【豆知識2】高度と気圧の関係を図解|高層天気図を立体的に見るために

高度(標高)と気圧の関係

 高層天気図を立体的に見るために、まずは高度と気圧の関係について、お話します。図1をご覧ください。この図では、東西南北は気にする必要ありません。皆さんの目の前に、山がそびえ立っているところをイメージしてください。ここで、山の山頂と平地の地表面の気圧を考えてみます。ある水平面(高度)の気圧とは、その面から上の空気の重さですので、気圧は上空ほど低くなります。つまり、山頂では、高度が地表面より高く、気圧は地表面より低くなります(図1)。

図1 山の山頂と地表面における高度と気圧の違い(イメージ図)

 このことを実験的に初めて証明したのは、パスカル(フランス人、1623-1662)です。今日では、圧力の単位にパスカルの名がつけられています。気象の分野では、パスカルの100倍のヘクトパスカル(hPa)を用いています。そうした方が、例えば「96000Paの台風」と呼ぶより、「960hPaの台風」と呼んだ方がスッキリしますね。

 大気の下層中を例にとると、高度が100m高くなるごとに、気圧は約10hPaずつ低下します。したがって、逆に大気中の気圧を測ると、その地点の高さが推定できます。このように、各地で高度と気圧は1対1の関係にあります。

代表的な高層天気図

 高層天気図のイメージを、図2を使って説明します。この図は北半球の温帯地域を、例えば東経135度線に沿って北から南に大気を切り、横から見た断面図と考えてください。図の左側が北緯50度(高緯度)、図の右側が北緯30度(低緯度)とします。そうすると、この図の水平距離(横軸の長さ)は、約2200kmとなります。一方、この図では、垂直距離(縦軸の長さ)は約11km(対流圏の平均的な厚さ)とします。また、地表面は水平と仮定します。

 図2に示す300hPa面(高度約9000m)、500hPa面(高度約5500m)、700hPa面(高度約3000m)、850hPa面(高度約1500m)の天気図が、代表的な高層天気図としてよく用いられます。ふだん目にする地上天気図には、等圧線が描かれていますね。一方、高層天気図では、世界共通の取り決めとして、500hPa面や700hPa面のように、気圧が同じ値となる高さを連ねた面(等圧面)に、等高度線を描きます。水平面上に描いた等圧線と同じく、等圧面上の等高度線によって、気圧の分布がわかります。

 このことを、図2の500hPa面を例に、考えてみましょう。500hPa面のA点は周囲より高度が低い、B点は周囲より高度が高いと仮定します。さらにA点の真下の地表面をa点、B点の真下の地表面をb点とし、「A-a」と「B-b」の層の気温が同じと仮定します。すると、「B-b」の層は「A-a」の層に比べて厚く、そのぶん空気が重くなります。このため、地上の気圧はb点がa点より高くなります(図2に加え、図1も参照してください)。

図2 代表的な高層天気図の高さ(イメージ図)

 また、同じ5500m面上にある「地表低圧部(a点)の上空α点」と「地表高圧部(b点)の上空β点」の気圧を比較すると、β点の方が高い(α点は500hPaより低く、β点は500hPaより高い)ことがわかります(図2)。次に、同じ500hPa面上にある「地表低圧部(a点)の上空A点」と「地表高圧部(b点)の上空B点」の高度を比較すると、B点の方が高いことがわかります(図2)。このように、等高度面上の気圧等圧面上の高度とは、1対1で対応しています。したがって、等圧面上の➀等高度線や➁高度の高い所・低い所は、それぞれ等高度面上の①等圧線や➁高気圧・低気圧と全く同じ概念で見ることができます。等高度線が混んだ所は、等圧線が混んだ所と同じように、風も強くなります。

 少し理屈っぽい話になりました。慣れない間は違和感があると思いますが、300hPa、500hPa、700hPa、850hPa面の高層天気図は、要するに、それぞれ高度約9000m、5500m、3000m、1500mの気象状態を表す図だと考えてください。

 ちなみに、図2をよく見ると、300hPa、500hPa、700hPa、850hPaのそれぞれの等圧面は、高度が高くなるにつれ、傾きが大きくなっていますね(500、700、850hPa面の小さな凹凸は、ここでは無視します)。傾きが大きくなる理由を述べます。低緯度帯では、高緯度帯よりも多くの太陽エネルギーが降りそそぎます。よって、低緯度にある空気は、同じ高度で高緯度にある空気より気温が高く、軽い(密度が小さい)。すなわち、850hPaの高度は、低緯度より高緯度の方が高い。以下、700hPa、500hPa、300hPaという等圧面を順次考えていくと、等圧面の傾斜はますます大きくなるのです。

 上空ほど等圧面の傾斜が大きくなることは、上空ほど風が強くなる原因となります。このことは、今後の、豆知識でお話したいと思います。

各等圧面天気図の特徴

 さきほど、300hPa、500hPa、700hPa、850hPa面の天気図が、代表的な高層天気図と述べました。それぞれの天気図の特徴は、以下のとおりです。

300hPa等圧面天気図(高度約9000m)

 この高さは対流圏上部にあたり、ジェット気流の状況などを見るのに適しています。

500hPa等圧面天気図(高度約5500m)

 地表面の気圧は、平均的に約1010hPaです。よって500hPa面は、大気圧が約半分になる所であり、また、対流圏の高さ(地上約11km)の半分の高さでもあります。したがって、500hPa面は大気の平均構造を代表するところであり、最もよく使われる高層天気図です。
 上層寒気の強さ、気圧の谷の移動や深まりから地上の低気圧の発生や発達の予報などに利用します。テレビの天気予報などで「高度約5500mに、寒気が入ってきました」と解説されることがありますね。あれは、500hPaの高層天気図における気温の情報を読み取ったものです。

700hPa等圧面天気図(高度約3000m)

 この高さは対流圏中層と下層の中間にあたり、一般に中層雲を形成する高さです。地上の降水現象を判断するのに使われます。すなわち、700hPaの湿潤域(湿度が高いところ)では雲が広がり、場合によっては、地上で降水を伴います。

850hPa等圧面天気図(高度約1500m)

 地上天気図における風や気温は、地表の局地的な影響をうけて、代表性をもっていない場合が多いです。この面は、その影響がほとんどなくなった最低の高さと考えてよいのです。そこで、地上天気図で解析の困難な前線の検出に、この面の等温線解析が役立ちます。また850hPa面は、下層の暖湿気の流入を監視するためにも利用されます。

今回のまめ知識で参考にした図書等

・小倉義光(1994) お天気の科学-気象災害から身を守るために-,森北出版株式会社
・安斎政雄(1998) 新・天気予報の手引(改訂29版),日本気象協会
・小倉義光(1999) 一般気象学(第2版),東京大学出版会

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