【豆知識12】500hPa天気図でチェックする寒冷渦|実は地上の天気に大きな影響を及ぼします

はじめに

 前回の豆知識で少しお話したとおり、寒冷渦が接近すると、発達した対流雲による短時間強雨、落雷、突風、降雹などに警戒が必要となります。今回は、この寒冷渦の特徴を、もっと詳しくみてみましょう。

寒冷渦は寒気を伴い中心付近に渦がある(5つの事例紹介)

 寒冷渦は、その名のとおり寒気を伴い中心付近にはがあります。2024年3月25日21時(図1)、4月20日21時(図2)、5月16日9時(図3)、7月5日21時(図4)、8月12日21時(図5)の事例をみてみましょう。

 図1~5の②のとおり、上空の寒冷渦の中心付近は気温が低くなっています。なお、温帯地域の対流圏の平均的な高さは、約11kmです(豆知識2)。ただし、その高さは夏には高く、冬には低くなります。
 このようなことから、一般に、寒冷渦の上空寒気は500hPa天気図でモニタリングしますが(図1~4)、夏は300hPaの気温に注目することもあります。例えば、8月12日21時の天気図をみると、図5②のとおり、300hPaの気温は、寒冷渦の中心付近が低くなっています。

 寒冷渦には、低気圧性の循環(渦)があります。具体例としては、図1~5の③のとおりです。図1~5の水蒸気画像では、寒冷渦に対応する渦上構造をもつ明瞭な雲パターンを確認することができます(図5ではやや不明瞭)。

 通常、寒冷渦の東~南東側の下層では、暖湿気が流入して上昇流域となりやすく、対流活動が活発化しやすい傾向にあります。また、寒冷渦の中心付近上空の寒気によって大気の状態が不安定となり、対流雲が発達しやすくなります。

 寒冷渦は、温帯低気圧と異なり、前線を伴いません(図1~5の④)。また、寒冷渦は上空では低気圧が明瞭に現れても、地上では不明瞭なことがあります。図5の④のように、地上天気図には寒冷渦の痕跡すら現れない場合もあります。

2024年3月25日21時

図1  2024年3月25日21時の500hPa 高度・風 予想図(①)、500hPa 気温・風 予想図(②)、気象衛星による水蒸気画像(③)、及び地上実況天気図(④)
注)①と②は、欧州中期予報センターの数値予報モデルによる予測値(Windy.comのwebサイトより入手)。①と②の細く途切れた線は、風の流れを示す。①の実線は等高度線。風速(ノット)の分布は、色を変えて表示(詳細は、豆知識5の図6を参照)。①で注目する寒冷渦に、矢印を記入した。②の実線は、等温線。気温の分布は、色を変えて表示。③と④は、気象庁提供。

2024年4月20日21時

図2  2024年4月20日21時の500hPa 高度・風 予想図(①)、500hPa 気温・風 予想図(②)、気象衛星による水蒸気画像(③)、及び地上実況天気図(④)
注)図の注釈は図1参照。

2024年5月16日9時

図3  2024年5月16日9時の500hPa 高度・風 予想図(①)、500hPa 気温・風 予想図(②)、気象衛星による水蒸気画像(③)、及び地上実況天気図(④)
注)図の注釈は図1参照。

2024年7月2日21時

図4  2024年7月2日21時の500hPa 高度・風 予想図(①)、500hPa 気温・風 予想図(②)、気象衛星による水蒸気画像(③)、及び地上実況天気図(④)注)図の注釈は図1参照。

2024年8月12日21時

図5  2024年8月12日21時の300hPa 高度・風 予想図(①)、300hPa 気温・風 予想図(②)、気象衛星による水蒸気画像(③)、及び地上実況天気図(④)
注)①と②は300hPa面の予想図(図1~4の①と②は500hPa)。その他の図の注釈は図1を参照。

寒冷渦は動きが遅い(2つの事例紹介)

 寒冷渦は、切離低気圧とも呼ばれます(豆知識11の図1③)。寒冷渦の動きは遅く、持続性があります。その具体的として、2024年5月15~18日、及び2024年7月8~13日の寒冷渦の動きをみてみましょう。

2024年5月15日21時~5月18日9時

図6 2024年5月15日21時~5月18日9時の500hPa 高度・風 予想図(左)と500hPa 気温・風 予想図(右)
注)500hPa 高度・風 予想図(左)で注目する寒冷渦に、矢印を記入した。左右の図の注釈は、図1(①と②)の注釈を参照。

2024年7月8日9時~7月13日21時

図7 2024年7月8日9時時~7月13日21時の500hPa 高度・風 予想図(左)と500hPa 気温・風 予想図(右)
注)図の注釈は、図6を参照。

冬期の寒冷渦は大雪をもたらすことがある(13事例の紹介)

 既に述べたとおり、寒冷渦は、短時間強雨など激しい気象現象を引き起こします。この寒冷渦が冬期に出現する場合、日本海の暖かい海面の影響と相俟って大雪をもたらすことがあります。
 すなわち、寒冷渦がシベリア大陸から日本海に移動してくる時、地表面では北西の季節風が卓越します。この冷たい季節風の影響を受け、暖かい日本海の海上では、蒸発が盛んに起きます。この大量の水蒸気の補給を受けて積雲対流が発達し、この雲が雪をもたらします。

 それでは、大雪をもたらした例を、具体的にみてみましょう。図8(左)は、2003年1月5日9時の500hPa高層実況天気図です。注目する寒冷渦に、矢印を記入しました。図8(右)は、同時刻の地上実況天気図です。
 さらに、別の日時の12の事例も紹介します(図9~20)。これらの日時についても、寒冷渦が大雪をもたした事例であり、西日本でも積雪が見られました。

2003年1月5日9時

図8  2003年1月5日9時の500Pa高層実況天気図(左)と地上実況天気図(右)
注)気象庁提供。500hPa高層実況天気図(左)の実線は等高度線、破線は等温線。風向と風速は、矢羽根で表現。注目する寒冷渦に、矢印を記入した。

2003年1月29日9時

図9  2003年1月29日9時の500Pa高層実況天気図(左)と地上実況天気図(右)
注)図の注釈は、図8を参照。

2004年1月22日9時

図10  2004年1月22日9時の500Pa高層実況天気図(左)と地上実況天気図(右)
注)図の注釈は、図8を参照。

2005年12月21日21時

図11  2005年12月21日21時の500Pa高層実況天気図(左)と地上実況天気図(右)
注)図の注釈は、図8を参照。

2009年1月24日21時

図12  2009年1月24日21時の500Pa高層実況天気図(左)と地上実況天気図(右)
注)図の注釈は、図8を参照。

2010年1月13日9時

図13  2010年1月13日9時の500Pa高層実況天気図(左)と地上実況天気図(右)
注)図の注釈は、図8を参照。

2010年12月30日21時

図14  2010年12月30日21時の500Pa高層実況天気図(左)と地上実況天気図(右)
注)図の注釈は、図8を参照。

2018年2月11日21時

図15  2018年2月11日21時の500Pa高層実況天気図(左)と地上実況天気図(右)
注)図の注釈は、図8を参照。

2021年1月7日21時

図16  2021年1月7日21時の500Pa高層実況天気図(左)と地上実況天気図(右)
注)図の注釈は、図8を参照。

2021年2月18日9時

図17  2021年2月18日9時の500Pa高層実況天気図(左)と地上実況天気図(右)
注)図の注釈は、図8を参照。

2022年12月18日9時

図18  2022年12月18日9時の500Pa高層実況天気図(左)と地上実況天気図(右)
注)図の注釈は、図8を参照。

2023年1月24日21時

図19  2023年1月24日21時の500Pa高層実況天気図(左)と地上実況天気図(右)
注)図の注釈は、図8を参照。

2024年1月23日21時

図20  2024年1月23日21時の500Pa高層実況天気図(左)と地上実況天気図(右)
注)図の注釈は、図8を参照。

おわりに

 今回のまめ知識では、寒冷渦は「①上空に寒気を伴い、中心付近には渦がある、②動きが遅い、③短時間強雨など激しい気象現象に加え、冬期には大雪をもたらすことがある」ことを、事例を交えて紹介しました。
 寒冷渦は中層や上層では低気圧性循環(渦)が顕著であっても、地上低気圧は明瞭ではない場合があります。寒冷渦のモニタリングには、今回紹介したような高層天気図のチェックが有効です。これらの最新の高層天気図は、気象庁のwebサイト等に掲載されており、いつでも見ることができます。

今回の豆知識で参考にした図書等

・小倉義光(1994) お天気の科学-気象災害から身を守るために-,森北出版
・気象庁のwebサイト
・長谷川隆司,上田 文夫,柿本 太三(2006)気象衛星画像の見方と使い方,オーム社
・松本誠一(1987)新総観気象学,東京堂出版

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