に本州付近を覆っていた高気圧は日本の東に進む(図6①)。北海道では、多くの地点で気温が平年より低くなりました。
図6②は、5月30日9時の850hPaの気温と風です。北海道付近において、北西の風が-1℃、1℃の等温線と、小さな角度ではありますが交差して吹いています。つまり、寒気移流が見られます。

図6 2024年5月30日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)図の注釈は図2参照。
2024年10月8日の寒気移流
10月8日は、その前日に本州付近に位置していた前線が、本州南岸まで南下して停滞(図7①)。冷涼な北東風が続いた関東甲信越地方は、前日よりも気温が下がり、日中でも20℃度未満で経過しました。
図7②は、10月8日9時の850hPaの気温と風です。北海道、日本海及び本州付近において、北よりの風が5℃、7℃、9℃、11℃の等温線と交差して吹いています。つまり、寒気移流が見られます。

図7 2024年10月8日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)図の注釈は図2参照。
2024年10月15日の暖気移流
10月15日は、日本の東を東へ移動する高気圧が、北~西日本に張り出し(図8①)、この高気圧の縁辺を回る下層暖湿気が九州付近に流れ込みました。その結果、10月中旬であるにもかかわらず、九州地方を中心に37地点で真夏日(最高気温30℃以上)を観測しました。
図8②は、10月15日9時の850hPaの気温と風です。15℃、13℃の等温線が西日本付近において、北東に向かって凸状になっています。さらに、南西の風がこれらの等温線と大きな角度で交差して吹いています。つまり、暖気移流が見られます。

図8 2024年10月15日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)図の注釈は図2参照。
2024年11月6日の寒気移流
11月6日は上空の強い寒気の影響で、日本海では大気の状態が不安定。オホーツク海には、低気圧が停滞(図9①)。最高気温は、多くの地点で、今シーズンで一番低い値を観測しました(2024年11月6日時点)。
図9②は、11月6日9時の850hPaの気温と風です。3℃、5℃、7℃の等温線が東シナ海、九州付近において、南に向かってやや凸状になっています。さらに、北よりの風がこれらの等温線と大きな角度で交差して吹いています。つまり、寒気移流が見られます。

図9 2024年11月6日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風 予想図(②)
注)図の注釈は図2参照。
気象庁の850hPa気象図での暖気移流・寒気移流(10事例)
さきほどは、2024年に見られた8つの温度移流の事例を、Windy.comの気象図(図1①)を使って紹介しました。これから、2022、23年に暖気(寒気)移流によって、前日と比べて気温が急上昇(下降)した10の事例を、気象庁の850hPa 気温・風解析図(図1②)を使って紹介します。
気象庁の図では、既に述べたとおり、風が矢羽根(豆知識4)で表現されています。この図で温度移流がどのように表現されるのか、多くの事例を通してイメージをつかんでいただければ幸いです。
2022年3月6日の寒気移流
3月6日の日本付近は、西高東低の冬型の気圧配置(図10①)。最高気温は前日に比べ大幅に下がり、全国の66地点で前日より10℃以上も低くなりました。
図10②は、3月6日9時の850hPaの気温と風です。-9℃、-6℃、-3℃、0℃の等温線が本州及びその南岸付近において、南東に向かってやや凸状になっています。さらに、北西の風がこれらの等温線と大きな角度で交差して吹いています。つまり、寒気移流が見られます。

図10 2022年3月6日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)①、②は気象庁提供。
②:太実線は、850hPaの等温線。矢羽根は、850hPaの風向と風速。網掛け域は700hPaの上昇流域、白い区域は700hPaの下降流域。注目する温度移流のエリアを実線で囲った。
2022年3月14日の暖気移流
3月14日は、日本海を低気圧が東進(図11①)。南寄りの風の影響で西~東日本を中心に、気温が上昇。多くの地点で、4月~5月並の最高気温になりました。
図11②は、3月14日21時の850hPaの気温と風です。本州付近において、南西の風が12℃、9℃、6℃の等温線と、小さな角度ではありますが交差して吹いています。つまり、暖気移流が見られます。

図11 2022年3月14日21時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図10参照。
2022年3月22日の寒気移流
3月22日は、前線を伴った低気圧が日本の南を通過(図12①)。最高気温は全国的に平年より低く、関東平野部でも雪が降るなど、冬の寒さに逆戻りしました。
図12②は、3月22日21時の850hPaの気温と風です。本州付近において北よりの風が、-6℃、-3℃、0℃、3℃の等温線と大きな角度で交差して吹いています。つまり、寒気移流が見られます。

図12 2022年3月22日21時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図10参照。
2022年4月29日の暖気移流
4月29日は、九州付近に低気圧(図13①)。南西からの暖かい風が吹いた沖縄県では、多くの地点で真夏日(最高気温30℃以上)となりました。
図13②は、4月29日9時の850hPaの気温と風です。18℃、15℃の等温線が南西諸島付近において、北東に向かってやや凸状になっています。さらに、南西の風がこれらの等温線と大きな角度で交差して吹いています。つまり、暖気移流が見られます。

図13 2022年4月29日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図10参照。
2022年4月30日の寒気移流
4月30日は、低気圧が日本の東に進む(図14①)。北日本では花冷えとなり、最低気温が3月中下旬並の所もありました。
図14②は、4月30日9時の850hPaの気温と風です。北日本、関東甲信越地方付近において、北よりの風が、-3℃、0℃、3℃の等温線と大きな角度で交差して吹いています。つまり、寒気移流が見られます。

図14 2022年4月30日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図10参照。
2022年10月5日の寒気移流
10月5日は、前線が西~東日本の南岸に停滞(図15①)。中国大陸から前線に向かって、下層寒気が流入。全国的に、気温が低下しました。
図15②は、10月5日9時の850hPaの気温と風です。北日本付近において、北西の風が、-3℃、0℃、3℃、6℃の等温線と交差して吹いています。つまり、寒気移流が見られます。

図15 2022年10月5日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図10参照。
2023年1月12日の暖気移流
1月12日、西~北日本は、日本の南の高気圧に覆われる(図16①)。南西諸島や九州の西には、高気圧の縁を回る下層暖湿気が流入。気温が上昇し、西日本を中心に各地で、1月の最高気温の1位を更新しました(2023年1月12日時点)。
図16②は、1月12日9時の850hPaの気温と風です。西日本付近において、西よりの風が、6℃、3℃、0℃の等温線と大きな角度で交差して吹いています。つまり、暖気移流が見られます。

図16 2023年1月12日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図10参照。
2023年4月18日の暖気移流
4月18日は、日本の東に中心を持つ高気圧(図17①)の縁を回る南風が、九州付近に流入して気温が上昇。熊本県水俣では、この年全国初の真夏日(30℃以上)になりました。
図17②は、4月18日9時の850hPaの気温と風です。西日本付近において、南西の風が、15℃、12℃、9℃、6℃の等温線と大きな角度で交差して吹いています。つまり、暖気移流が見られます。

図17 2023年4月18日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図10参照。
2023年10月21日の寒気移流
10月21日、日本付近は、西高東低の冬型の気圧配置(図18①)。旭川では、初雪を観測しました。
図18②は、10月21日21時の850hPaの気温と風です。-6℃、-3℃、0℃、3℃の等温線が北海道、日本海、本州付近において、南に向かってやや凸状になっています。さらに、北西の風がこれらの等温線と交差して吹いています。つまり、寒気移流が見られます。

図18 2023年10月21日21時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図10参照。
2023年12月9日の暖気移流
12月9日は、本州の南と日本の東に中心を持つ高気圧が、西日本~東日本を覆う(図19①)。高気圧の縁に沿って暖かい空気が流入し、全国的に気温上昇。北海道などでは、12月の最高気温の1位を更新する地点もありました(2023年12月9日時点)。
図19②は、12月9日9時の850hPaの気温と風です。6℃、3℃、0℃の等温線が北海道、本州付近において、北に向かってやや凸状になっています。さらに、西又は南西の風がこれらの等温線と交差して吹いています。つまり、暖気移流が見られます。

図19 2023年12月9日9時の地上実況天気図(①)及び850hPa 気温・風、700hPa鉛直流解析図(②)
注)図の注釈は図10参照。
おわりに
暖気が流入すると気温が上がり、寒気が流入すると気温が下がる。このことは、当たり前と言えば、そうかもしれません。ただし、「暖気移流」「寒気移流」の強さ、影響を及ぼす範囲は様々です。
今回は、季節はずれの暖かさ(寒さ)をもたらした暖気移流(寒気移流)として、19の事例を紹介しました。これらの事例を通して、暖気移流、寒気移流にもいろいろなパターンがあることを、実感していだだければ幸いです。
次回のまめ知識では、「寒気移流と雪」をテーマにする予定です。
今回の豆知識で参考にした図書等
・気象庁のwebサイト
・中島俊夫(2022)イラスト図解 よくわかる気象学 実技編,ナツメ社
・新田 尚,稲葉征男,土屋 喬,二宮洸三,(2004)天気図の使い方と楽しみ方,オーム社
・Windy.comのwebサイト