【豆知識13】700hPa天気図の湿潤域は、中・下層雲の広がりとほぼ一致|地上では雨が降る可能性

はじめに

 これまでの豆知識では、主に、上空の風や気温(暖気や寒気)を取り扱ってきました。ただし、降雨や降雪の予測にあたっては、空気の動き(風)気温だけでなく「その空気が湿っているかどうか」を知ることも重要です。空気の湿り具合を数値化する手法は、いろいろあります。
 今回は、その中から「湿度、露点温度、湿数」を取り上げます。そのうえで、空気の湿り具合を、700hPa天気図から読み取る手法を紹介します。

湿度、露点温度、湿数など

飽和水蒸気量

 一般に、空気には水蒸気が含まれていますが、空気が含むことができる水蒸気の量には限界があります。単位体積の空気が含むことのできる水蒸気量の上限を、飽和水蒸気量といいます。気温が上がると、飽和水蒸気量は急激に大きくなります(表1)。

相対湿度(湿度)

 相対湿度は、単に湿度とも呼びます。空気の湿り具合を%で表現する方法で、その数式は以下のとおりです。

湿度(%)=(空気に含まれている水蒸気量)/(そのときの気温の飽和水蒸気量)×100

 例えば気温が25℃の場合、飽和水蒸気量は22.8 (g/㎥)であり(表1)、空気に含まれている水蒸気量が11.4 (g/㎥) であれば、湿度は上記の数式によって50%ということになります。

露点温度

 気温が下がると飽和水蒸気量は小さくなり(表1)、空気中に含むことができる水蒸気の量が減ります。このため、湿った空気を冷却していくと、空気中に含むことができなくなった、あふれた分の水蒸気が水滴として現れます。
 このように、空気が湿度100%の飽和に達し、水滴ができ始める時の温度を露点温度といいます(図1)。図2は、グラスに水と氷を注いだ後、グラスの表面に水滴が現れた状態を撮影したものです。これは空気がグラスによって冷やされ、さきほど述べた理由によって起きた現象です。

図1 気温、飽和水蒸気量及び露点温度(模式図)

図2 グラスに水と氷を注いだ後、グラスの表面に水滴が現れた状態(筆者撮影)

湿数

 実際の気温と露点温度があまり離れていないと、空気を少し冷やしただけで、水滴ができ始めます。つまり、「気温と露点温度の差」が0に近いほど、空気は湿っていることになります。この「気温と露点温度の差(気温-露点温度)」を湿数といいます。

 850hPa(高度約1500 m)及び700hPa(高度約3000 m)の実況天気図(気象庁)では、湿数3℃未満の湿潤域が、網掛けで示されています。850hPaの湿潤域下層雲の広がり700hPaの湿潤域中・下層雲の広がりとほぼ一致します。

 なお、湿数3℃未満の領域は、気温によって少し変動するものの、おおよそ湿度80%以上の領域に相当します。

700hPa天気図における湿潤域について

 700hPa(高度約 3000m)の湿潤域は、低気圧や前線に伴う組織的な雲域を形成する中層雲や下層雲の広がりと対応しています。今回の豆知識では、700hPaの湿潤域に注目します。

 まずは具体的に、2024年4月10日9時の天気図をみてみましょう(図3)。地上天気図(①)をみると、千島近海には低気圧があって発達しながら北東へ進んでおり、前線が小笠原諸島付近にのびています。また、高気圧が日本海中部にあって、東へ移動しています。
 このときの700hPaの湿度を、②の700hPa 高度・湿度・風 予想図で確認してみましょう。湿度の分布は、色を変えて表示してあります。千島近海~小笠原諸島付近の前線に沿って、湿度約80%以上の湿潤域が帯状に分布しています。

 次に、700hPa高層実況天気図を、③に示します。この実況天気図の場合、点線の網掛け域が、湿数3℃未満の湿潤域に該当します。この図(③)も②と同様、千島近海~小笠原諸島付近の前線付近に帯状に湿潤域が見られます。
 さらに、500hPa 気温・700hPa 湿数 予想図(④)を紹介します。この図では、異なる高さ、つまり500hPa(約5500m)と700hPa(約3000m)の情報が、一つの天気図に集約されているので注意が必要です。今回は、700hPaの湿潤域の方に注目します。④の湿潤域(湿数3℃未満)は、細実線の網掛け域で表示されています。先ほどの、③の実況天気図とほぼ同じ位置に、湿潤域が解析されています。

図3  2024年4月10日9時の地上実況天気図(①)、700hPa 高度・湿度・風 予想図(②)、700hPa高層実況天気図(③)、及び500hPa 気温・700hPa 湿数 予想図(④)
注)①、③、④は気象庁提供。②は、欧州中期予報センターの数値予報モデルによる予測値(Windy.comのwebサイトより入手)。
②:実線は等高度線。細く途切れた線は、風の流れ。湿度の分布は、色を変えて表示。
③:実線は等高度線。破線は、等温線。点線の網掛け域は、湿数3℃未満の湿潤域。風向と風速は、矢羽根で表現。
④:太実線は、500hPaの等温線。細実線は、700hPaの等湿数線。細実線の網掛け域は、湿数3℃未満の湿潤域。
①~④:注目する低気圧の中心位置に、矢印を記入した。

温帯低気圧の発達期や最盛期の700hPaの湿潤域(5事例)

 豆知識9では、発達する温帯低気圧に見られる特徴として「低気圧の進行方向の前面(東側)では暖気が上昇しながら流入し、進行方向の後面(西側)で寒気が下降しながら流入している」ことを紹介しました。

 この特徴に、空気の湿り具合を加味すると、湿潤域暖気の上昇流域乾燥域寒気の下降流域に対応しているといえます。つまり、発達中の低気圧の場合、その前面では湿潤な暖気が上昇しながら流入し、後面では乾燥した寒気が下降しながら流入します。
 さらに低気圧が最盛期となって閉塞が始まる段階では、湿潤域は低気圧の北側にも、また乾燥域は低気圧の南側にも及ぶようになります。特に、乾燥(Dry)した空気の流入により形成される、低気圧の後面から中心付近に巻き込むような、細長い溝(Slot)状の領域のことを「ドライスロット(Dry Slot)」とよんでいます。

2024年3月6日9時(低気圧の発達期)、3月7日9時(低気圧の最盛期)

 発達中の低気圧における湿潤域を、2024年3月6日9時の天気図(図4)を例に確認してみましょう。地上天気図を見ると(①)、低気圧が日本の東にあり(中心は、矢印の位置)、発達しながら東北東進し、寒冷前線が沖縄の南へのびています。また、低気圧の中心から南東へ温暖前線がのびています。

 700hPaの湿度分布をみると(②)、低気圧の前面(東側)、すなわち三陸沖や関東の東において、湿潤域(高湿度域)が、顕著に現れています。
 また、低気圧の後面(西側)、すなわち日本海北部や中部において、乾燥域(低湿度域)が現れています。700hPaの湿数3℃未満の領域(湿潤域)や等湿度線の分布をみると(③)、湿度分布(②)と同様の傾向がみられます。

 次に最盛期の低気圧における湿潤域を、その翌日の2024年3月7日9時の天気図(図5)で確認します。地上天気図を見ると(①)、低気圧は日本のはるか東へと進みました(中心は、矢印の位置)。
 このときの700hPaの湿度(②)及び湿数(③)分布をみると、湿潤域は低気圧の北側にも、また乾燥域は低気圧の南側にも及んでいることが分かります。低気圧の南側には、ドライスロットも確認できます(②)。

図4  2024年3月6日9時の地上実況天気図(①)、700hPa 高度・湿度・風 予想図(②)、及び500hPa 気温・700hPa 湿数 予想図(③)
注)①と③は気象庁提供。②は、欧州中期予報センターの数値予報モデルによる予測値(Windy.comのwebサイトより入手)。
②:実線は等高度線。細く途切れた線は、風の流れ。湿度の分布は、色を変えて表示。
③:太実線は、500hPaの等温線。細実線は、700hPaの等湿数線。細実線の網掛け域は、湿数3℃未満の湿潤域。
①~③:注目する低気圧の中心位置に、矢印を記入した。

図5  2024年3月7日9時の地上実況天気図(①)、700hPa 高度・湿度・風 予想図(②)、及び500hPa 気温・700hPa 湿数 予想図(③)
注)①と③は気象庁提供。②は、欧州中期予報センターの数値予報モデルによる予測値(Windy.comのwebサイトより入手)。
②:実線は等高度線。細く途切れた線は、風の流れ。湿度の分布は、色を変えて表示。
③:太実線は、500hPaの等温線。細実線は、700hPaの等湿数線。細実線の網掛け域は、湿数3℃未満の湿潤域。
①~③:注目する低気圧の中心位置に、矢印を記入した。②:低気圧の中心付近に巻き込むように流入する乾燥域(ドライスロット)に、「D」と記入した。

 さらに、2024年3月12~13日(図6、7)、3月17~18日(図8、9)、6月21~22日(図10、11)、6月30日~7月1日(図12、13)の天気図も紹介します。これら場合も、発達期及び最盛期の低気圧における湿潤域や乾燥域の分布に関して、2024年3月6~7日の事例と同じ特徴を確認できます。

2024年3月12日9時(低気圧の発達期)、3月13日9時(低気圧の最盛期)

図6 2024年3月12日9時の地上実況天気図(①)、700hPa 高度・湿度・風 予想図(②)、及び500hPa 気温・700hPa 湿数 予想図(③)
注)図の注釈は図4参照。

図7 2024年3月13日9時の地上実況天気図(①)、700hPa 高度・湿度・風 予想図(②)、及び500hPa 気温・700hPa 湿数 予想図(③)
注)図の注釈は図5参照。

2024年3月17日9時(低気圧の発達期)、3月18日9時(低気圧の最盛期)

図8 2024年3月17日9時の地上実況天気図(①)、700hPa 高度・湿度・風 予想図(②)、及び500hPa 気温・700hPa 湿数 予想図(③)
注)図の注釈は図4参照。

図9 2024年3月18日9時の地上実況天気図(①)、700hPa 高度・湿度・風 予想図(②)、及び500hPa 気温・700hPa 湿数 予想図(③)
注)図の注釈は図5参照。

2024年6月21日9時(低気圧の発達期)、6月22日9時(低気圧の最盛期)

図10 2024年6月21日9時の地上実況天気図(①)、700hPa 高度・湿度・風 予想図(②)、及び500hPa 気温・700hPa 湿数 予想図(③)
注)図の注釈は図4参照。

図11  2024年6月22日9時の地上実況天気図(①)、700hPa 高度・湿度・風 予想図(②)、及び500hPa 気温・700hPa 湿数 予想図(③)
注)図の注釈は図5参照。

2024年6月30日21時(低気圧の発達期)、7月1日21時(低気圧の最盛期)

図12 2024年6月30日21時の地上実況天気図(①)、700hPa 高度・湿度・風 予想図(②)、及び500hPa 気温・700hPa 湿数 予想図(③)
注)図の注釈は図4参照。

図13  2024年7月1日21時の地上実況天気図(①)、700hPa 高度・湿度・風 予想図(②)、及び500hPa 気温・700hPa 湿数 予想図(③)
注)図の注釈は図5参照。

前線が停滞している時の700hPaの湿潤域(4事例)

 寒気団と暖気団の勢力がほぼ等しい場合、その境目の前線があまり動かずに停滞することがあります。春雨前線、梅雨前線、秋雨前線は、このような停滞前線に該当します。停滞前線の周辺では雨が降りやすく、ぐずついた天気が続く傾向にあります。

2024年4月6日9時

 それでは、地上天気図で停滞前線が解析されるときの700hPa天気図での湿潤域を、2024年4月6日9時(図14)の事例で確認してみましょう。この時の地上天気図では、前線が華南~南西諸島を通って日本の南にのびています(①)。
 このうち、日本の南付近の前線(①中に実線で囲んだ前線)の大まかな位置を、②と③に書き込みました。これらを比べると、前線付近では、700hPaの湿潤(②では高湿度、③では湿数3℃未満のエリア)が帯状に現れています。

図14 2024年4月6日9時の地上実況天気図(①)、700hPa 高度・湿度・風 予想図(②)、及び500hPa 気温・700hPa 湿数 予想図(③)
注)図の注釈は図4参照。ただし、図4では低気圧の中心位置に矢印を記入したが、図14の場合、①では注目する前線の位置を実線で囲い、②と③には、その前線の位置を書き込んだ。

 さらに、別の日時の事例も紹介します(図15~17)。これらの事例でも、前線付近では、700hPaの湿潤域が出現していることを確認できます。

2024年6月15日9時

図15 2024年6月15日9時の地上実況天気図(①)、700hPa 高度・湿度・風 予想図(②)、及び500hPa 気温・700hPa 湿数 予想図(③)
注)図の注釈は図14参照。

2024年6月28日9時

図16 2024年6月28日9時の地上実況天気図(①)、700hPa 高度・湿度・風 予想図(②)、及び500hPa 気温・700hPa 湿数 予想図(③)
注)図の注釈は図14参照。

2024年7月14日9時

図17 2024年7月14日9時の地上実況天気図(①)、700hPa 高度・湿度・風 予想図(②)、及び500hPa 気温・700hPa 湿数 予想図(③)
注)図の注釈は図14参照。

おわりに

 今回は、大気中の湿り具合を数値化する方法として、湿数(気温-露点温度)と相対湿度(湿度)を取り上げました。その中でも、700hPaの湿潤域として、湿数3℃未満あるいは湿度約80%以上のエリアに注目しました。空気の湿り具合は、降雨や降雪と密接な関わりがあります。
 今回の掲載した図の注釈に書き添えているとおり、700hPaの湿数3℃未満の情報は「気象庁」、700hPaの湿度の情報は「Windy.com」のwebサイト等で、それぞれ最新の天気図を確認することができます。興味がある方は、それらの図も参照されてはいかがでしょうか。

今回の豆知識で参考にした図書等

・岩槻秀明(2017) 気象学のキホンがよ~くわかる本(第3版),秀和システム
・小倉義光(1994) お天気の科学-気象災害から身を守るために-,森北出版
・小倉義光(1999) 一般気象学(第2版),東京大学出版会
・気象庁のwebサイト
・中島俊夫(2022)イラスト図解 よくわかる気象学 実技編,ナツメ社
・新田 尚,土屋 喬,成瀬秀雄,稲葉征男(2002)気象予報士試験 実技演習,オーム社
・Windy.comのwebサイト

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